国立長寿医療研究センター(愛知県大府市):高齢者総合機能評価をiPadで入力

ユーザーフレンドリーな端末利用で、スクリーニングの新たな形を模索

 FileMakerベースのCGAシステム構築により、スクリーニング結果をデータ化する作業効率が向上した。患者データ1件当たりの入力は約15分程度で、以前のExcelベースのシステムより短縮された。櫻井氏は、「診察時にほぼ毎回データを参照していますが、情報量が膨大であるため、紙ベースだと棚から持ち出して見るのが非常に大変でした。Excelの表は、閲覧性が悪く見にくいという欠点があります。FileMakerになってとても見やすくなりました」と述べる。診察時はもちろん、週1回開催されるカンファレンスの際のデータ共有・参照にも便利だという。

●スクリーニング時にiPadを利用した試験運用を開始

画面上でタイムカウンターを稼働させることも可能

 ただし問題もある。スクリーニングの際は、プリントしたCGAシートを準備して、手書きで記入しなければならない。スクリーニングやデータ入力の時間短縮、入力ミス削減のためには改善の余地があった。そこで、FileMaker版CGAシステムの構築を担当したジュッポーワークス(大阪市)の提案により、スクリーニング作業の業務改善による効率化を目指し、iPadを活用したデータ入力ワークフローを構築、試験運用を開始した。

 iPadやiPhoneなどのモバイルデバイスからFileMaker Serverのファイルにアクセスして、参照・編集を可能にするのが「File Maker Go」だ。データベース上のCGAシートを、そのまま表示・編集できる機能に加えて、入力テンプレートをiPadに合わせて改造するのが比較的簡単なので、患者自身や家族に直接回答してもらうように工夫できる。

 設問に対する回答画面では、設問と選択肢を1画面に表示できる。見やすい上にタッチだけで選択できるため、ストレスの少ない入力が可能になる。また、自分の健康状態や気分を答える設問では、バー状の目盛りをタッチし、色付きのバーを動かして入力するなど、紙では不可能な入力方法を実現できる。10秒間に果物や動物の名前をいくつ挙げられるかという種類の設問もあるが、そういう場合は画面上でタイムカウンターを稼働させることもできる。

言語聴覚士の田中誠也氏

 もの忘れセンターでは、臨床心理士や言語聴覚士がスクリーニング作業を担当している。言語聴覚士の田中誠也氏は、iPadを使ったスクリーニングについて、「認知症の周辺症状を見る質問指標は、1枚のシートの質問数が非常に多いためか、紙ベースだと質問と回答の行がずれるという記入ミスが見られます。iPadなら質問指標を分かりやすく提示できるので、入力時のストレス軽減とミスの防止に効果があると思います」と指摘する。

 CGAの指標では、家族による観察を回答してもらう設問が半分近くある。ただし、家族といっても年齢層は30代から70代まで幅広い。高齢者にiPadを操作してもらうのは困難を伴うため、現在は紙の回答票と併用している。

 田中氏は、「使っていただいた家族の方には、紙に比べると煩わしさがなくなり、記入時間が心理的に短く感じるという声もあります。つまり、インターフェースを改善すれば、高齢者でも抵抗感なく使用できるのではないかと思っています。また、患者さん自身に操作させる場合も、やってみて楽しいという反応もあります」と感想を述べる。今後、スクリーニング時間短縮などの導入効果や、用紙代や人件費などのコスト効果を、実証実験で明らかにしていきたいという。

●オフライン作業と無線LANシートを使ったデータ同期を採用

無線LANアンテナを内蔵した合成樹脂製のシートにiPadを置いたところ。パスワードを入力してソフトを立ち上げて、データをやり取りする

 モバイルデバイス利用のメリットは、場所や時間を選ばずに情報にアクセスできる点だ。しかし、同センターは、あえてオフラインでiPadを使い、スクリーニング作業後にデータベースと同期する方法を採用している。

 渡辺氏は、「看護師が以前からPDAを利用しているので、センター内は無線LAN環境が整備されています。ですから、常時オンラインでiPadの使用が可能です。しかし、スクリーニングは、患者さん1人当たり45分〜1時間ほどかかります。したがって、通信環境により途中で切断される可能性があります。また、設問ごとにテンプレートをダウンロードしてデータをアップロードするというタイムラグがストレスになりかねません」と、あえてオンラインにこだわらなかった理由を述べる。また、オフライン作業ができる環境は在宅医療にも応用できるため、採用したという理由もある。

 実際の運用フローは、電子カルテシステムからFileMakerを起動し、その患者の基本情報を含んだテンプレートをiPadにダウンロードしてスクリーニングを実施。終了後、再びFileMakerにデータをアップロードして、サーバーとデータを同期させる。同センターが採用したのは、イトーキが提供している2次元LANシステム(無線LANシート)だ。

 このシステムは、無線LANアンテナを内蔵した合成樹脂製のシートを利用する。電波の有効範囲を非常に狭くしてあるため、無線LAN対応のモバイルデバイスをシート上に置いた時だけ、無線LAN通信が可能になる。面倒なケーブルやコネクタへの接続が不要であることから、ITに不慣れな看護師でも簡単に利用できるのに加えて、シートから離れたデバイスとは無線接続できないため、外部からの不正アクセスを物理的に防止できる。

 なお現時点では、すべての設問をiPadから入力することは難しいため、PCからの入力も行っている。iPadで患者のテンプレートをダウンロードした時点で、PCでアクセスしたときにその患者のファイルに「編集中」のアラートが表示されるように工夫している。

 iPadを利用したCGAスクリーニングの試験運用は、まだ始まったばかり。入力方法など改善の余地は大きいが、鳥羽氏は大きな期待を寄せている。「CGAは医療者の評判は高いものの、評価作業に時間がかかるうえに複雑なため、普及がなかなか進んでいません。当センターのような多岐にわたる項目でなく、記憶力検査などベーシックな項目に絞り、なおかつiPadのようなツールで簡単にスクリーニングが行えるようになれば、多くの医療者が容易に利用できるようになるでしょう。診療所でも簡単に実施できるようになれば、認知症医療の裾野が広がるのではないかと、大いに期待しています」(鳥羽氏)。

(増田 克善=日経メディカルオンライン委嘱ライター)
 



 

■病院概要
名称:独立行政法人 国立長寿医療研究センター
所在地:愛知県大府市森岡町源吾35番地
開設:2004年3月
患者数:473人(1日平均外来数)、229人(入院数)
職員数:医師53人、看護師207人
診療科:高齢者総合診療科、内科(内分泌)、血液内科、 精神科、神経内科など19科
Webサイト:http://www.ncgg.go.jp/hospital/
導入システム:ファイルメーカー「FileMaker Server」「FileMaker Pro」「File Maker Go」、アップル「iPad」

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