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ガイドライン外来診療2009

肩関節周囲炎(五十肩)

  • KKR札幌医療センター斗南病院 スポーツ医療センター センター長 福田 公孝

診断

  • 肩関節周囲炎は肩の経年変化により、肩周囲組織の老化に伴う炎症すなわち痛みと運動制限という愁訴を生じる疾患を指す。一般的に自然治癒する例が多いといわれているが、実際には、痛みや拘縮が強く、症状が遷延する例があり、さらに、腱板断裂や石灰沈着性腱板炎などを合併していることがあるので注意が必要である。
  • 明らかな外傷・誘因がない。肩関節を動かすと痛みが増す。患者の肩のROMがすべての方向で健側に比して減少している。特に、内・外旋で可動範囲を超える動きをしようとすると疼痛がある。
  • 初診時に必要な検査としてX線検査があるが、特徴的な骨所見はない。石灰沈着や骨変化がないことを確認するために、肩関節2〜5方向の撮影が必要である。
  • 鑑別診断として、頸椎の運動によって肩に放散する痛みがないことを確認する。感染、リウマチ関節炎、腫瘍(必ず鑑別すべき疾患として念頭に置く)、腱板部分断裂や、肩関節唇損傷が挙げられる。
  • 確定診断は、X線検査で異常を認めない、すなわち石灰沈着や肩峰下骨棘、上腕頸部、二頭筋腱溝などに骨棘を認めない。肩外転90゚付近での内・外旋の痛みと軋轢音がある症例、すなわちimpingement sign(肩インピンジメント徴候)陽性の場合には肩の腱板断裂を疑い、MRI検査を追加すべきである。
  • 可動域制限が強い症例ではMRI検査でT2あるいはT2*強調像において関節腔の下方の弛緩が消失する。腱板は、正常の場合はT2強調像の斜冠状断または矢状断で、low signalであり一定の厚みを持ち撮像される。腱内や表層、関節面にT2強調像でhigh signalを認めない。腱板に厚みがなく、T2強調像でhigh signalに置き変わっている状態は完全断裂を示す。臨床検査(採血)項目で炎症所見はなく、白血球増多、ESR上昇、CRP上昇などは認めないことが多い。

治療

  • 肩関節周囲炎では、急性期か慢性期かにより、治療が異なる。
  • 急性期

  • 疼痛緩和をおもに行う。
  • 運動制限(三角巾、スリングなどによる安静)を行い、痛みを伴う運動を控える。
  • 薬物療法:貼付剤など外用薬を使用する。NSAIDsの服用は疼痛の程度に合わせて行う。ステロイド注射は症状が強く、夜間痛を伴うなど日常生活動作がつらいような場合に肩峰下滑液包へ行う。一方、関節可動域が強く制限されていて、疼痛が強い症例では、肩甲上腕関節腔内に注入したほうがより効果的である。継続使用は限定される。
  • リハビリテーション:痛みの生じない範囲での他動運動を急性期または治療開始直後に行う。
  • 慢性期

  • 疼痛緩和に加えて、他動的関節可動域増強を少しずつ進めていくことにより、痛みのない運動範囲を増やすことを主眼にする。ヒアルロン酸の肩峰下滑液包あるいは肩関節腔内への注射による投与が推奨される。どうしても運動時痛が強いときには、少量のステロイドを追加するとより効果的である。
  • 可動域制限に対する治療は、慢性期では他動介助(passive assisted)運動による可動域増強訓練が必要である。ホットパックや入浴などの温熱療法を可動域増強の運動前に行うことが、疼痛の緩和にも運動範囲の獲得にも有効である。
  • 管理

  • 肩関節周囲炎の急性期か慢性期かを判断し、それぞれに合った治療を行うのが肝要である。
  • 肩関節周囲炎は、数カ月間放置すると、関節可動域が極度に悪化してしまう例が多い。適切な治療を行わないと強い関節拘縮が生じ、疼痛が強くなり、スポーツばかりではなく日常生活にまで支障を来す。したがって、肩関節周囲炎、いわゆる「五十肩」であるのか、他の原因、特に腱板断裂や石灰沈着性腱板炎などを生じているための肩関節の愁訴なのかを見極め、適切な治療に導くことが必要である。

臨床検査項目

  • 採血
  • 一般的に、炎症所見はない。白血球増多、ESR上昇、CRP上昇などは認めないことが多い。石灰沈着性腱板炎の急性期に、CRPなどの炎症所見が軽度上昇することがある。

処方例

    急性期

    (以下を併用)

  • ケナコルト-A注 1回20〜30mg + 局所麻酔薬 1mL
  • 肩峰下滑液包または肩関節腔内へ投与する。
  • ロキソニン錠(60mg) 1錠 + ムコスタ錠(100mg) 1錠 疼痛時
  • 夜間痛が予想される場合

  • ボルタレン坐剤(50mg) 1個 疼痛時
  • 外用薬

  • セルタッチ 1回1枚 1日1〜2回(肩関節部)
  • 慢性期

    (以下を併用)

  • ヒアルロン酸 1A + 局所麻酔薬 1mL
  • 肩峰下滑液包または肩関節腔内へ投与する。
  • ハイペン錠(200mg) 1錠 + ガスター錠(10mg) 1錠(胃炎の病名必要)
  • 外用薬

  • モーラステープL または ロキソニンテープ または インテバンクリーム など
  • 使用法はセルタッチと同様。

患者・家族への説明のポイント

  1. 肩関節周囲炎は肩のすじ(腱)や関節の袋(関節包)の老化で、痛みやこわばり(拘縮・運動制限)を生じる疾患である。
  2. 一般に、自然治癒する例が多いといわれるが、実際には痛みやこわばり(拘縮)が強いと治りにくいことがある。
  3. 急性期では、痛みを和らげる治療をおもに行う。貼り薬、飲み薬を痛みの程度に合わせて使用する。強い痛み止めの注射は、痛みとこわばり(拘縮)が強く、夜間、痛みで起こされるような場合に使用する。リハビリテーションは痛みの生じない範囲にとどめ、痛いほうの肩に力を込めずに行うのがコツである。
  4. 慢性期では、痛みを和らげる治療に加え、関節の動く範囲を増やす運動を少しずつ進めていく。ヒアルロン酸を注射するのもこの時期に勧められる。
  5. 鑑別診断として、頸椎の運動によって肩に響くような痛みがないことを確認する。その他、採血などを行い、関節リウマチや感染症がないかを確認する。
  6. 強い痛みや動きが悪い場合はMRI検査を行い、腱板の断裂がないかを確認する。
  7. 2〜3カ月経過しても症状がよくならない場合は、専門医へ紹介することもある。

どのような場合に専門医に紹介すべきか

  • X線検査で明らかな石灰沈着、骨透亮像、骨破壊像を認める場合
  • 非常に強い夜間痛、強い筋萎縮などを認める場合

参考文献

  • Neer CS : Impingement lesions. Clin Orthop Relat Res 173 : 70, 1983.
  • Shinmei M, et al : Intra-articular injection therapy of high molecular weight sodium hyaluronate on osteo-arthritis of the knee. Clinical effects and change in synovial fluid properties. Knee 9 : 108, 1983.
  • 川島 彰 他:臨床症状から見た腱板断裂.Orthopedics 39 : 45, 1991.
  • 福田公孝:スポーツにおける肩インピンジメント症候群の治療.日本整形外科学会雑誌 69:s63,1995.
  • 福田公孝:胸鎖関節・鎖骨・肩鎖関節.肩の痛み.p37,南江堂,東京,1998.
  • 三笠元彦:腱板断裂.肩の痛み.p75,南江堂,東京,1998.
  • 大泉尚美,福田公孝:肩関節唇損傷に対するMRアルトログラフィー.臨床スポーツ医学 15:253,1998.
  • 福田公孝 他:肩腱板断裂の治療成績−術後ヒアルロン酸ナトリウム投与の影響.薬理と治療 28:819,2000.
  • 福田公孝:上肢のスポーツ障害に対するヒアルロン酸投与の実際・経験−肩スポーツ障害に対する保存療法.臨床スポーツ医学 20:999,2003.
  • 福田公孝:肩の機能解剖.今日の整形外科治療指針 第5版.医学書院,東京,2004.
  • American College of Occupational and Environmental Medicine(ACOEM) : Shoulder complaints. Elk Grove Village(IL), 2004. 
ガイドライン外来診療2010
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編集主幹:泉 孝英(京都大学名誉教授/京都・中央診療所)

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