事例研究:わかしお医療ネットワーク(千葉県立東金病院)

地域ぐるみで取り組む生活習慣病診療の質向上へのネットワーク戦略



 カルテ情報をネットワークで共有するために不可欠なのが、セキュリティ機能だ。わかしお医療ネットワークでは、電子カルテの三原則のひとつである原本性の保証をはじめ、認証やネットワークでセキュリティを担保している。


 まず原本性の保証は、NTTデータとリコーが開発した電子文書の原本性を確保するためのソフトウエアがパッケージに実装されており、電子カルテの改ざん検知や厳密なアクセスログの管理などを行うことで、カルテの原本性を確保している。また、ネットワークにはNTT東日本の独自IP網であるフレッツVPNを利用しているが、電子文書の真正性を証明するために第三者認証機関を介したNTTデータの電子署名サービスを使って実現している。


 アクセス認証では、サインの形状やスピード、筆圧といった個人による癖を照合するサイン認証技術を採用した。これは特に、OTCも扱うような調剤薬局や訪問介護ステーションなど、関係者以外もアクセス端末に触れるケースがあるような施設での本人認証を強化するために利用している技術だ。


●東金病院と同規模の糖尿病医療機関が開設されたのと同じ効果


 わかしお医療ネットワークは、電子カルテによる地域での情報共有を可能にするツールであるとともに、それ自身が病院から診療所への技術移転のツールとして機能していることが特筆すべき点だろう。糖尿病専門医が記述する診察所見や診療情報提供書は、単にサマリーだけではなく、検査データの評価とそれに基づく治療方法や技術についてきめ細かく書き込まれている。それとともに生活習慣病ガイドラインシステムで提供される電子化されたSDM(e-SDM)をベースに技術移転が実施できる環境を構築しているのだ。


 定期的な勉強会とわかしお医療ネットワークの構築がともに功を奏し、糖尿病治療の技術やノウハウを診療所に移転するというひとつの目的も達成され、当初1カ所だったインシュリン治療ができる診療所が、4年後には16施設まで拡大。現在では36の診療所の医師がインシュリン療法の患者の治療にあたっている。現在、約1500人の糖尿病を含む生活習慣病患者がシステムに登録されているが、診療所でインシュリン療法を含む糖尿病治療を受けている患者は約450人まで拡大しているという。「7年を要しましたが、糖尿病に限ってみれば結果的に東金病院と同規模の医療施設が地域にできたと同じ効果を生み出しました」(平井氏)と強調する。


「当時は、逆紹介という糖尿病の患者さんは皆無だった」と振り返る金子昇氏

「当時は、逆紹介という糖尿病の患者さんは皆無だった」と振り返る金子昇氏

 東金病院から北へ車で約40分、JR総武本線の松尾駅前にある松尾クリニックの金子昇院長も、当初からわかしお医療ネットワークに参画し、多くの糖尿病患者を診察するようになり、インシュリン治療を行うようになった一人である。

 「それまでも糖尿病の患者さんは診ていましたが、血糖値が改善されなかったり、進行する兆候があると病院に紹介して、その後はその病院で治療してもらうケースがほとんど。逆紹介という患者さんはいませんでした」と、金子氏は振り返る。

 診療所では全身的な検査ができないといった施設的な理由もあるが、病院と診療所では治療方針や治療用語、薬などに一体性がなく、逆紹介されても治療の効果がなかなか上がらないという問題があったからだ、と金子氏は指摘する。現在では、約30人の東金病院からの紹介患者を含めて多くの糖尿病患者の診察を行うようになった。その背景には、SDM研究会に当初から参加し、治療マニュアルを用いた技術移転が行われ、病院と診療所間で糖尿病治療に関する知識・技術の平準化が実現できたためという。

 「標準化された治療基盤を基に電子カルテで治療方針、検査データ、所見などが共有化されたことで、専門医の方針に沿ってきめ細かく患者さんをフォローできるようになりました。専門医が使う治療薬に対する理解も深まり、共通言語で患者さんの病状をコントロールできるようになったことが、わかしお医療ネットワークに参画した大きな効果です」(金子氏)。

 患者にとっても、東金病院の専門医が後方に控え、検査データや治療方針を共有して常に連携して治療にあたっていることがわかり、安心して受診できるという意識が生まれているという。「特に多くの患者さんを抱えている病院では、先生に対して自分の状況をゆっくり尋ねにくい……という気持ちを持っている患者さんも多く、その点、診療所では気兼ねなく尋ねられると感じているようです。その説明も専門医の所見をはじめとする情報共有の環境があるからこそ、患者さんが納得のいく説明ができます」(金子氏)。

次のステップは循環型糖尿病連携パスの本格運用

「今後、医療費に及ぼす影響や臨床上のアウトカム評価など順次、循環連携システムの評

「今後、医療費に及ぼす影響や臨床上のアウトカム評価など順次、循環連携システムの評価を行っていく予定」とする平井氏

 2007年に施行された改正医療法により、医療計画制度の下でいわゆる4疾病5事業ごとに医療連携体制を構築することが本格化してきた。千葉県では、この4月から実施された新たな保健医療計画において、4疾病のうち、特に糖尿病ではわかしお医療ネットワークで実践してきた循環型医療連携をスタンダードモデルとし、その前提となる診療所への技術移転の方法としてSDMを用いた糖尿病勉強会を提示している。


 東金病院では、わかしお医療ネットワークで得られた「約90%の糖尿病患者がかかりつけ診療所において良好な血糖コントロールを維持できた」という結果を踏まえ、次のステップとして循環型糖尿病連携パスの本格運用を開始するという。


 「今後、医療費に及ぼす影響や臨床上のアウトカム評価など順次、循環連携システムの評価を行っていく予定です。循環型糖尿病連携パスでデータを蓄積した上で、エビデンスを評価して疾病管理プログラムを立ち上げることが当面の課題。現在の目標は、2010年の診療報酬改定でインシュリン療法の地域連携パスを収載すること。そのエビデンスづくりをこの2年間で実施していく計画です」。平井氏は、今後の計画をこのように語り、循環型医療連携による地域ぐるみの生活習慣病診療の大幅な質の向上と、地域医療連携のモデルケースの確立をめざしていく。(増田 克善=フリーランスライター)




■千葉県立東金病院概要
住所:千葉県東金市台方1229
病床数:191床
外来患者数:約400〜500人/日
Webサイト: http://www.pref-hosp.togane.chiba.jp/











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