放射線医学総合研究所の重粒子線棟。この中で重粒子(炭素イオン)が加速されているという実感は、正直湧きませんでした。とにかくどの機械も大きく、迫力満点でした。

 重粒子線治療装置は日本に3か所あるほかは、ドイツに2か所、中国に1か所しかないそうです。しかも、普段機器が稼働している間は立ち入りができないため、とても貴重な見学の機会でした。

放射線治療を支える「チーム医療」
 このような圧倒的な機器群を見て改めて私は、放射線治療は機械あってこその医療であることを実感しました。1日目の病院見学で案内してくださった癌研有明病院・放射線治療科部長・小口正彦先生の言葉が、強く心に残りました。

 「治療機器が壊れたら、僕たちは何もできない。ここでは、たとえ夜中に機器が故障してもメーカーの人が駆けつけて、翌朝の診療までに直してくれる。そうした人たちがいるからこそ治療が出来るということを忘れずにいてほしい」
 
 医学生や医師の立場では、治療というとどうしても「対患者さん」の局面だけを想定してしまいがちだと思います。しかし放射線治療のように、治療機器や、機械のメンテナンスをする人がいるからこそ成り立つ治療があり、そのために、先に触れた医学物理士のような、医師とは違う立場の専門家が必要になるのです。
 
 放射線治療の技術や機器は今後ますます進歩していくと思いますが、それらが医療現場で役立つように管理する人、そしてその人たちのサポートを受け治療にあたる医師など、すべての役割がかみ合って放射線医学は発展していくべきなのだ、と強く感じました。

放射線医学総合研究所の緊急被ばく医療施設で。二次被爆を避けるための防護服は、想像していたより軽装備に感じられました。

放射線医学への理解を深めた2日間
 ツアー後、参加者のアンケートを集計してみると、放射線・放射線医学に対するイメージが大きく変わったという声が複数ありました。

 例えば、ツアーに参加する前の印象については「放射線治療は副作用が危険というイメージ」(2年生)「(長崎出身なので)放射線と言えば原爆のイメージしかなかった」(2年生)といった声がありました。
 
 しかしツアー後の印象については、「今後癌患者が増えていくことを考えると、患者に優しい治療ができる放射線治療に魅力を感じた」(2年)など、かなりポジティブな印象を受けた様子が伺えました。なかには「放射線治療医になりたいという思いが強くなった」(4年)という参加者もいました。

 一方で、現在放射線医や医学物理士などのマンパワー不足、あるいは充実した機器のある病院が限られていることについて、「(将来放射線医になることを考えた時、)満足のいく研修プログラムが受けられるかと思うとためらう」(5年)との意見もありました。

 一方で、現在放射線医や医学物理士などのマンパワー不足、あるいは充実した機器のある病院が限られていることについて、「(将来放射線医になることを考えた時、)満足のいく研修プログラムが受けられるかと思うとためらう」(5年)との意見もありました。

 今回のツアーでは、これまで放射線医学についてあまり考えたことがなかった多くの医学生が、放射線医学の魅力を実感し、興味を覚え、日本の放射線医学に今後何が求められるのか、という問題意識を持つことができました。

 放射線医学が社会の需要に十分応えられるようになるには、人的リソースの増強や機器の整備などがまだまだ必要ですが、未来の医療を担う医学生の意識が変わることは、これからの日本の放射線医学の発展に大きく貢献する、と私は信じています。