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ガイドライン外来診療2009

老人性認知症

  • 京都大学大学院医学研究科人間健康科学専攻 在宅医療看護学分野 教授 木下 彩栄

診断

  • 発症が緩徐、進行性の経過をたどっていること、記憶障害と記憶以外の認知機能障害を捉えて、それらによって日常生活や社会生活に支障を来していることを確認する。認知機能障害の評価については患者の教育歴・職業歴なども加味し、家族からも訴えを聞く。
  • 正常老化による物忘れや認知症に類似の病態(うつ病、せん妄状態)を除外する。
  • 初診時に、治療可能な認知症を鑑別するために、血液検査(生化学検査、内分泌検査)や頭部CT(可能であればMRI)検査を必ず施行する。慢性硬膜下血腫では比較的急激に発症し、歩行障害などが出現すること、正常圧水頭症では尿失禁や歩行障害などの認知機能低下以外の症状が出現する、など、局所神経症状を注意深く診察する。
  • アルツハイマー病は、徐々に発症し、進行性の経過をとる。記憶障害が初発で、他の症状(失行、失認、構成障害、遂行機能障害)が加わる。記憶障害を指摘されると、「作話」や「取り繕い反応」が目立つ。経過中に妄想・幻覚・攻撃・興奮・徘徊などの周辺症状が出ることがある。CTやMRIによって示される側頭葉内側面から始まる萎縮、SPECTやPETの所見が補助診断に役立つ。
  • 脳血管性認知症は脳梗塞・脳出血の発作後に発症し、発作を繰り返すたびに段階的に悪化する。症状は、障害部位により多彩であり、認知機能低下以外に、麻痺などの巣症状がみられる。CTやMRIで虚血性・出血性病変を認める。MRAや頸部血管エコーなどによる動脈硬化所見の評価と、危険因子の内科的管理が重要である。
  • レビー小体型認知症は、パーキンソニズムと認知機能障害を伴う。認知機能障害の変動、幻視が特徴的である。これらの症状、およびSPECTやPET、MIBG心筋シンチグラフィなどによる検査でアルツハイマー病と鑑別される。抗精神病薬などの薬剤に対する過敏性があるため注意が必要である。

治療

  • アルツハイマー病:認知機能障害の進行抑制に対してドネペジル塩酸塩(アリセプト®)を用いる。最初は3mg/日で2週間使用し、副作用がなければ5mg/日に増量して維持する。中等度〜高度のアルツハイマー病には10mg/日まで増量可能である。投与初期に、徐脈や消化器症状がみられることが多い。特に、10mgへ増量するときに消化器症状が出現することが多いため慎重に投与する。また、ドネペジル塩酸塩投与後にやや興奮性が増すこともあるため、家族(介護者)にあらかじめ説明をしておく必要がある。経過中にみられる興奮状態や妄想などに対しては、ごく少量の非定型抗精神病薬* が有効なことがある。これらの薬剤は、認知症に対して保険適用はなく、認知症高齢者の死亡率を上げる可能性について米国食品医薬品局(FDA)より注意勧告が出されているので、十分に説明したうえで使用の了解を得る。また、漢方薬の抑肝散* が用いられることもある。
  • 脳血管性認知症:心原性脳塞栓症でないことを確認したうえ、硫酸クロピドグレル(プラビックス®)75mg/日などの抗血小板薬を再発予防のために服用する。心原性脳塞栓症の予防には、抗凝固薬が第1選択薬となる。高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動などの危険因子を十分に管理する。高度内頸動脈狭窄が疑われた場合は、内膜剝離術やステント治療などが行われることもある。
  • レビー小体型認知症:認知機能の低下に対してドネペジル塩酸塩* が用いられる。パーキンソニズムに対してはL-ドーパなどのパーキンソン病治療薬を慎重に用いる。周辺症状に対して抑肝散* の有効性も報告されている。
  • *保険適用注意

処方例

    初期〜中期のアルツハイマー病

  • アリセプト 1日5mg 分1 朝食後 (最初の2週間は1日3mg)
  • 中等度〜高度のアルツハイマー病

  • アリセプト 1日10mg 分1 朝食後 (1日5mgで経過観察した後に増量)
  • 興奮や妄想の強いアルツハイマー病

    (いずれかを選択)

  • リスパダール* 1日0.25〜1mg 分1 就寝前
  • ジプレキサ* 1日2.5mg 分1 就寝前
  • ジプレキサは糖尿病には禁忌。
  • 妄想、幻覚、徘徊に対して

  • 抑肝散* 1日7.5g 分3 食前
  • *保険適用注意

患者・家族への説明のポイント

  1. 認知症の原因疾患について、近年飛躍的に研究が進んできている。疾患によって対処法が異なるので、早期に診断を受けることが望まれる。特に、脳外科的疾患あるいは内科的疾患が原因の治療可能な認知症もあるため、「高齢だから」といって諦めずに、まずは精密検査を受けることを勧める。
  2. たとえ患者が認知症に罹患していても、すべての人は人間として貴重な価値ある存在であるという態度を医療者と家族(介護者)で共有する。
  3. AD(アルツハイマー病)においても、ドネペジル塩酸塩の適切な使用やケアにより、自宅での生活を長い間維持することが可能である。
  4. 脳血管性認知症の場合は、再発作の予防のため危険因子を管理することが重要である。身体障害を合併することも多いので、デイサービスなどを積極的に利用し、閉じこもりや廃用症候群を予防する。
  5. AD、DLB(レビー小体型認知症)など神経変性疾患が原因の認知症では、進行した場合の介護体制を、主治医とケアマネジャーなどにあらかじめ相談しておく。
  6. 自動車の運転、火の取り扱い、悪徳商法などによる勧誘の危険性について説明し、財産などの管理ができなくなれば、成年後見制度などを適宜利用するように話す。

どのような場合に専門医に紹介すべきか

  • 急性ないし亜急性に認知症が発症あるいは悪化した場合
  • 記憶障害以外の認知機能低下で発症した場合
  • 精神症状や行動障害が目立つ場合
  • 局所神経症状が目立つ場合
  • 発症年齢が若い(65歳以下)場合
  • 認知症の家族歴がある場合
  • 脳血管性認知症で高度内頸動脈狭窄がある場合(血管外科、脳外科へ)

参考文献

  • 小阪憲司:びまん性Lewy小体病−Parkinson病との関連を含めて−.医学のあゆみ 186:80,1998.
  • 中村重信 編:痴呆疾患の治療ガイドライン.ワールドプランニング,東京,2003.
  • 高橋三郎 他 訳:DSM--TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版.医学書院,東京,2004.
  • 日本老年精神医学会:アルツハイマー型痴呆の診断・治療・ケアガイドライン.老年精神医学雑誌 16(増刊号-機法2005.
  • McKeith IG, et al : Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies : Third report of the DLB consortium. Neurology 65 : 1863, 2005.
  • 東海林幹夫:認知症の臨床と病態.臨床神経 48:467,2008.
ガイドライン外来診療2010
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編集主幹:泉 孝英(京都大学名誉教授/京都・中央診療所)

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