新日鐵八幡記念病院(北九州市):電子カルテ情報を診療所に公開

地域医療連携を自ら主導し地域の病院として生きる

●製鉄所の病院から地域の病院に生まれ変わる

 新日鐵八幡記念病院は、1900(明治33)年に官営八幡製鐵所の付属病院として設立された。1974年に一般市民に病院を開放し、1997年には医療法人社団 新日鐵八幡記念病院となった。25診療科、453床(急性期病床が中心)の地域中核病院で、腎センター、救急・集中治療部、脳卒中・神経センター、がん診療センター、緩和ケア病棟、亜急性期病棟などもある。2005年には地域医療支援病院の指定を受けている。

 同病院が強く意識しているのが、地域医療への貢献である。2001年には、地域医療連携室を創設した。地元の診療所やクリニックとのパイプ役を専門に請け負う部署である。業務は、紹介状のやり取り、検査予約の受け付け、病院からの情報発信、市民を対象とした公開講座の実施など多岐にわたる。現在地域連携室に登録している医療機関は、142クリニック、医師数は158人にのぼる(2010年11月現在)。

 同病院は、地域の産業基盤を担ってきている官営八幡製鉄所、新日鐵八幡製鉄所の付属病院としての長い歴史がある。そうしたこともあって、かつては「製鉄所の関係者だけを受け入れればよい」という雰囲気が支配的だったという。変化の契機となったのが、1997年の医療法人社団への組織改編。製鉄所関係者の診療だけでは経営が成り立たないという危機感が芽生え、当時の医師ほぼ全員が手分けして地域の診療所を訪問し、病院の紹介や医療連携の依頼をして回った。これをきっかけに交流が始まって信頼関係が生まれ、また互いの医療水準に関しても正確な認識を得ることができたという。

 もう一つの理由が、制度の改定である。2000年の診療報酬改定で、急性期病院加算が新設されたが、紹介患者30%以上、平均在院日数20日以下という要件があった。当時の新日鐵八幡記念病院は、いずれも要件を満たしていなかった。そこで、病院全体の方針として地域医療を積極的に推進することを決定。2000年には17%ほどだった紹介率は、2002年には40%を超え、急性期病院としての指定を受けることができた。

 東秀史副院長は「今では、90%近くが地域の医療機関から紹介された患者です。この病院で手術などの治療を受け、ある程度入院した後で、リハビリや回復期治療のために別の施設や紹介元の診療所に戻るというサイクルは、相互信頼や緻密な情報交換がないときちんと回りません。こうした点からも、地域医療連携室の活動やSMILEは非常に重要だと考えています」という。

●地域の診療所の積極的な協力を取り付ける

野田医院の西田英一氏

 では、実際にSMILEを利用している地域の診療所は、どんな感想を抱いているのだろう。野田医院の西田英一氏は、新日鐵八幡記念病院の電子カルテの内容を紹介元の主治医が直接閲覧できることで、患者の負担が減らせることを評価している。「血液検査やCT、レントゲンの二重検査が防げます。また、患者さんはどんな薬をもらったか詳しく覚えていないことが多いのですが、SMILEで見れば正確に把握できます。CTなどの画像も、入院前から退院後まで連続して閲覧できる点が良いと思います」(西田氏)。

 長村医院の長村俊志氏は、「情報共有はものすごくありがたいこと。大規模な病院の医師の方々は忙しいことが多く、質問がしづらいのですが、SMILEがあれば血液検査のデータやCT画像を診療所のPCで見られます。また、例えば糖尿病患者にがんが見つかった場合、がんは新日鐵八幡記念病院、糖尿病と高血圧は当院で、などという分担と連携が可能です」と評価する。「患者にとっても、大病院の先生に質問するのは、勇気もいるし行く手間もかかります。SMILEがあれば、いつも診てもらっているかかりつけ医が電子カルテを見ながら説明するので、心理的な負担は減ると思います」(長村氏)。

 長村氏がSMILE利用を決断した理由は、こうした便利さや先進性だけではない。地域連携室を利用した経験から生じた信頼感も決め手となっている。「新日鐵八幡記念病院は、病診連携に以前から力を入れていて、地域連携室などのスタッフも非常に質が高いですね」(長村氏)。

長村医院の長村俊志氏

 導入してみてわかった問題点もある。1つは患者との対応だ。西田氏は、SMILEをはじめとする電子カルテなどのITシステムが、診療所の診療に及ぼす影響を感じている。「診療所の医師は、患者さんと話すのが仕事です。紙のカルテは看護師が調べてくれていましたが、SMILEのようなPCを利用するシステムだと、患者さんがいるときに医師自身がPCを操作します。そうすると、患者さんと向かい合って話をする時間が削られてしまうのです」(西田氏)。長村氏も「電子カルテは、どうしても画面を見ながら話をすることになります。顔を見る時間が減るので、お年寄りの患者は特に嫌がりますね」と、同様の感想を抱いている。

 また、医用画像の閲覧でも問題がある。ダウンロードに時間がかかるのだ。現在は、DICOM可逆圧縮画像を使用しているが、「例えば、CTの画像は通常300枚くらいあるので、圧縮しても100メガバイト弱。システム内部で1回、診療所のPCへ1回、計2回転送するので、2分くらいかかっています。患者に見せる目的の場合は、JPEG形式などより軽い容量のデータもダウンロードできるようにして、診療所にDICOMかJPEGかを選んでもらうように改良する方針です」(河野氏)。

●入院予約の実現や検索性の向上が今後の課題

 このほか、入院予約やベッド確保についても構想中だ。現在は検査と診療の予約に対応している。「外来予約ができればよいだろうと思っていたのですが、患者紹介は入院が前提なのでベッドの予約もしたい、車いすの患者は職員の方に出迎えてもらいたい、などの希望があることがわかってきました」(河野氏)。今後は、これらについても、診療所から簡単に予約できるようにしていくという。

 検索に関しても、もっと利便性をアップしてほしいという要望がある。現在は、氏名と住所、生年月日が必要だが、「姓だけで検索して検索結果一覧から選ぶ、という形にしてほしいと思います。当医院から紹介した患者だけでも構いません」(西田氏)。また、現在はセキュリティ面から医師だけの利用に限定しているが、看護師や事務職員も扱えるように変更してほしいとの要望が出ている。「できるだけセキュアにということで、当初は医師だけに使用を限定していましたが、ある程度安全性も証明されてきたので、本格稼働時には、看護師も診療・検査予約と受診状況の照会を行えるようにしました」(河野氏)。

 「将来は、地域連携室に登録した医師すべてにSMILEを利用してもらいたいと思っていますが、当面2011年の秋までに、診療所数100カ所程度、患者数1000人前後が目標」と河野氏は語る。

(本間 康裕=医療とIT)


 

■病院概要
名称:医療法人社団 新日鐵八幡記念病院
所在地:福岡県北九州市八幡東区春の町一丁目1番1号
開業:1900年 院長:佐渡島 省三氏
職員数:701人(医師88人、看護師444人、医療技術員84人、事務スタッフなど85人)
病床数:453床(うち一般病棟393床)
外来患者数:年間14万8625人
主な承認指定:日本医療機能評価機構認定病院/認定医制度教育病院/日本がん治療認定医機構認定研修施設/臨床研修指定病院/地域医療支援病院/救急告示病院
Webサイト:http://www.ns.yawata-mhp.or.jp/
導入システム:自社開発、西日本エムシー

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