編集後記には「わが国では相変わらず自然災害の予知に重点が置かれ、災害後の国民の立ち直りについては『各自道を選べ』と八甲田山・冬の行軍的な考えがいまだにあるようです。はたして妊産婦は、欧米諸国のように再起できる支援を受けることが出来ていたか(原文ママ)」と書かれていました。

 この疫学的調査の報告が出たのは1996年です。なのに、どこの地方行政でも、母子が避難できる母子救護室を設置する、携帯電話番号を含めた母子手帳の情報をオンラインで保存しておき、災害直後には真っ先に妊婦さんの所在を把握する、災害後は妊産婦さんを優先的に避難させる、医療機関や行政、保健センターが連携して妊婦健診や分娩担当施設を決める、などの災害時の妊産婦への具体的な対策はとられていなかったのです。

 震災直後にこの内容が分かっていたら、県庁や市役所に行った際、もっと強く「妊婦さんや乳幼児連れの家族を強制的に避難させましょう」と言えたのに、と悔やまれました。この疫学調査報告書が公的な提言として活用されるよう、チェックリストの形にして各災害拠点医療機関に装備すること、オンラインで誰もがアクセスできる形にすることが次の課題です。

来る災害時に備え、ぜひご覧ください!
 今回、PCAT(日本プライマリ・ケア連合学会東日本大震災支援チーム)では被災地に派遣される医療者向けに、具体的なノウハウを盛り込んだ研修資料と動画を作りました(文献12)。プライマリ・ケアだけでなく、災害時の妊産婦さんがどのような助けを必要としているか、産婦人科医師以外の医療従事者でもできる診察方法なども盛り込んであります。

 また、今回、被災地支援で使った、妊産婦や乳幼児用のアセスメントシート(国連が使っているものと同じ形式で作りました)もここでシェアしたいと思います。PDFを用意しましたので、ダウンロードしてお使いください。こうしたコンテンツを、災害時に誰もがすぐ入手できるような場所に置いておくことも、大切な課題です。

 被災地支援で使った、妊産婦や乳幼児用のアセスメントシート(PDF形式)

 災害時にすぐに役立つ医療支援プロジェクト・マネジメント。書籍の出版やオンラインコンテンツに関しては無知な私ですが、良い方法をご存じの方は是非お知らせください!

参考文献

(文献1)Callaghan WM, Rasmussen SA, Jamieson DJ et al. Health Concerns of Women and Infants in Times of Natural Disasters: Lessons Learned from Hurricane Katrina. Maternal Child Health Journal (2007) 11:307-311 (PDF文書)

(文献2)Glynn, LM, Wadhwa, PD, Dunkel-Schetter, C, Chicz-DeMet, A, Sandman, CA. When stress happens matters: Effects of earthquake timing on stress responsivity in pregnancy. American Journal of Obstetrics and Gynecology 184 (2001), 637-642. (PDF文書)

(文献3)Chang, HL, Chang, TC, Lin, TY, & Kuo, SS. Psychiatric morbidity and pregnancy outcome in a disaster area of Taiwan 921 earthquake. Psychiatry and Clinical Neurosciences (2002), 56(2), 139-144.

(文献4)Anwar J, Mpofu E, Matthews LR, Shadoul AF and Brock KE. Reproductive health and access to healthcare facilities: risk factors for depression and anxiety in women with an earthquake experience. BMC Public Health 2011, 11:523 doi:10.1186/1471-2458-11-523 (文書)

(文献5)World Health Organization: Monitoring and Evaluation of Maternal and Newborn Health and Services at the District Level: Technical Consultation Meeting Report 5-8 December 2006.

(文献6)Janeric DT, Stark AD, Greenwaldm P, Burnett WS, Jacobson HI, McCusker J: Increased Leukemia, Lymphoma, and Spontaneous Abortion in Western New York Following a Flood Disaster. Public Health Reports 1981.

(文献7)Hibino Y, Takaki J, Kambayashi Y, Hitomi Y, Sakai A, Sekizuka N, Ogino K, Nakamura H: Health impact of disaster-related stress on pregnant women living in the affected area of the Noto Peninsula earthquake in Japan. Psychiatry and Clinical Neurosciences 2009, 63(1):107-115.

(文献8)兵庫県産婦人科学会、兵庫県医師会:阪神・淡路大震災のストレスが妊産婦及び胎児に及ぼした長期的影響に関する疫学的調査報告書 1996

(文献9)「災害体験に学ぶ(妊婦や乳幼児の保護者に伝えたいこと)」「妊産婦・乳幼児を守る災害対策ガイドライン」 東京都福祉保健局 少子社会対策部 家庭支援課 母子保健係 平成19年3月(文書)

(文献10)The Minimum Initial Service Package (MISP)

(文献11)“Sphere Humanitarian Charter and Minimum Standards in Disaster Response (so-called: Sphere Handbook)”

(文献12)日常診療に役立つ災害医療の知恵(ケアネット医師会員限定) (文書)