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ガイドライン外来診療2009

褥瘡

  • 東京大学医学部附属病院 皮膚科 講師 門野 岳史

診断

  • 褥瘡は、多くは長期臥床が原因となって生じる仙骨部などの骨突出部位に生じた阻血性の壊死であり、長時間の手術や特殊な体位の手術後にもみられる。
  • 多くの場合は経過、および特徴的な臨床像から診断は容易であるが、浅い褥瘡である持続する発赤と反応性充血を区別することが重要である。
  • 褥瘡の危険因子の評価法としてはブレーデンスケール、OHスケール、K式スケールなどがあり、厚生労働省から示されている「褥瘡対策に関する診療計画書」を参考にする。
  • 褥瘡の評価に当たっては、局所のみを診るのではなく、栄養状態を含めた全身状態や生活環境を把握することが大切であり、褥瘡局所の評価に当たっては日本褥瘡学会で開発されたDESIGNがよく用いられる。
  • 注意すべき褥瘡として、初期の段階では一見浅くみえるが、時間とともに自然の経過で深い褥瘡に変化するdeep tissue injury(DTI)が存在する。
  • 栄養状態の評価としては血清アルブミン、ヘモグロビンなどが用いられる。血清アルブミン値は3.0〜3.5g/dl以下でヘモグロビン値については11g/dl以下で褥瘡発生の危険が高まる。
  • 生活環境に関しては、体位変換、体圧分散寝具、ギャッチアップなどの項目を検討するとともに、加重部の体圧が1つの目安である40mmHgを超えているかどうか計測する。

治療

  • 褥瘡の治療には全身状態の改善と褥瘡局所の改善の両者が重要であり、全身状態の改善のためには基礎疾患の管理と栄養状態の改善を目標とする。
  • 褥瘡局所の除圧はきわめて重要で、再発が多いことから褥瘡をつくらないような環境が大切である。そのためには定期的な体位変換、体圧分散寝具の使用、皮膚のずれを防止する体位、尿や便汚染に対する対策、皮膚の洗浄と適度な保湿といったスキンケアが必要である。
  • 褥瘡局所の治療としては保存的治療と外科的治療に分かれ、外科的治療は通常全身状態が落ち着いており、創の上皮化が停止しているものに対して行われるが、多くの褥瘡患者は高齢で全身状態が不良のことが多く、保存的療法が主体になる。
  • 褥瘡の局所治療においては、創傷治癒を妨げる要因を見いだしこれを取り除くことによって治癒に適した環境をつくるwound bed preparationが重要である。
  • 急性期の治療方針

  • 急性期の褥瘡に対しては、創の保護とともに適度な湿潤環境を維持することが目的となる。
  • 紫斑、水疱、びらん面に対しては創面の観察ができるドレッシング材か創面保護効果の高い軟膏を用いる。
  • 感染を伴っている場合はスルファジアジン銀(ゲーベン®クリームなど)が有用である。
  • 慢性期の治療方針

    (1)浅い褥瘡(d)

  • 真皮までにとどまる褥瘡であり、急性期の褥瘡と同様、発赤や水疱には創面が観察できるドレッシング材や創面保護効果がある油脂性基材の外用薬を用いる。
  • 水疱が破れてびらんや浅い潰瘍になった場合はドレッシング材、上皮形成や肉芽形成を促進する外用薬を用いる。
  • (2)深い褥瘡(D)

  • 脂肪組織以下(D3)に及ぶ褥瘡であり、治癒に向かう過程をDESIGNの変化として示すと、Nをnにし(壊死組織を除去)、Gをgにすること(肉芽形成の促進)により、Sをsにして(創の縮小)治癒に至る。また、感染・炎症があればそのコントロールを行い(I→i)、浸出液を制御し(E→e)、ポケットをなくす(P→〈−〉)治療を行う。
  • 褥瘡の治療に当たっては創とその周囲を洗浄する。褥瘡には細菌が常在するが、創に障害を及ぼさないことも多く、炎症反応を惹起している(critical colonization)状態や、細菌が深部に及び発熱などの全身症状を伴う(infection)状態と区別することが大切である。
  • 壊死組織の除去(N→n)においては、外科的デブリードマンもしくは化学的デブリードマンを行う。それに加えて、感染・炎症の制御(I→i)を重視する場合は抗菌作用のある外用薬を用い、浸出液の制御(E→e)を重視する場合は浸出液吸収効果の高い外用薬やドレッシング材を用いる。
  • 肉芽形成の促進(G→g)においては、肉芽形成促進作用を持つ外用薬がおもに用いられる。また創に適切な湿潤環境を与えるドレッシング材や過剰な浸出液を吸収するドレッシング材も用いられる。
  • ポケットがある場合はこれをなくす(P→〈−〉)治療が必要であり、保存的治療にて改善しない場合は、外科的に切開を行うことや陰圧閉鎖療法を行うことがある。
  • 創の縮小(S→s)においては、肉芽や上皮形成促進作用を持つ外用薬やドレッシング材が用いられる。肉芽産生が過剰となった場合には短期間、ステロイド薬の外用を行う。
  • 創が上皮化した後は再発防止のため、ポリウレタンフィルムを用いて保護したり、撥水性皮膚保護剤を用いたりするとよい。

臨床検査項目

  • 栄養状態の評価としてはBMI、血清アルブミン、ヘモグロビンなどが用いられる。
  • 血清アルブミン値は3.5g/dl以下で褥瘡発生のリスクとされるが、高齢者の場合は3.0g/dl以下を指標とする。
  • ヘモグロビン値については11g/dl以下の場合は褥瘡発生のリスクが高くなるとされる。
  • 生活環境に関しては、日常生活の自立度を再確認する。また、生活の場において、体位変換はどうしているのか、どのような体圧分散寝具を用いているか、ギャッチアップはどうなっているのか調べる。車椅子の場合では姿勢はどうか、クッションはどのようなものが用いられているかといった項目の評価を行う。加えて、加重部の体圧測定を行い、大まかな目安である40mmHgを超えているか確認する。体圧測定の際は、実際に患者がとりがちな体位で測定する。ギャッチアップにより体圧は大きく変動するので留意する必要がある。

処方例

    浅い褥瘡に対して(洗浄の後)

    (いずれかを選択)

  • アクトシン軟膏 1日1回 塗布
  • デュオアクティブET 貼付
  • 浸出液の量に応じて交換する。
  • 深い褥瘡に対して(洗浄の後)

    壊死組織が残存している場合

  • ゲーベンクリーム 1日1回 塗布
  • デブリードマンは必要に応じて行う。
  • 浸出液が多い場合

    (以下のいずれかを選択)

  • カデックス軟膏 1日1回 塗布
  • ユーパスタ軟膏 1日1回 塗布
  • デブリサン 1日1回 塗布
  • 壊死組織が除かれ、肉芽形成を促進する段階になった場合

    (以下のいずれかを選択)

  • フィブラストスプレー 1日1回 
  • 創より5cm離して直径6cm当たり5回噴霧後、30秒間静置する。
  • プロスタンディン軟膏 1日1回 塗布
  • オルセノン軟膏 1日1回 塗布

患者・家族への説明のポイント

  1. 褥瘡の管理・治療は近年、科学的根拠に基づいて行われるようになり、適切な環境形成、局所治療が行われれば多くの場合は治癒する。
  2. 適切な体圧分散寝具の使用、定期的な体位変換、ずれ対策が重要である。
  3. いったん治癒しても再発することが多いため、根気よく継続的にケアを行う必要があり、患者および家族の協力なしには成り立たない。

どのような場合に専門医に紹介すべきか

  • ガイドラインに沿って治療を行っても改善しない場合
  • 体圧分散寝具の使用、体位交換、栄養状態の改善がうまくいかない場合
  • 全身状態が悪く、感染を伴った場合
  • 外科的デブリードマンの適応と思われる場合
  • ポケットを形成し、ポケット切開を検討する必要がある場合
  • 手術療法を検討する必要がある場合

参考文献

  • 森口隆彦 他:「DESIGN」−褥瘡の新しい重症度分類と経過評価のツール.日本褥瘡学会誌4:1,2002.
  • 日本褥瘡学会 編:褥瘡対策の指針.照林社,東京,2002.
  • 日本褥瘡学会 編:科学的根拠に基づく褥瘡局所治療ガイドライン.照林社,東京,2005.
  • 宮地良樹 他:褥瘡対策未実施減算導入前後の褥瘡有病率とその実施についてのアンケート調査報告.日本褥瘡学会誌 8:92,2006.
  • 日本褥瘡学会 編:在宅褥瘡予防・治療ガイドブック.照林社,東京,2008.
ガイドライン外来診療2010
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編集主幹:泉 孝英(京都大学名誉教授/京都・中央診療所)

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