放射線治療への期待と課題
 1日目の最後は特別講演です。今年は京都大学の平岡眞寛先生が、放射線治療の現状や今後の展望を熱く語ってくださいました。

 講演の冒頭、「2人に1人は癌を患い、3人に1人は癌で亡くなると言われるように、癌はまさに国民病である。それと同時に『癌は医療が最も貢献できる病気』である」というお話がありました。癌は死に至るような重い病気ではありますが、上手く治療できれば半分の方が救われます。このような病気は、ほかにないということです。

 またIMRT(強度変調放射線治療。複数のビームを組み合わせ、かつ金属の板・マルチリーフコリメータを照射中に移動させることで放射線に強弱をつけ、腫瘍の形に適した放射線治療を行う新しい照射方法)や、分子生物学における数々の新発見により、癌の研究がますます進んでいるという話がありました。

 放射線治療といえば、すでに様々な最先端機器が開発され、完備しているかのようなイメージがありましたが、まだまだ新たな機械や技術の開発が続いている現状を知り、驚きを覚えました。 数年後に自分が臨床現場に出て働く頃には、さらに新しい放射線治療の形が出来ているのだろうなぁ、と想像を膨らませながら聞きました。

 平岡先生は、放射線医学の抱える問題点として、圧倒的に不足するマンパワーの問題を挙げました。治療効果の高さと侵襲性の低さを理由に、放射線治療を受ける癌患者さんは年々増えています。しかし、日本の外科医は約10万人といわれているのに対し、放射線治療医は約600人しかいません。2015年までに2000人の放射線治療医が必要とされていますが、それには程遠い状況です。

 また、欧米では大勢の「医学物理士」が放射線医学の現場で活躍していますが、日本の医学物理士は150人ほど、それも正式な国家資格ではなく、実際に病院に勤務している方もごくわずかだそうです。本来癌治療の礎となるべき腫瘍学(oncology)の専門家がほとんどいないことなども教わり、日本にはまだまだ足りない点が多いことを実感させられました。

 参加者の大半は、大学で放射線の講義をまだ受けていない2年生でしたが、平岡先生は終始、非常に分かりやすく噛み砕いた言葉を使って説明され、参加者からは「非常に面白かった」と好評でした。

癌研有明病院の見学。「照射のシミュレーションを行うための機器だけで1億円」…桁違いのコストに、参加者一同ショックを受けました。

120×65メートルの治療機器に圧倒
 今回のツアー中、放射線治療に使う機器をたくさん見ることができました。1日目の癌研有明病院見学では、リニアック(外照射用の直線加速器)やラルス(子宮がんや食道がん、頭頸部がんなどの小線源治療用の装置)、治療計画用CT(断層撮影装置)などです。

 患者さんが呼吸すると病巣も動きますが、それに合わせて照射位置を動かせるなど、一つひとつの機器に工夫があることに驚きました。さらに驚いたのはコストです。照射の位置決め(シミュレーション)をするための機器だけでも1億円、という説明を聞いて参加者の多くが思わず声を上げました。

放射線医学総合研究所の重粒子線棟はサッカー場ほどもあるので、見学前にミニチュア模型で全体像をつかみました。

 2日目は放射線医学総合研究所で4施設を見学しましたが、特に印象が強かったのは、重粒子線がん治療装置 (Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba : HIMAC)が収められた重粒子線棟です。120×65メートルと、サッカー場ほどの大きさがあり、一周するにも時間がかかるHIMACを目の当たりにして「治療室のベッドで照射を受けている患者さんは、壁の向こうにこんなに大掛かりな機械が動いているなんて、想像もつかないだろうなぁ」と思いました。