山陰労災病院(鳥取県米子市):帳票や伝票の必要性にもこだわり、「紙」と「電子」の融合システムを構築

FileMakerによるサブシステムと電子カルテの組み合わせで実現

●現場主義へのこだわりと二足のわらじ型ならではの課題も

 FileMakerを使用して膨大な帳票類のシステム化は、亀田氏のような現場のスタッフが自らの業務をこなしながらワーキンググループに参画した面々。太田原氏が言うところの「二足のわらじ型臨床系初級SE軍団」である。

看護師長の亀田さつき氏

 亀田氏は実際にはFileMakerを駆使して自ら開発するところまで至らなかったというが、「ツールを作成していただくワーキンググループの医師や栄養科のスタッフに、実際の運用現場での動きを細かいところまで説明することに専念しました。部門が違うので現場を理解してもらうのに苦労はありましたが、病院業務を肌で理解していないメーカーのSEとの違いは大きかったと思います」(亀田氏)と振り返る。

 栄養管理室長の井上浩氏は、患者の身長・体重・活動量・ストレス係数から必要栄養計算、給与栄養量を自動算出する自らの部門にかかわるツールを作成した。加えて、肺塞栓症予防のために、手術・非手術例、外傷、年齢、スコアリングでリスク評価し、評価レベルを基に弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、抗凝固療法などの診療法を選択できるようなツールの作成も行った。「FileMakerの院内講習を2カ月ほど受けて、試行錯誤しながら開発しました。かつてCOBOLで給食管理システムを開発した経験があったので、FileMakerのコマンドをCOBOLのステートメントに対比させて考えながら作成しました」(井上氏)。

 業務に適応したツール開発という目的で現場主義を貫いたものの、多くはFileMaker初心者を院内の勉強会で技術を習得しながらの開発作業。アプリケーション開発の品質を管理するために太田原氏は、毎週開催されたミーティングで開発における基本手順を徹底したと述べる。

栄養管理室長の井上浩氏

 「重複入力を可能な限り排除すること、データフローを意識すること、つまり誰の入力したデータを自分が必要とし、自分の入力するデータを誰が必要とするかを常に考えて設計すること、そして必然性のない行為は現場で必ず省略されるので、その操作によって必ずメリットがあって入力しないと不都合が起きることをツール化すること。これらの事柄を常に確認するように呼びかけました」(太田原氏)。

 二足のわらじ型開発集団ならではの一番の問題は、スタッフの労働負荷の増大。そして、その労働負荷に対する対価をどうするかも問題だった。「自主開発のツールはPDCAサイクルで常に自分たちで改善・改良していくことができる利点がありますが、労働負荷と対価の問題が起こります。当院の場合は全くのボランティアでしたが、自主性に過度に依存せず、経営サイドの協力が必要だと実感しています」(太田原氏)と、現場スタッフによるエンドユーザー・コンピューティングの課題を指摘する。

 紙ベースの運用メリットと電子化のメリットを融合させた病院情報システムを現場主義で構築したことは、ベンダーの考える情報システムのあり方、手法とはまったく異なるもの。莫大なコストをかけて構築したシステムの診療業務での使い勝手が問題となるケースが多い中、山陰労災病院の事例は注目に値するユニークな取り組みと言える。

(増田 克善=日経メディカルオンライン/デジタルヘルスOnline委嘱ライター)



■病院概要
名称:独立行政法人 労働者健康福祉機構 山陰労災病院
所在地:鳥取県米子市皆生新田1-8-1
設立:1963年6月
診療科:内科、消化器内科、糖尿病・代謝内科、呼吸器内科、感染症内科、腎臓内科、神経内科、精神科、循環器科、外科・消化器内科、整形外科、脳神経外科、心臓血管外科、皮膚科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、麻酔科、検査科、歯科口腔外科
病床数:383床
外来患者数:774.6人/日(2009年度)
職員数:451人(医師70人、看護職276人、事務職33人他)
Webサイト:http://www.saninh.rofuku.go.jp/
導入システム:ファイルメーカー「FileMaker Server」「FileMaker Pro」、両備システムズ「OCS-Cube RSカルテ」

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