初期研修と比べて、後期研修は医者のその後の生き方に大きく影響する。
 ある意味、最後の大きな選択でもある。小学校を選び、塾を選び、中学、高校を選び、理系を選んで、医学部へ。初期研修先を選び、医者にようやくなった。ここまでは、皆ほぼ同じである。ここからが、それぞれのプロフェショナルの道に分かれる。もちろんこれからもいろいろ選択をしなければならないが、医師人生を決める最大の選択のひとつであることは間違いない。悩んで当たり前だ。

 話が重くなってきた。ちょっと、話題を替えよう。
 トーマス・グラバーが作った日本で初めての西洋式ドックの脇を走る。
「ここ、世界遺産なんだよ。去年タモリさんが、『ブラタモリ』で来て」
「……」
 あれれ…、ほとんどの研修医はスマホを取り出して写真を撮るのだが…。勇人君は食いつかない。彼の悩みはかなり深いようだ。それから病院に着くまで、勇人君の立て続けの質問に、僕はほとんど答えになっていない答えを返していた。

 勇人君の質問と僕の私的な回答(6月16日現在)をまとめると、大体こういった内容だ。

Q1:診療科を決めきれないが、今年から早く決めなければならないのか?
A1:若干、早くなるだろう。たぶん。日本専門医機構が主体の新専門医制度が流れたとしても、学会が主体となれば、学会が試験期間を設定する可能性がある。9月前後が予想される。例年だと、迷って、年末とか年を越して決める人がいたが、今年はそれは危険。なぜならば、必ず二次募集があるとは保証されていない。

Q2:志望先の二股はかけられるのか? 例えば、長崎A病院の小児科と関東B病院の整形外科といったように。
A2:機構が主体とならなければ、可能だろう。たぶん。研修医が二股、三股をかけて応募しても、誰もチェックのしようがない。でも、結局はひとつに絞らなければならないので、やめたほうがいい 。もう学生ではないし、医者の世界は狭いので、非礼になることは避けるべき。

Q3:研修プログラムごとの募集定員は 限られているか?
A3:わからない。まったく。機構が主導して、定員を決めるはずだったが、それが流れそう。学会が主導した場合、各学会で異なる可能性もある。現時点では、いくつかの学会は独自に決めるという噂もある。

「結局、何にも分かっていないということですか?」
「すまない。そうなんだ」
「先生が謝る必要はないんですが、ちょっと、腹立ちますよね。完全に研修医の声は無視されてますよね」
「そうなんだ」
「おかしいですよね」
「おかしい」
 誰に向かってこの思いを伝えればいいんだろう。僕たちは雨の降る海を眺めるしかなかった。勇人君の思いはまだある。
「後期研修先を早く決めることは、初期研修の質を落としますよ。幅広くローテートするという初期研修の本来の意味がなくなりますよ」
「なぜ?」