大学の中では学べなかったこと
 滞在中、いわき市でホームステイを体験できた。福島医大の学生は、地域のご家庭にホームステイしながら地域医療実習を行うことができるという。地元のご家庭で寝食を共にし、そこから地域の医療機関に通うことで、住民の目線にできる限り近いところから、その地域の医療を、さらには、その地域そのものを見ることができる。ときには患者ともなる地域の方々の実際の生活を垣間見る絶好の機会になり、また、地域でどのような問題が起こっているのか、それがどのような健康上の問題につながっているのかを知ることもできる。特に、東日本大震災で甚大な被害を受けたいわき市のご家庭に滞在できたことは、私にとって得難い経験となった。

 4日間の滞在中に参加したTVカンファレンスや講座の指導医からのレクチャーで学んだことは、どれも、ありふれた日常の健康問題を題材としていた。それにも関わらず、これまで大学で詳しく学ぶ機会がなかった内容であった。大学の臨床実習では、稀な疾患や各科の専門的な治療には詳しくなっても、「ありふれた」疾患についての知識はなかなか増えない。当たり前のことだが、大学病院にそのような患者が少ないからである。大学病院だけで卒前教育をすることの限界がここに見えてくる。

 また、高齢化が加速度的に進む日本では、患者の多くを高齢者が占める。高齢者は、複数の健康問題を抱えているのが常であり、家庭医はこういった患者のケアにもっとも適した専門家ではないだろうか。日本では、プライマリ・ケアの能力について、大病院の各科の専門医でも開業すれば自然に身に付く程度のもの、と従来の専門領域に比べ軽視する風潮が根強いが、世界的にみれば、家庭医療の専門性は広く認識されている。家庭医療の専門研修や生涯教育のカリキュラムが、日本以外の多くの先進国では、医療制度や医学教育制度の中にきちんと位置付いている。

 一学生が生意気にと思われるかも知れないが、これから医療現場に入っていく立場として、現場では必要性が増していくばかりにみえる家庭医療の専門家を育てる体制が、日本ではあまりに整っていない現状に大きな不安と疑問を感じている。

何より心に残ったことは…
 「教育によって、一緒に仕事をする仲間が増えてくれれば、それは福島にとってもちろんプラスだ。しかし、福島で教育を受けた人が、もし違う地域に行ったとしても、それは福島とのつながりを持った人が増えるということであって、長期的に見れば必ずそれも福島にとってプラスになる。私たちは、そのような教育をしなければならないし、逆に、それができなければ、福島はだめだと思う」

 これは、今回の滞在中に聞いた福島医大の先生の言葉である。私はこの言葉を聞いて、2年前の夏を思い出した。福島へのきっかけとなったセミナーで講師のある先生がおっしゃった言葉だ。
 「こうやって家庭医療に興味を持って、セミナーに参加している若い人が将来、家庭医療の世界に入ってくれればそれはすごく嬉しいことだ。だけど、例えその人が家庭医にならなくて、他の科の専門医になったとしても、それはそれですごい嬉しいことなんだ。なぜなら、家庭医療に理解のある専門医が増えるっていうことだからね。それは、おれたちにとってプラスなんだよ」

 何より心に残っていることは、福島で出会った先生方が、とても楽しそうであったことだ。仕事を楽しんでいる。その姿を見せることが本当は一番の教育なのかもしれない。