東日本大震災の被災地では、
 各地の首長や行政職員、民間企業の社員、
 学生などさまざまな方々が「現場力」を発揮し、
 必死に再起しようとしておられる。

 ところが、東京の政官財の中枢にいる人たちは、
 被災地の苦しみなど、まるで他人事のように
 好き勝手なことを言っている。
 リーダーシップをはき違えた人たちの言動は、
 復興への足かせになるのではないか。
 被災地にとって、まず必要なのは、
 明日の生活を立てるために仕事を再開する「復旧」だ。
 その先に「復興」が見えてくる。

 ものごとには順番があるはずだが、
 メルトダウンを起こしつつある東京の中枢は、この順番が分からない。

 例えば、輸出産業界は、この期に及んでも
 「TPP環太平洋戦略的経済連携協定)」の参加を急げという。
 5月17日、政府は震災を踏まえて政策課題を組み直す
 「政策推進指針」を閣議決定した。
 同指針は、「国家戦略の再設計」と「財政・社会保障の持続可能性」の
 二本柱で構成されており、
 今後3年程度で「復興に必要な財源確保と
 社会保障・税一体改革を実行」すると明記し、
 消費税の引き上げを含む税制抜本改革を強調した。

 TPPについては、「交渉参加の判断時期を総合的に検討する」
 という表現で、先送りにした。農林水産業が壊滅的被害を受けた
 被災地を思えば、その復旧は日本全体の「食糧安全保障」に
 かかわるだけに、この決定は当然であろう。

 しかし、閣議決定に先立って、読売新聞(5月15日)は、
 「TPP参加で復興に弾みを」と社説に掲げた。
 「日本は貿易自由化に備えながら、震災復興も後押しする
 経済活性化策を打ち出すべきだ。TPPへの参加がその軸になる」と記している。
 また、日本経団連の「経済Trend」4月号は、
 「TPP交渉への早期参加が日本の未来を切り拓く」との特集を組んだ。

 大震災は、私たちに農業や漁業の大切さを改めて教えてくれた。
 そこには何代にもわたって、津波の脅威と闘いながら生業を営んできた
 人びとの歴史と、文化と、何よりも安全で、おいしい食べ物があった。

 この豊かな生業をどう取り戻すかが、最優先ではないのか。
 食という人間の基本をおろそかにして、通商もへったくれもあったものではない。
 健康の基本は食べ物なのだ。

 JAグループは、震災を踏まえて、「農業復権」に向けた提言をまとめた。
 そこでは、「TPP交渉への参加を検討する動きがあるが、これは被災地の
 農林水産業従事者の気持ちをくじくことになり、復興の足かせとなる。
 ただちに中止すべきだ」と指摘している。当然であろう。
 TPP推進派は、火事場泥棒のようなことをしないでいただきたい。