前回の記事「被災地での妊婦さんケア 3つのキーポイント」でご報告しましたが、私は4月1〜3日の3日間、日本プライマリ・ケア連合学会の東日本大震災支援プロジェクト「PCAT」からの派遣医師として、被災地の気仙沼や女川、南三陸地方に行き、被災地での周産期ケアへのニーズや問題点を探ってきました。

 PCAT内にはPCOT(Primary Care for All Team)と呼ばれる産科チームが発足していて、現在、被災地での産後訪問を実現するためのプロジェクトを立ち上げています。被災地でお産をし、避難所や自宅で暮らしているお母さんたちが、過度の育児不安を抱えないようサポートし、母子関係の順調な育成を助け、虐待予防につなげるという活動です。 

多くの母親が産後に経験する気分の落ち込み
 「お産はゴールではなくスタート」。これは、私自身がドイツで最初の子供を産んで初めて実感したことです。それまでは、患者さんが無事安全に出産すると、肩の荷がおりた気分になっていました。病院では、産後のお母さんが赤ちゃんのお世話で忙しそうにしている様子を目にすることもありましたが、「大変そうだけれど、幸せそう」と漠然と思う程度で、赤ちゃんと退院して行くお母さんたちのその後の生活まで思いが至りませんでした。

 しかし自分が産後の生活を経験してその考えはがらりと変わりました。出産の痛みや苦しさは産婦人科医ですからある程度予想がついていましたが、産んだ後のことは想像の外でした。傷の痛みや母乳トラブルによる乳房の痛みに七転八倒し、見かねて娘の世話を交代し、哺乳瓶でミルクを飲ませてくれた夫に、八つ当たりしたこともありました。今思えば、あれはベビーブルー(産後の気分の落ち込み)だったのではないでしょうか。

 そんなとき何よりありがたかったのは、助産師さんが産褥婦を訪問してくれるというドイツの制度です。助産師さんが毎日自宅に来ておっぱいのケアをしてくれたり、話を聞いたりしてくれました。そのおかげで、辛かった母乳育児は、徐々に楽しいものになっていったのです。

 帰国後は日本でしばらくお産の現場にかかわったのですが、ドイツでの経験をヒントに、産後1週間から2週間目に「産後検診」を設けました。日本では通常、お母さんと赤ちゃんが産後初めて病院を訪れるのは、1カ月健診のときです。産後のお母さんを1カ月も放っておかず、赤ちゃんやお母さんのケアに問題があれば早期に発見し対応できるようにしました。実際、産後検診を開始してみると、驚くほど多くの方が、産後に精神的な落ち込みを経験していることが分かりました。

池田裕美枝さん(中央)、黒川美恵子さんと東京のPCAT本部で

 そんなことがあって、何としても被災地での産後訪問を実現したいと考えています。

 宮城県で一緒にこのプロジェクトにかかわった、総合医で産婦人科医の池田裕美枝さんからいただいた最新の報告を次ページで紹介します。今一番お伝えしたい、被災地の妊婦さん、産褥婦さんの抱える深刻な問題が書かれています。いかに産後の早期からの支援が必要かがご理解いただけると思います。