「医師のキャリアパスを考える医学生の会」は2011年7月24日(日)、東京女子医科大学で「谷口プロジェクト」の勉強会を開催しました。虎の門病院血液内科部長の谷口修一先生をお招きし、原発作業員の自己末梢血幹細胞の採取を提唱し推進する「谷口プロジェクト」についてお話を伺いました。

 今回、谷口プロジェクト勉強会を開催するに当たっては、医学生の会スタッフの間でも多くの議論と試行錯誤がありました。問題の複雑さに、一時は開催を断念しようかと思いました。しかし勉強会を終えた今、事の発端から、勉強会の開催、そして参加者の反応までの経緯をご報告することで、さらに多くの読者の皆さんと問題意識を共有できるのではないかと考えています。

(上)講師の谷口修一先生、(下)講演の様子、(右)筆者

なぜ「谷口プロジェクト」を学ぶのか
 「谷口プロジェクト」とは、虎の門病院血液内科部長の谷口修一先生が筆頭となって推進していらっしゃるプロジェクトです。今現在、福島の原子力発電所で冷却作業に当たっている原発作業員の方々の、万一の際の高線量被曝に備え、自身の造血幹細胞を採取し、凍結保存しておけるよう支援する、という目的を掲げています。

 高線量被曝の治療ではまず造血幹細胞の移植が必要ですが、他人の造血幹細胞を移植して助かった例はこれまでにありません。それは、HLA(ヒト白血球抗原)が一致する提供者の確保に時間がかかること、移植後に免疫反応(移植片宿主病)が起こることなどの様々な問題が生じて、治療が難しくなるからです。そこで、事前に自身の造血幹細胞を採取、保存しておき、万一高線量被曝をした場合には自分の造血幹細胞を移植する、というのが谷口先生の提案なのです。

 谷口先生が提案する造血幹細胞の採取法「末梢血幹細胞採取」は世界中の多くの国で実績があります。日本でも「他人であるドナーから、患者に移植する造血幹細胞を採取する」という目的の場合については、2000年から保険適用になっており、兄弟間の移植では主流を占めています。健常なボランティアドナーを対象とする骨髄バンクでも、今年から末梢血幹細胞採取を開始しています。しかし、世界的にも「万一の事態に備えて自己の造血幹細胞を採取する」という目的の下で行われた前例がないことから、賛否が分かれています。

 賛成派の主張は、急性放射線被曝の治療に関する国際的なガイドライン(J. K. Waselenko, et. al., Medical Management of the Acute Radiation Syndrome; Recommendations of Strategic National Stockpile Radiation Working Group, Ann Intern Med. 2004, 140, 1037-1051)に、今回谷口プロジェクトが提案している内容が合致していること、また実際に、原発作業員には高線量被曝の危険性があると考えられること、などです。

 一方、反対派の主張は、谷口先生の提案する方法は、コストがかかる割に適用範囲が狭いこと、実際に原発作業員が造血幹細胞移植を必要とするほどの被曝をすることがないと考えられること、などです。

谷口プロジェクトとの出合い
 私自身が谷口プロジェクトのことを知ったのは、2011年4月頃のことです。Twitterでプロジェクトのことを偶然に知り、「こんな画期的な方法があるのか!きっと広がっていくのだろうな」と感じました。