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ガイドライン外来診療2009

甲状腺機能異常症

  • 国立病院機構京都医療センター 内分泌・代謝内科 科長 田上 哲也

診断

    甲状腺中毒症

  • 頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加などの甲状腺中毒症状があり、甲状腺ホルモン(遊離T4または遊離T3)が高値なら甲状腺中毒症と診断する。
  • 甲状腺中毒症には、甲状腺機能亢進症と破壊性甲状腺炎があるが、後者の頻度は意外に高い。迷ったら、放射性ヨード(またはテクネシウム)シンチグラフィで鑑別できる。
  • 抗TSH受容体抗体が陽性であればごく一部の例外を除いてバセドウ病である。甲状腺エコーで火焔状の血流増加が診断の一助となる。アルカリホスファターゼ値の高いことが多い。
  • TRAbが陰性であれば、無痛性甲状腺炎を疑う。産後甲状腺炎はバセドウ病でも多い。
  • 亜急性甲状腺炎は、有痛性で発熱、炎症所見を伴う。甲状腺エコーでは疼痛部に一致した低吸収域を認める。
  • 妊娠一過性甲状腺機能亢進症は一過性でありバセドウ病との鑑別が重要である。
  • 中毒性結節性甲状腺腫(Plummer病)では放射性ヨード(またはテクネシウム)シンチグラフィでは結節のみが描出される(hot nodule)。
  • TSH産生下垂体腫瘍では甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低値でない(正常または高値)。
  • 甲状腺ホルモン製剤の過剰投与の可能性も考えておく。「健康食品」や「やせ薬」に注意。
  • 高齢者や小児などでは、症状が典型的でないことがあるので注意する。
  • 甲状腺機能低下症

  • 無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声などの甲状腺機能低下症状があれば、甲状腺機能(遊離T4とTSH)をチェックする。
  • 甲状腺ホルモン(遊離T4)が低値なら甲状腺機能低下症と診断する。同時に測定したTSHが高値なら、原発性甲状腺機能低下症、低値または正常なら中枢性甲状腺機能低下症と診断する。
  • TSHが高値でも遊離T4が正常範囲内のものは潜在性甲状腺機能低下症という。
  • 原因の多くは橋本病であり、やや硬めのびまん性甲状腺腫を触れる。抗マイクロゾーム(または甲状腺ペルオキシダーゼ〈TPO〉)抗体または抗サイログロブリン抗体を測定し、いずれかが陽性であれば橋本病と診断できる。
  • 小児では甲状腺腫大とともに成長障害に注意する。
  • 遊離T3は、甲状腺機能が正常でも、全身の消耗性疾患がある場合、低値になるので注意が必要である。低T3症候群(euthyroid sick syndromeあるいはnonthyroidal illness〈NTI〉)という。進行すると遊離T4も下がってくる。
  • 一般検査では、コレステロール高値、クレアチンホスホキナーゼ高値を示すことが多い。

治療

    甲状腺中毒症

  • 甲状腺中毒症では代謝が亢進しているため安静が基本である。
  • バセドウ病の場合は、抗甲状腺薬により甲状腺ホルモンの産生と分泌を抑制するか、放射性ヨードや手術で甲状腺の容量を減少させる。
  • 薬物治療の長所は、外来で治療を開始できること、ほとんどすべての患者に施行できること、不可逆的な甲状腺機能低下症に陥ることがほとんどないことである。
  • 薬物治療の短所は、寛解率が低いこと、寛解に至るまでの治療期間が長いこと、服薬中止や予後を判断する確かな指標がないこと、副作用が多いことなどである。
  • 薬物治療開始後1.5〜2年以上経過しても休薬、寛解のめどが立たないような場合には、今後の治療方法につき改めて患者にインフォームドコンセントすべきである。
  • チアマゾール(MMI;メルカゾール®)を第1選択薬とする。妊娠予定者および妊娠8週まではプロピルチオウラシル(PTU;チウラジール®など)を選択する。
  • 放射性ヨードによる治療の長所は、安全であること、甲状腺機能亢進症を確実に治すことができることである。
  • 放射性ヨードによる治療の短所は、多くの患者が将来甲状腺機能低下症になる可能性があること、甲状腺眼症が発症または増悪する例があることである。
  • 放射性ヨードによる治療の絶対的禁忌は、妊婦、妊娠している可能性がある女性、近い将来(半年以内に)妊娠する可能性がある女性、授乳婦である。
  • 手術による治療の長所は、早くて確実性が高いことである。
  • 手術による治療の短所は、入院、麻酔、手術瘢痕は避けられないこと、頻度は低いが反回神経麻痺や副甲状腺機能低下症が生じる可能性があることである。
  • 無痛性甲状腺炎の急性期には症状に応じてβ遮断薬を使用する。
  • 亜急性甲状腺炎では、抗炎症薬、特にステロイド薬が有効である。
  • Plummer病やTSH産生下垂体腫瘍の治療の基本は手術である。
  • 妊娠一過性甲状腺機能亢進症は、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の低下とともに軽快するが、バセドウ病との鑑別が重要であるので専門医に紹介するのが望ましい。
  • 甲状腺機能低下症

  • 甲状腺機能低下症の治療目標は、甲状腺ホルモンを補充して機能の正常化を図ることである。特に小児では、成長障害を来すため、早期に十分な治療が必要である。
  • 出産後や破壊性甲状腺炎後などの場合は一過性甲状腺機能低下症の可能性が高く、経過を観察する。ヨードの過剰摂取が疑われる場合は、それをやめることで回復する場合がある。
  • 橋本病ではAddison病を合併することがあり(Schmidt症候群、APS-II)、副腎皮質機能低下症が疑われる場合は、まずステロイドホルモンを補充してから、甲状腺ホルモンを補充する。
  • 原発性甲状腺機能低下症ではTSHの正常化を目安にする。心疾患に注意して、甲状腺ホルモンを少量から開始する。橋本病ではしばしば甲状腺機能の変動がみられる。
  • 中枢性甲状腺機能低下症では、遊離T4の正常化を目安にする。中枢性の場合は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌不全を伴っていることが多いので、下垂体の機能評価を行い、ACTH分泌不全があるようならまずステロイドホルモンを補充する。
  • 低T3症候群(NTI)は、基本的に甲状腺機能低下症ではないので、甲状腺ホルモンを補充する必要はない。全身状態が改善すればT3(とT4)は正常化する。

臨床検査値(基準値)*

    甲状腺中毒症

  • 遊離T4:0.8〜1.8ng/dl
  • 遊離T3:2.3〜4.0pg/ml
  • TSH:0.27〜4.20μU/ml
  • 抗TSH受容体抗体(TRAb):1.0IU/l未満または15%以下
  • 甲状腺刺激抗体(TSAb):180%未満
  • 甲状腺機能低下症

  • 抗サイログロブリン抗体(TgAb):0.3IU/ml未満
  • 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb):0.3IU/ml未満
  • *キットにより多少異なる

処方例

    甲状腺中毒症

    バセドウ病

    軽症(遊離T4:5ng/dl未満)

  • メルカゾール錠(5mg) 3錠 分1 朝食後
  • 中等症以上(遊離T4:5ng/dl以上)

  • メルカゾール錠(5mg) 6錠 分2 朝 夕 食後
  • 妊娠予定や妊娠初期、MMIで副作用が出たとき

  • チウラジール錠(50mg) 6錠 分3 食後
  • 甲状腺中毒症で動悸(頻脈)の強いとき

  • インデラル錠(10mg) 3錠 分3 食後 
  • 喘息など禁忌がないこと。
  • 甲状腺機能低下症

    初期量

  • チラーヂンS錠(25μg) 1錠 分1 朝食後 または 就寝前
  • 上記で開始し、TSH(中枢性では遊離T4)を指標に2〜4週ごとに増量。
  • 高齢者や心疾患患者

  • チラーヂンS錠(25μg) 0.5錠 分1 朝食後 または 就寝前
  • 上記で開始し、狭心症状に注意しながら2〜4週ごとに増量。
  • 副腎皮質機能低下症合併例(Schmidt症候群や中枢性甲状腺機能低下症など)

  • コートリル錠(10mg) 2錠 分2〜3(朝を多めに)
  • 上記でまず開始し、その後チラーヂンS錠(25μg)を追加する。

患者・家族への説明のポイント

    甲状腺中毒症

      一般に甲状腺中毒症患者では、代謝が亢進しているため安静を心がける。

      [バセドウ病]

      治療法の選択について

      (1)抗甲状腺薬により甲状腺ホルモンの産生と分泌を抑制するか、放射性ヨードや手術で甲状腺の容量を減少させる方法がある。

      (2)薬物治療の長所は、外来で治療を開始できること、ほとんどすべての患者に施行できること、不可逆的な甲状腺機能低下症に陥ることがほとんどないこと。

      (3)薬物治療の短所は、寛解率が低いこと、寛解に至るまでの治療期間が長いこと、服薬中止や予後を判断する確かな指標がないこと、副作用が多いこと。

      (4)薬物治療開始後1.5〜2年以上経過しても休薬、寛解のめどが立たないような場合には、他の治療法に切り替えることがある。

      (5)MMIを第1選択薬とする。妊娠予定者および妊娠8週まではPTUを選択する。

      (6)放射性ヨードの治療の長所は、安全であること、甲状腺機能亢進症を確実に治すことができること。

      (7)放射性ヨードによる治療の短所は、多くの患者が将来甲状腺機能低下症になる可能性があること、甲状腺眼症が発症または増悪する例があること。

      (8)放射性ヨードによる治療の絶対的禁忌は、妊婦、妊娠している可能性がある女性、近い将来(半年以内に)妊娠する可能性がある女性、授乳婦。

      (9)手術による治療の長所は、早くて確実性が高いこと。

      (10)手術による治療の短所は、入院、麻酔、手術瘢痕は避けられないこと、頻度は低いが反回神経麻痺や副甲状腺機能低下症が生じる可能性があること。

      抗甲状腺薬治療の副作用について

      (11)皮疹(蕁麻疹)が多い。痒みがある場合は、抗ヒスタミン薬を投与する。それでも痒みが改善しないときは、もう一方の抗甲状腺薬に変更する。

      (12)肝機能が悪化したり白血球数が減少したりすることがあるので、定期的な検査が必要である。発熱などの感染症状があれば、医療機関を受診して白血球数の検査を受けること。

      (13)受診の頻度は、副作用チェックのため、最初の3カ月間は2〜3週間ごと、それ以後は、甲状腺機能の状態や薬剤量に応じて、徐々に減らしていく。

      生活一般について

      (14)規則的な生活を行い、睡眠を十分にとるように努める。

      (15)甲状腺中毒症状が著しい間は激しい運動を制限する。

      (16)甲状腺中毒症状のある間は手術、抜歯、苦痛や恐怖を伴う検査の類を避ける。

      (17)ストレスを上手に処理する。

      喫煙について

      (18)未治療、治療中、あるいは寛解中にかかわらず、禁煙すべきである。

      ヨード摂取について

      (19)抗甲状腺薬治療において、日常のヨード摂取を特に制限する必要はない。

    甲状腺機能低下症

      ほとんどの場合、生涯にわたる甲状腺ホルモン補充が必要であるが、適正量であれば副作用はない。

      [橋本病]

      (1)甲状腺機能が正常であれば治療の必要はない。

      (2)ヨードの過剰摂取(特に昆布)で甲状腺機能低下症になることがあるので避ける。また、CTなどヨード系の造影剤を用いた検査の後に甲状腺機能異常を来すことがある。

      (3)妊娠・出産で甲状腺機能は変動しやすいので、受診し、定期的に検査を受ける。

どのような場合に専門医に紹介すべきか

  • バセドウ病で甲状腺クリーゼの疑い(心房細動、心不全、黄疸など)がある場合や重症の場合
  • バセドウ病で1型糖尿病などの特殊な合併症がある場合
  • バセドウ病で抗甲状腺薬による重篤な副作用の発現(無顆粒球症、重篤な肝障害、MPO-ANCA関連血管炎症候群など)がみられた場合。副作用のためどちらの抗甲状腺薬も使えない場合
  • バセドウ病で難治例、合併症を来した高齢者、小児、妊婦、妊娠希望者、甲状腺腫瘍の合併例、重度の眼症例など
  • 不適切TSH分泌症候群(SITSH)の場合
  • 甲状腺機能低下症で高齢者、小児、妊婦、妊娠希望者の場合
  • 中枢性甲状腺機能低下症の場合

参考文献

  • 日本甲状腺学会:甲状腺疾患診断ガイドライン(第7次案).2003.〈http://thyroid.umin.ac.jp〉
  • 日本甲状腺学会 編:バセドウ病薬物治療のガイドライン2006.p11,南江堂,東京,2006.
  • 日本甲状腺学会 編:バセドウ病131 I内用療法の手引き.p1,日本甲状腺学会,京都,2007.
  • 日本小児内分泌学会薬事委員会,日本甲状腺学会小児甲状腺疾患診療委員会:小児期発症バセドウ病薬物治療のガイドライン2008.日本小児科学会雑誌 112:946,2008.
  • 西川光重:薬剤による甲状腺機能異常.日本医事新報 4389:57,2008.
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編集主幹:泉 孝英(京都大学名誉教授/京都・中央診療所)

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