東京慈恵会医科大学付属病院:iPhone・iPadで“時間の壁”に挑む

脳卒中治療の画像診断・治療補助システムを運用

手術中のストリーミング画像を閲覧できる

 まず、患者が搬送され、症状や画像所見で脳卒中が疑われた場合、端末アプリの「Stroke Call」を起動すると、事前に登録した救急医や集中治療医、神経内科医、脳神経外科医、放射線技師、手術・病棟看護師などの医療スタッフに同時に「Stroke Call」がかかり、呼び出し音が鳴る。関係者はi-Strokeシステムを起動し、パスワードを入力して院内のネットワークに接続して患者の到着時間や基本情報を閲覧できる。同時に複数の専門医が、i-Stroke用に生成された画像を端末上にダウンロードして画像診断する。

 「専門医や指導医が外出中であっても、Stroke Callに対応できる状態であれば、すぐに診療に加われます。若手医師からのコンサルテーションを受け、的確な指示を出すことも可能です。複数の目で見ることによって、迅速性や診断精度の向上、誤診の防止につながります」(高尾氏)。複数の専門医による診断だけでなく、脳梗塞治療にかかわる医療スタッフ全員がリアルタイムに同じ情報を共有して次々に対応することができるため、迅速な治療対応が可能になる。
 

血栓除去術中の血管造影画像を見ているところ。慈恵医大では4カ所の映像を確認できる

 チーム医療を支える機能の1つに、「ツイート」機能がある。検査結果や治療方針に対してコメントできる機能で、アクセスした医師らがリアルタイムで意見を書き込める「カンファレンス」の役割を果たす。「従来は、当直の医師が電話で、何歳の患者でどのような症状でなど、検査画像に対する意見を求めていました。ツイート機能ならば、複数で同時に連絡や意見のやり取りができるため、時間的なロスがなく、診断精度の向上と適切な治療方針を決定する時間が大幅に短縮されました」(高尾氏)という。

検査結果や治療方針に対してコメントできるツイート機能

 t-PA療法を支援する機能としては、t-PA静脈投与の投与量計算や、投与にあたっての禁忌項目・慎重投与項目のチェックリストなどが実装されている。チェックリストでは、あらかじめ登録しておいた項目の中に該当するものがあった場合は、画面が赤(t-PAが実施できない)や黄色(注意が必要)に変わり、一目で判断できる。脳卒中重症度評価スケールの1つであるNIHSS判定では、意識レベルや神経学的所見をチェックしていくと自動的に計算される。こうした治療補助機能により、「医師の経験にかかわらず、誰もがガイドラインに沿った治療を実施できることが大きなメリットです」と高尾氏は強調する。

 また、i-Strokeシステムでは発症からの時間管理もなされている。発症時間を基にした3時間のカウントダウンや、患者到着時からの経過時間が表示される。NIHSS判定の実施も、t-PA投与開始から計測して実施時間になるたびに知らせる機能がある。こうした患者の経過時間は、「Time Line bar」によって、実施された検査結果や画像情報、t-PA開始・終了など進捗状況がタイムライン表示される。これにより治療にかかわるスタッフは、経過状況を視覚的に把握・共有できる。

t-PA投与開始から計測して実施時間になるたびに知らせる機能もある。「Time Line bar」によって検査結果や画像情報、t-PA開始・終了など進捗状況がタイムライン表示される

 
 
●患者情報漏えい防止を考慮したセキュリティ対策

 画像については、i-Strokeシステムは、i-StrokeサーバーがPACSサーバーの画像をDICOM受信(Receive)してiPhone/iPad配信用画像を生成し、3Gまたは無線LAN(Wi-Fi)通信でダウンロードする仕組みを採用している。ただ、慈恵医大病院では院内での無線LAN使用は許可されていないため、利用は3G回線のみ。無線LAN対応のiPadは、院外からのアクセスに限定している。

 セキュリティ対策としては、画像や患者情報は自動で匿名化し、個人を特定できないようにしている。アクセスには、VPN(仮想閉域網)システムを導入。登録したそれぞれの携帯端末を識別するとともにパスワードを設定して、携帯端末の所有者以外はダウンロードできないようにしている。また、ダウンロードした画像は24時間以内に自動消去されるなど、セキュリティを重視したシステムになっている。

 現在、i-Strokeシステムを利用している携帯端末は、iPhone25台をはじめ、iPadを含めて約30台。そのほとんどが脳神経外科の医師で、その他に放射線科医、放射線技師などが利用しているが、すべてが個人所有の端末だ。高尾氏は「今後、脳卒中治療に関わるすべてのスタッフが利用するようになったとき、携帯端末自体を病院が導入するのか、通信費をどうするのか検討していかなければなりません」と病院全体での導入課題を指摘する。

 利用できる携帯端末は今のところiPhoneとiPadだが、将来は各社のスマートフォンに対応させる考えだ。すでにAndroid端末向けは開発中といい、近いうちに対応が実現する。今後の機能改良では、Stroke Callに応答するまで複数回コールするようにし、確実にメッセージを伝える仕組みを検討するという。また高尾氏は、「現在の3次元画像はまだ不十分な水準」という認識を持っている。今後富士フイルムの3次元画像解析システムボリュームアナライザー「SYNAPSE VINCENT」と連携できるようにして、より高度な3次元画像解析情報の配信を実現していく。

●富士フイルムとの共同研究により医療連携を視野に商品化・販売

禁忌項目・慎重投与項目のチェックリストに該当した場合は、画面が赤(t-PAが実施できない)や黄色(注意が必要)に変わる

 脳血管疾患は、日本人の死亡原因の第3位。中でも脳梗塞は毎年増加し、2020年には罹患者が300万人を超えるともいわれる。新たな治療法が開発され治癒率も向上しているが、すべての医療機関に高度な診断治療能力を持つ専門医を24時間常駐させることは難しいのが現状だ。専門医が脳卒中患者を適切に診断できる緊急時対応の環境構築が、社会的にも求められる。

 高尾氏は、i-Strokeシステムが脳卒中の急性期医療を担う多くの医療機関に普及させたいと考えている。「専門医が24時間体制で勤務していない病院に患者さんが搬送されたとしても、遠隔で画像診断だけでもできれば、転送後の画像撮影時間のムダをなくせるし、治療開始までの時間短縮ができます。少なくとも、紹介状が届くまで受入れ医療機関が何もできないという状況は解消できるでしょう」(高尾氏)。

 多くの医療機関への導入を図るための施策が、富士フイルムとの共同研究契約締結である。導入に際しては、各社のPACSとi-Strokeサーバーとの連携機能の開発が課題になる。「富士フイルムの医用画像情報ネットワークシステムは国内トップシェアで、多くの医療機関で利用されています。多くの医師に使ってもらいたいし、一人でも多くの患者さんの治療に役立てたい。そのためには、最も多くの実績を持つベンダーと組むことが普及につながると考えました」(高尾氏)。富士フイルムメディカル取締役執行役員の小林正明氏は、「i-Strokeは社会的価値の高いソリューション。われわれの技術と実績が商品化、普及に役立てられればと考えて、共同研究に参画しました」と商品化に向けた共同研究契約締結の経緯を述べる。

 商品化にあたっては、今後さらに紹介機能など病院間連携機能を付加する。また、普及に向けてできるだけ導入コストを抑えられるよう、サーバー製品は有料であるものの、携帯端末側のアプリは無料で提供する予定だ。

(増田 克善=日経メディカルオンライン委嘱ライター)


■病院概要
名称:東京慈恵会医科大学附属病院
所在地:東京都港区西新橋3-19-18(本院)
病床数:1075床(一般1026床)
入院患者数:一般病床862人、精神病床39人 外来患者数:2969人/日
Webサイト:http://www.jikei.ac.jp/hospital/honin/
導入システム:i-Strokeシステム(自院開発)

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