名古屋大学:大震災を契機に災害時病院情報統合管理システムを開発

医療施設のリソース管理で災害後の医療需給偏在解消を目指す

 当初は、病院の執務室にあるMacintoshをプラットフォームとして、同時アクセス9人という小型システムで公開。3月29日にはファイルメーカー社に協力を依頼し、データセンターにホスティングしたサーバーにシステムを移し、100人まで同時アクセスできるWebサービスとして正式に公開・運用を開始した。ちなみに、PedPowerは吉田氏が所属する日本小児科学会の公認を受け、全国規模での情報登録が推進されている。6月末現在、全国で情報が登録されている医療施設は、MedPower、PedPower、ObsPowerで約80件、CardioPowerで約530件に上っている。

●全国の医療施設のリソースがリアルタイムに一覧できる

 MedPowerなど各システムは、全国の医療施設が医療リソースをデータベースに登録することで、情報を共有できる。情報の登録・閲覧にはIDとパスワードが必要だが、Webサイトで申請できる。主な医療施設の名称や所在地があらかじめ登録されているため、情報登録の際には自院を選択すればよい。基本となる施設データは約8800件を収録した。これは、全国のDPC対象病院リストと、国際医療福祉大学大学院教授の高橋泰氏らが中心になって作成した二次医療圏データベースを基にしている。

PedPowerの各病院の情報を掲載しているページ。様々な情報が載っており、医師数やベッドの空き具合も分かる

 
 各施設が登録する詳細情報には、施設情報(施設名・住所・登録医など)や医療提供体制(施設全体)などの共通項目と、固有領域情報がある。医療供給体制ではガス・電気・水道などライフラインの状況、医療スタッフ・医療機器・薬剤の状況、外来・入院・手術・透析などの可否、制限状況といった項目がある。固有領域情報は、食料・飲料水・衣料・燃料など物資状況や災害派遣医療チームの状況など(MedPower)、専門領域・小児手術の可否・一般小児病床/NICU/PICUなどの受入れ状況など(PedPower)、分娩受入れ可否・分娩週数・分娩スケジュール状況など(ObsPower)、心臓大血管手術・PCI例、CCU(CardioPower)などだ。

 固有領域情報の中には通信欄や備考欄が設けられており、細かな情報も掲載できる。例えば、産科施設の分娩スケジュールが各月で満床状態になっていても、「被災者の分娩は別枠で受入可能」など、紹介先を探す際でも非常に有益に利用できる。これらの情報はMedPowerの施設一覧画面で、ガス・電気・水道・人員・機器・薬剤・外来・入院・手術などの状況が5段階の色分けされて表示される。

名古屋大学医学部附属病院の外観。病院の正面玄関はモダンな中にも清潔感が漂う

 PedPowerには当該施設への応援医師登録機能も持っており、医師免許番号や専門領域、応援希望期間などを記入して登録できる。その病院担当者へメールで通知され、登録派遣待ちといったステータス管理もなされる。「被災地の基幹病院には災害医療チーム派遣されますが、開業医が個人的に支援に行くのは難しい。小児科学会でも登録制度を設けていますが、なかなか機能していません。容易に申し込める手段がほしいという要望を受けて、この機能を実装しました」(吉田氏)。

 東日本大震災以降、それぞれの学会などで受け入れ可能施設などの情報を提供しているが、一覧性・検索性に乏しく使いやすいとは言えない。「例えば、日本循環器学会では、東日本大震災支援循環器ネットワークとして情報提供していますが、各医療施設が提供した情報単位でPDFに変換して掲載しています。どの学会も同様で、それぞれのサイトに行って一つひとつPDFファイルを開くしかありません。また、各施設から更新情報が寄せられたとしても、一定期間まとめてPDF化してアップしているので、情報の鮮度も高いとは言えません。全診療領域で詳細な情報が統合され、リアルタイムな情報を得られる点で、MedPowerは有用性が高いと思っています」(吉田氏)と説明する。PedPowerでは各学会へ医療資源情報を提供する機能も設けており、PedPowerに登録・更新した情報をそのまま各学会へ提供できるようになっている。

●災害に備え継続的に運用されるシステムとして周知に努める

 システム公開当初は、医療活動に追われてか情報登録する施設はほとんどなかったが、時間の経過とともに登録件数も増えている。東日本大震災は希に見る広域災害で、被災者の移動が非常に広範囲に渡っており、避難生活も長期化している。今後もしばらくは全国規模での医療資源の再配分が求められる状況に変わりはなく、登録施設が増えることによって再配分が促進される効果がある。吉田氏は、「日本小児科学会はいち早くPedPowerを認定し、会員に登録要請を出したため、登録件数が増えました。他の学会にも引き続きお願いすると同時に、システムの有用性の周知に努めていきたいと思っています」と述べる。

 吉田氏は、本システムについて、医療リソース管理のほか、災害支援システムとして自治体版や避難所版といった転用も可能だと指摘する。今回の震災でも、救援物資や支援物資が偏在化して被災者ニーズとのミスマッチが発生した。各避難所や自治体の救援支援センターなどでリソース管理システムを運用すれば、そうしたアンバランスを是正できる可能性が高い。

 「被災を体験した医療従事者としての経験を生かし、今回の大災害を契機にシステムを構築しました。ここまで細かい粒度の情報を集約したデータベースはほかになく、継続的に情報が登録・更新されてこそ真価を発揮できると思っています。救急医療への備えは、平時の継続した運用が行われてこそ役立つもので、日常的に活用できる医療リソース管理システムとして広めていきたいと思っています」と吉田氏は強調した。

(増田 克善=日経メディカルオンライン/デジタルヘルスOnline委嘱ライター


※MedPowerのWebサイトはこちらです。

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