勇人君は次のように説明してくれた。

●早く診療科を決めた人
⇒自分の選択した診療科のことが気になり、それ以外は消化試合になる。

●診療科を決めきれない人
⇒候補の複数の診療科を8月までに、ローテートしたい。
⇒ローテート変更して、細切れに研修しなければならない。

●ローテート変更のできない病院で研修している人
⇒大変。自分が経験してない診療科を選択することは少なくなるのではないか。制度上、内科や救急は1年目で経験するからいいが、他の科を経験したい場合、早めにローテートしておきたいが、できないなら、どうしようもない。

「確かに。勇人君の分析は鋭い」
「全国の研修医の中で、困ってる人、結構多いと思いますよ」
「決めきれない人にはつらいね」
「そっすね〜」
 実際、幅広く回って臨床能力を高めるのが初期研修の目的なのだから、専門科を決めるのは、せめて2年次の10〜12月くらいにするべきではなかろうか 。
 僕は、カナダへ医学教育を学びに留学した。カナダでは自分の専門診療科を医学生の時に決める。医学部最終学年の4年生の1月中旬から2月初旬までがマッチング面接期間。全国の大学が一斉にマッチング面接を行う(診療科の研修プログラムを持つのは原則として大学のみで、いわゆる市中病院は大学のブランチとしてプログラムに参加することが多い)。そこで将来の診療科を決めなければならない。
 つまり、進路を決めるのは卒業(6月)の4〜5カ月前。カナダの医学部生は卒業前に日本の初期研修レベルの経験は積んでいるという印象で、単純な比較はできないものの、機構が示す初期研修2年目の9月〜10月という時期の採用試験は少し早過ぎる気がする。

 勇人君の話はまだ続いている。もうすぐタクシーはK病院に着く。そろそろ、これから始まる外来業務の打ち合わせをしなければならない。
「じゃあ、この続きは外来研修が終わってから、飲みながらやるか?」
「いいですね〜。一度大学に帰りますから、遅くなりますが」
「OK。じゃあ、思案橋に午後9時で、よかですか〜」
「了〜解っす」
「じゃあ、外来必携本のここを読んで、業務の流れを復習しておこう」
 勇人君はいつものようにさわやかな笑顔を取りもどし、テキストを読み始めた。雨は小降りになってきた。無事に外来を済ませた今夜、勇人君をどこへ連れて行こうか、思案にふける。
 長崎一の歓楽街・銅座へつながる思案橋。江戸の昔は遊郭があり、幕末の志士たちも集ったという。高杉晋作や坂本龍馬も悩みながら飲み明かしたのだろう。
『行こか戻ろか、思案橋』
 行こか戻ろか、専門医。さて、どうなることやら。

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