討論では、各パネリストが語ったIT活用の現状をベースに、導入を促進させるための議論が行われた。現状にどのような問題があるのか、どこに解決策を見出すことができるかなど、各パネリストの立場から、さまざまな意見や見解が出され、多くのテーマが話し合われることとなった。
国立大学の医療情報学の視点、私立大学や民間病院の経営の視点、現場の看護の視点などのそれぞれの立場での医療ITとの関わりや取り組みが発表されると、異なる視点からの疑問や問題点が見えてくる。まず最初に、診療録をデジタル化せずにスキャナーで読み込む方式を取っている東海大学病院の方式について開原成允氏から質問が投げかけられ、診療録のデジタル化の必要性やクリティカルパスのあり方について討論が行われた。
開原氏 東海大学病院は、大変素晴らしいシステムで、本当に必要なところだけにITが使われていると思います。ただ、ひとつだけ気になるのは、これから本当の意味でのマネジメントをやるには、細かなデータが必要になってくるという点です。オーダリングのプラスアルファとして、自動的に細かなデータが取れれば、マネジメントに非常に役に立つと思うのですが。
田中豊氏 私が強調してお見せしたかったのは、診療録のデジタル化にこだわるのではなく、ドキュメントをスキャナーで読み込んで流通させるというところです。1995年からログを記録して解析しているので、データの把握はできています。いわゆる治癒成績については把握しづらいという問題がありますが、これはむしろデジタル化したからできるというものではなく、人の動きが悪いところや担当者に言わないと変わらないところが問題であると考えています。その意味では、診療録のデジタル化を行わなければ経営できないというレベルには達していないと言った方がいいでしょう。
開原氏 将来的に紙を完全になくしていくという方向を考えたときにも、やはり診療録の電子化は意味がないとお考えでしょうか。
田中氏 証拠保全などのためには未だに紙が必要なので、紙が完全になくなるとは思いません。また、業務設計を行うときや非定形の業務を開発するときには、試験的に紙をまわしてみたり、紙によるテスト運用をしてみることが非常に有効です。キーボードを打てない場面やドタバタしている場合も病院内にはあるでしょう。
逆にお聞きしたいのですが、クリティカルパスは実施記録も兼ねていたほうが好都合ですよね。であれば、紙に出力してそこにチェックを入れ、最後にスキャンして終わりにした方がはるかにスムーズです。クリティカルパスも電子カルテもやる、というのは矛盾していると思います。クリティカルパスに関しては、東海大学病院の運動性能が低いときに作るのはマイナスだと考えてやっていないのですが、今後は必要なのでアドバイスしていただきたいと思います。
武田裕氏 日本の現状では、まだまだクリティカルパスに関する議論が不十分です。産業界でのプロジェクトマネジメントのためのクリティカルパスのような機能的なものはまだありません。しかし、熊本済生会では、「日めくりパス」を含めたIT化が行われ、実施記録なども入れることによってクリティカルパスと電子カルテの一体化が行われています。このように、紙に残さないでIT化することには意味があると思うのですが。
診療記録のIT化推進が求められる背景には、診療業務の標準化ができていない、診療記録がきちんと残されていない、日本で臨床研究がほとんどできていない、というような問題があります。疫学に使える診療情報を蓄積するためにIT化する必要があるのです。病院の中だけでもある程度の標準化をすることで、臨床的に使えるデータベースとして使うことができます。
田中先生の場合はIT化の目的が明確で、今の段階で診療記録をデジタル化しても使えないから必要ない、というのは適切な判断です。しかし、それとは別に、診療情報のIT化というものを議論する必要があると思っています。
神野正博氏 私のところでは100以上のパスを作っています。DPC以降、在院日数も短くなり、入退院が激しくて医師も看護師も不足しているという中で、パスが威力を発揮しています。パスは看護計画や看護診断をすべて含めた標準セットであり、電子化すれば医師が1回クリックするだけですべての業務が遂行されるようなツールになると考えています。