南三陸診療所(宮城県南三陸町):クラウド環境で実現した被災患者の循環器リスク予防

遠隔支援と血圧データ管理、限られた医療資源で効率的な医療を提供

●早い段階の介入が効果、継続したモニタリングが重要
 

公立南三陸診療所内科医の西澤匡史氏

 D–CAPの目的は、当初はハイリスク患者をスクリーニングして、リアルタイムに現地の医療者にフィードバックし、対象患者の血圧を直ちにある程度の安全圏に誘導することだった。現在では、降圧基準値を下げながら良好な血圧コントロールのために利用することが主目的になっている。

 「震災直後はストレスなどの影響も大きく、突出した血圧値を示している患者さんが非常に多かった。マンパワーの問題もあったため血圧管理の対象を180mmHg以上とし、きわめてリスクの高い人だけを対象に介入することを最優先しました。その後、基準値を160mmHg、140mmHgと下げています。診療間隔に関しても、リスクの高い患者さんは隔週で来院を促し、安定するにつれ月1回の診察へと移行しました。私個人の印象ですが、震災前と比べて心筋梗塞や脳卒中の発症は特に増えていません。早い段階で積極的に介入したことが、効果を上げているのではないかと考えています」(西澤氏)。

患者一覧画面。循環器疾患リスクおよび予防スコア、血圧データからリスクの高い患者は赤く反転表示されて、一目でわかる

 月1回の診察の場合、家庭血圧データが25回分しか記録できない血圧計であったため、西澤氏は当初データ数に不安があった。西澤氏は「実際は約2週間分のデータでも傾向はつかめました。データの取り込み、評価、患者さんへの説明・指導などの時間を考えると、ちょうど診療に支障をきたさない程度のデータ数だったかなと思います」(西澤氏)。また、月2回の外来診療は患者と医師双方にとってかなりの負担となるため、ある程度の期間を過ぎたら25データを基に月1回の診察が適度な介入だろう、とも考えている。
 

診察前血圧と家庭血圧は、システム上でグラフ化して表示できる

 D–CAPシステムで患者をモニタリングしてきた苅尾氏によると、180mmHgを超えるような患者は2カ月程度で少なくなったというが、今回の震災では血圧の上昇が先鋭化し、高い値で持続する期間が長い傾向にあったという。その要因の1つとして、生活環境の激変があるのではないか、と考えている。「南三陸町は津波ですべてが失われてしまった。家族や近所の人、コミュニティー全体が壊滅し、生きてきた履歴がすべて津波で消失してしまいました。受けた精神的ダメージが甚大で、そのストレスが大きく影響を及ぼしていると感じています」(苅尾氏)。

家庭血圧計のデータは、コンティニュアに準拠した転送方式で自動的に取り込まれる

 西澤氏は、食生活の改善が進まないことも、血圧の安定化を阻害していると指摘する。南三陸町で営業していたスーパーや商店のほとんどが被災し、未だに復興したところはない。コンビニが2軒ほどプレハブで営業を再開したものの、野菜など生鮮食料品を十分に購入できる環境には戻っていない。「バランスのとれた食生活に戻すことができない状態が続いており、患者さん自身も食事面で不安を抱いています」(西澤氏)。これから南三陸は寒さが本格化する。再び血圧コントロールに問題を生じる危険性があるのでは、と両氏は危惧している。

●さまざまな被災地域で活用を
 

被災場所のプレハブで営業を再開したコンビニエンスストア。野菜など生鮮食料品を十分に購入できる環境はなく、住民はバランスのとれた食生活に戻ることができない状態が続いている

 D–CAPシステムは、災害時の循環器疾患のハイリスク患者に対してピンポイントで医療介入し、重症化の予防に効果を上げてきた。しかも、限られた医療資源の中で効率的な疾病管理を可能にし、医療の質の維持に寄与した。西澤氏は、今後も地域住民の慢性疾患の管理に有効に活用していきたいという。

 「震災以前から、南三陸沿岸部は医師不足が大きな問題となっていました。震災により医療施設が減少し、さらに深刻化しています。高齢化はより進み、慢性疾患も増加していくことが懸念されます。D-CAPシステムは、遠隔支援を受けながら効果的な医療を提供していくことを可能にします。少ない医療資源で、診療の質を高めていけるわけです。現地の医療者と患者さんの負担を減らすことにつながり、医療費の削減にも寄与するのでは」(西澤氏)。

 一方苅尾氏は、「前例のない震災後の困難な状況にあってD–CAPプロジェクトを立ち上げられたことは、参画企業のボランティアとしての協力があったからこそ」と謝意を表する。加えて、「今回だけのプロジェクトで終わることなく、被災地域の復興計画にD–CAPネットが融合されることを希望しています。また、将来の災害を想定して、南三陸だけでなく各地で運用できる体制づくりを進めたいと考えています」と、D–CAPの普遍的な意義を強調した。

(増田克善=デジタルヘルスOnline/日経メディカルオンライン委嘱ライター)

 


 

■施設概要
名称:公立南三陸診療所
所在地:宮城県南三陸町志津川字沼田56
診療科:内科、循環器科、外科、整形外科、小児科他
経緯:公立志津川病院が東日本大震災により機能喪失。2011年4月15日から公立南三陸診療所として外来診療のみを開始。6月1日からは、公立志津川病院として入院機能を提供開始した(登米市)。
導入システム:コンティニュア・ヘルス・アライアンス対応機器=エー・アンド・デイ 全自動血圧計、アライヴ「eHealthゲートウェイサーバ」など

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