これと並行して、反対派の先生方にも連絡を取り、ご講演をお願いしたのですが、残念ながらどなたにも引き受けていただけませんでした。そこで当初の予定を変更し、参加者が谷口先生のご講演を聞くことで、谷口プロジェクトを題材に「災害時、医療者に何ができるのか」を考える企画としました。

 そして7月24日の勉強会当日。谷口先生のご講演では、先生が震災直後、谷口プロジェクトの活動を始められた経緯とプロジェクトの現状について語っていただきました。当日先生が使われた資料などは医学生の会ホームページ( http://students.umin.jp/kikaku.html#no.14)で公開していますので、詳しくはぜひそちらをご覧ください。

谷口先生に自己血採取の提案を決意させたもの
 ご講演の中で、強く私の心に残った点があります。それは、谷口先生がプロジェクトを提案されたきっかけについてのこんなお話でした。

 震災発生直後、東京もかなり揺れました。虎の門病院の病棟では、看護師たちが避難もせず、必死で入院患者の安全を確保するために働いていました。

 その姿を見て強く感じたのは、たとえ自分の命が危険にさらされていようとも、現場にいる当事者は自分の仕事に一生懸命になってしまうものだということです。だからこそ、第三者がその安全と健康を考えなければならないのだと。

 では医療者である自分はどうなのだろうか、原発作業員の安全と健康のために何かをなすべきではないのか、と思ったのです。

もしあなたが原発作業員だとしたら?
 勉強会には医学生や医師を中心に様々な立場の方が参加しました。参加者の方々にお願いしたアンケートでは、「もしあなたが原発作業員だとしたら、この方法を利用したいと思いますか?」という問いに対し、有効回答があった21人中19人が「はい」と答え、2人が「分からない」と答えました。「分からない」理由として、「被曝線量が不明だから」「(この方法が)反対される理由を知りたい」とありました。

 実際に勉強会を開いてみて一番驚いたのは、参加者の3分の2以上が谷口プロジェクトの存在自体、知らなかったと答えたことです。会の終了後、参加者から「もっと詳しく知りたい」という声を頂きました。原発作業員の置かれている現状については、さらなる情報公開と報道、そして、公開の場での幅広い議論が必要なのではないでしょうか。

 谷口先生のお話を聞いた私が、現時点で参加者向けアンケートの「もしあなたが原発作業員だとしたら、この方法を受けてみたいと思いますか?」との問いに答えるとすれば、迷わず「はい」と答えます。現場の作業環境、被曝線量が不明であり、高線量被曝のリスクが否定できない以上、私なら自己血で自分の命を自ら担保したいと思います。家族が原発作業員だったら、絶対にやるように勧めるでしょう。

想定外の事態に直面したとき、医療者に何が求められるのか
 医療の現場では、想定外の出来事が少なからず起こります。人の命がかかっている以上、見切り発車で医療行為を施すことは避けるべきですが、時として、走りながら考えなければ間に合わない状況もあります。今回の原発事故は、まさにそれだったのではないでしょうか。

 医療現場で、治療方針を医療者側だけで決めて患者や家族に断りなく進めることが許されないように、今回の問題についても、一部の専門家だけでなく、当事者や専門外の方の意見も広く聞きながら議論を続けることがより正しい選択につながるのではないかと思います。今回、反対派の先生のお話をお聞きできなかったことは、その意味で、とても残念でした。

 起こり得ないはずの原発事故が現実のものとなった今、原発作業員の高線量被曝が絶対にあり得ないとは言えません。事故があってからでは遅い。そのことは今回の原発事故で経験しました。谷口プロジェクトの勉強会を通じて、私たちが将来医療者となって医療行為を行っていくとき、想定外の出来事にどう対処していくべきなのかを、深く考えさせられました。今後も考え続けることになると思います。

医師のキャリアパスを考える医学生の会について

 医師のキャリアパスを考える医学生の会(「医学生の会」)は、医学生が医療について自ら学び、考え、発信するための、医学生によるネットワークです。国内外の74大学に850人以上の会員がおり、勉強会やシンポジウム、ツアーの開催のほか、学会発表、パブリックコメントの提出など、様々な活動を行っています。具体的な活動内容やこれまでの実績は、医学生の会ホームページ( http://students.umin.jp/)をご覧ください。
 日経メディカル オンライン(NMO)の「私の視点」や、若手医師・医学生向けサイトCadetto.jpの「体験リポート」で不定期に記事を公開しているほか、「心に刺さったニュース」の執筆も担当しています。
 活動の核は「公開勉強会」の企画と開催です。これまでに13回開催しましたが、テーマは新生児医療、移植医療など、医療界と社会の接点において生じる問題を提起するようなものを取り上げています。講師をお呼びし、誰でも希望すれば参加できる公開勉強会は、立場も様々な多くの方と問題意識を共有しながら学べる点で、最良の形式だと考えています。