このような知識は、常識となってほしい。そして、同じことを繰り返さず、次の災害時に、子供を抱える母親の1人でも多くが、1秒でも早く、適切なケアを受けられるようにしたい。そのためには、今回、私が多くの人々と一緒に手探りで立ち上げた妊産婦支援プロジェクトで学んだ多くのことを、記録に残さなければならないと考えています。

 医学的な知識に限りません。東日本大震災後に、どのようなネットワークを駆使して有能な人材を集め、派遣したのか。どのように地元の子育て支援システムや母子保健システムとの接点を探り、連携するに到ったのか。派遣事業には何が必要で、コストはどのぐらいかかったのか。どのようにして助成金を申請し、どの部分に使ったのか(あるいは、どの部分にこそ使うべきだったのか)…といったことも含めてです。

 また、支援体制を作り実際に活動してみて、初めて見えてきた課題や解決方法もあります。例えば、平時は思いつかなかったことですが、今回初めて実感したのが、コミュニケーション手法の重要性です。

コミュニケーションスキルは何故必要だったか
 自分から人に助けを求めることができない被災地の母親たちをみて、私が学び始めたのが「アサーティブ・コミュニケーション」でした。「人の役に立ちたい」という相手の欲求を満たしながら “心地よい頼み方”をするためのコミュニケーション手法です。加えて、支援をスムーズに受けいれるのに必要な「受援力」のトレーニング、そして、組織運営をする上でのリーダーシップやコーチングのスキルも勉強しました。

 コーチングに関しては、大震災が起こる前から、認定試験を受けるつもりで授業を受け、勉強していました。アメリカでお世話になったメンターたちが、当たり前のように「自分はコーチをつけている」という話をしていたからです。

 あるメンターは私との面談中、「10分だけ席をはずしていいかい?コーチに電話する時間なんだ」と告げ、書斎で受話器を片手に何やら楽しそうに話をして戻ってきました。「コーチって、何をしてもらう人なんですか?」と尋ねると、「自分の今いる位置、目標、すべきことが、ぶれないように伴走してくれる人なんだ。毎週10分だけ電話して、ペースメーカーにしているんだよ」と教えてくれたのです。

 仕事に限らず、減量についてコーチを頼む人もいれば、政治的な策略やリーダーシップ、自分の生き方といったテーマでコーチングを受けている人もいました。当時、患者さんへの教育や学生指導に自分の限界を感じ、押し付けや「させられ感」ではなく、個人のやる気を引き出し、その人が本気で取り組めるようにしたい、と考えていた私は、このコーチングに活路を求めたのです。

 このときに学んだ、人との接し方や個人個人に適した学習方法、相手に受け入れられやすい形で伝える方法、お互いを尊重しつつ建設的な方向に進める議論の仕方などは、被災地支援のプロジェクト・マネジメントでも、予想以上に役立ちました。被災地のママ向けセミナーや支援医師向けの会でも、実用的なスキルだと喜ばれています。被災地支援プロジェクトをきっかけに、それまで不案内だったコミュニケーション手法を学んだことは、私の人生にも、大きな影響を与えたと思います。