一覧

ガイドライン外来診療2009

糖尿病

  • 大阪市立総合医療センター 代謝内分泌内科 部長 細井 雅之 
    大阪市立総合医療センター 代謝内分泌内科 副部長 川崎   勲  
    大阪市立十三市民病院 糖尿病科 田中 永昭

診断

  • 下記のいずれかの場合に加えて、1回でも検査で糖尿病型であれば、糖尿病と診断される。
  • (1)口渇、多飲、多尿、体重減少など糖尿病の典型的な症状がある場合。

    (2)同時に測定したHbA1c値が6.5%以上の場合。

    (3)確実な糖尿病網膜症が認められる場合。

    (4)過去に糖尿病型を示したデータがある場合。

    (5)別の日に行った検査で糖尿病型であり、糖尿病型が再確認された場合。

  • 糖尿病型:下記のいずれかの血糖値が確認された場合。
  • (1)空腹時血糖値(FPG)が126mg/dl以上。

    (2)75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で2時間値が200mg/dl以上。

    (3)随時血糖値が200mg/dl以上。

  • 75gOGTTは糖尿病の診断に必須ではない。
  • 高血糖による症状:ケトーシスが腹痛、吐き気で発症することがあり、消化器疾患と見誤ることがあり注意点である。
  • 合併症の症状:視力低下、飛蚊症、足のしびれ、痛み、こむらがえり、潰瘍、壊疽、勃起障害、発汗異常、網膜症があれば、5〜7年以上の罹病歴があると判断される。
  • 体重歴(20歳時の体重、過去最大体重とその年齢、体重変動)、妊娠出産歴(4,000g以上の巨大児や低体重児出産歴、早産・流産歴)、家族歴(肥満や、心血管疾患の家族歴)、他科疾患の有無、投薬の内容(抗精神病薬、ステロイドなど)。

治 療

    インスリンの絶対適応

  • (1)1型糖尿病、(2)糖尿病昏睡、(3)重度肝障害、腎障害、(4)重症感染症、(5)中等度以上の外科手術、(6)妊娠、妊娠予定、(7)静脈栄養時の血糖コントロール。以上の場合は自覚症状がなくても、インスリン開始。専門医へ紹介する。

    インスリンの相対適応

  • (1)FPG 250mg/dl以上、随時血糖値350mg/dl以上、または尿ケトン体陽性で自覚症状(口渇、多飲、体重減少)を有する場合、(2)経口薬療法では良好な血糖コントロールに達しない場合、(3)やせ型で栄養状態低下、(4)ステロイド治療時の高血糖、(5)糖毒性を解除するときはインスリンの相対適応であり、インスリン開始。(6)著しい高血糖でも症状がなければ、SU薬開始(グリメピリド〈アマリール®〉0.5〜1.0mg、グリベンクラミド〈オイグルコン®など〉1.25mg)のうえ、インスリンを考慮。
  • インスリンの相対適応でなく、(1)HbA1c 8.0%以上、(2)FPG 160mg/dl以上、(3)随時血糖値220mg/dl以上のときは急いで血糖を下げる必要がない場合が多く、原則として、2〜3カ月の間、生活習慣への介入を行う。
  • 食事指導のポイント:(1)ソフトドリンクをやめる、(2)腹八分目とする、(3)脂肪は控えめに、(4)食物繊維を多く含む食品をとる、(5)朝食、昼食、夕食を規則正しく、(6)ゆっくりよくかんで食べる。
  • 運動処方のポイント:有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせて行う。心拍数100拍/分程度、患者自身の「楽である」〜「ややきつい」といった体感を目安にする。1回10〜30分を1日2回、少なくとも週3日以上の頻度であればよい。
  • 経口薬療法

  • 2〜3カ月間、生活習慣への介入を行っても、血糖値、HbA1c、血圧、血清脂質などに改善がみられない場合、薬物療法を考慮する。病態に合った薬剤を選択し、まずは単剤を少量から開始するのが原則である。

    (1)BMI<25 の非肥満

    FPG<150mg/dl:ナテグリニド(スターシス®、ファスティック®)270mg、ミチグリニドカルシウム水和物(グルファスト®)30mg。FPG<250mg/dl:SU(おおよそグリクラジド〈グリミクロン®など〉20mg、グリメピリド〈アマリール®〉0.5〜1.0mg、グリベンクラミド〈オイグルコン®など〉1.25mgの順)。250mg/dl<FPG:インスリン治療開始へ。

    (2)BMI≧25の肥満

    FPG<150mg/dl:BG(メトホルミン塩酸塩〈ネルビス®、メルビン®など〉750mg)。FPG<250mg/dl:BG+αGI(ボグリボース〈ベイスン®など〉0.9mg、アカルボース〈グルコバイ®など〉300mg、ミグリトール〈セイブル®〉150mg)or ピオグリタゾン塩酸塩(アクトス®)15mg。250mg/dl<FPG:BG+少量SU(グリメピリド〈アマリール®〉0.5mg)。

  • 2〜3カ月継続投与で効果がなければ併用療法を検討する。併用療法の場合、各種薬剤を最大量使用するのでなく、少量併用が副作用の面からも望ましい。併用療法を開始する前に以下の点を注意したい。
    (1)食事療法のゆるみ、運動療法コンプライアンス低下がないかを再度チェックする。(2)服薬のコンプライアンスの問題。(3)民間療法へ逃避はないか。(4)内因性インスリン分泌能の低下。(5)緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の混在。2型糖尿病と思われているなかの約5〜10%にSPIDDM(LADA〈latent autoimmune diabetes in adults〉)が混在していると報告されている。早期にインスリン治療への切り替えが必要である。特に、若く、やせ型の患者に多いので、抗GAD抗体のチェックが必要である。(6)悪性腫瘍(膵臓癌、大腸癌、乳癌などの発症は糖尿病患者で多いと報告されている)。(7)隠れた感染症(膿瘍、壊疽など)。(8)内分泌疾患(褐色細胞腫、クッシング症候群、バセドウ病など)。(9)精神的ストレス、うつ。
  • インスリン療法

  • 1日1回注射(BOT):(1)SU薬1錠+メトホルミン塩酸塩3錠にランタス®あるいはレベミル®を夕食前4単位より追加。(2)1週間後くらいの慣れた頃より自己血糖測定を開始し、FPG 130mg/dl未満を目標に、2単位ずつ、1〜3日間隔でアップ。100mg/dl以下では2〜4単位減量。
  • 1日2回注射:測定体重1kg当たり0.2単位/日の30%速効型混合製剤を朝夕2:1で開始。例えば、体重60kgでノボラピッド®30ミックスまたはヒューマログ®ミックス25を朝8単位、夕4単位。
  • 1日3回注射:(1)測定体重1kg当たり0.2単位/日の超速効型を毎食前で開始。例えば、体重60kgでノボラピッド®またはヒューマログ®を朝4単位、昼4単位、夕4単位。(2)食後血糖値は低下してきても、FPGが上昇するときは、混合製剤に変更。ヒューマログ®ミックス50を朝昼夕1:1:1に切り替え。
  • 1日4回注射(強化インスリン療法):(1)測定体重1kg当たり0.2単位/日のインスリンを4分割で開始。例えば、体重60kgで速効型(ノボリン®Rやヒューマリン®R)を朝食直前3単位、昼食直前3単位、夕食直前3単位、眠前に中間型(ノボリン®Nやヒューマリン®N)を3単位から開始。(2)朝昼夕注射強化療法:強化療法が必要だが、眠前注射を忘れやすいタイプには夕食前に超速効型と持効型を同時に注射してもらう。例えば、体重60kgで1日3回超速効型(ノボラピッド®やヒューマログ®)を朝食直前3単位、昼食直前3単位、夕食直前3単位、持効型(レベミル®、ランタス®)を夕食直前3単位から開始。

処方例

    2型糖尿病

    合併症なし、肥満あり、HbA1c 9.8%、FPG 180mg/dl

  • メルビン錠 または ネルビス錠(250mg) 3錠 分3 毎食後 より開始
  • 改善悪ければ、生活習慣介入強化のうえ、以下を併用

  • セイブル錠(50mg) または ベイスン錠(0.3mg) または グルコバイ錠(100mg) 3錠 分3 毎食前
  • 脳梗塞既往あり、肥満あり、HbA1c 8.5%、FPG 170mg/dl

  • メルビン錠 または ネルビス錠(250mg) 3錠 分3 毎食後 より開始
  • 改善悪ければ、生活習慣介入強化のうえ、以下を併用

  • アクトス錠(15mg) 1錠 分1 朝食後
  • 合併症なし、肥満なし、HbA1c 8.8%、FPG 210mg/dl

  • アマリール錠(1mg) 0.5錠 分1 より開始
  • 改善悪ければ、以下を併用

  • メルビン錠 または ネルビス錠(250mg) 3錠 分3 毎食後
  • 狭心症既往、肥満なし、HbA1c 6.5%、FPG 120mg/dl

  • スターシス錠(90mg) 3錠 分3 毎食前 より開始
  • 改善悪ければ、以下のいずれかを併用

  • メルビン錠 または ネルビス錠(250mg) 3錠 分3 毎食後 
  • アクトス(15mg) 1錠 分1 朝食後 
  • 心筋梗塞既往、肥満あり、HbA1c 8.5%、FPG 180mg/dl、Cre 1.35mg/dl

    アマリール錠(3mg) 1錠、アクトス錠(15mg) 1錠、セイブル錠(50mg) 3錠、服用中。腎不全があるため、インスリンへ切り替える方向((1)〜(4)へ)。

    (1)ランタス注 または レベミル注 6単位 夕食前 より開始

    (2)アマリール錠を減量しながら、ランタス注またはレベミル注を3単位ずつアップ

    (3)アマリール錠を中止

    (4)改善が悪ければ、ヒューマログ注またはノボラピッド注を夕食前に3単位追加、さらには朝食前にも追加。最終的には、超速効型3回+持効型1回へ

    1型糖尿病

    合併症なし、肥満なし、HbA1c 10.2%、FPG 280mg/dl

  • 超速効型3回+持効型1回を開始。ヒューマログ注またはノボラピッド注を毎食前に3単位ずつ、ランタス注を夕食前3単位から開始

患者・家族への説明のポイント

診断時

  1. 糖尿病の診断時、特に1型は患者、家族の心理的混乱が大きい。否認、悲しみ、憂うつ、不安、怒りなどの心理的反応を引き起こす。「悲嘆のプロセス」の時期(表10)に対応した心理社会的援助法が望まれる。
  2. 糖尿病患者への説明、療養指導の主眼は「患者が糖尿病をよく理解し、進んで血糖コントロールの目標を達成する意欲を持つようになること」である。健康は自分で守るとういう主体性を持ち、決して治療、通院を自己判断で中断しないことが重要である。無症状であり、「自己管理責任」を強いられるため、どうしても中断例が後を絶たない。
  3. 患者の持つ知識、技術、生活習慣、自己管理行動の程度を評価することが重要である。

治療法強化時(特にインスリン療法導入時)

  1. 物治療、特にインスリン療法が開始されるときには、治療への拒否感、療養に失敗したという後悔や罪悪感、改善しないという喪失感、注射行為への抵抗などを伴いやすい。以下の「自己管理行動を促進する心理行動学的方法」が必要(「糖尿病治療ガイド2008-2009」より)。(1)治療関係の説明;協力して問題解決に当たる、(2)糖尿病と治療に対する思い、糖尿病の知識と技術を評価、(3)当面解決すべき1つの行動に絞る(例:インスリン自己注射)、(4)準備状態の評価;すぐに始めるつもりがあるか、迷っているか、まったく嫌か、(5)利益の確認と障壁の確認(例:血糖値改善、注射が怖い)、(6)目標と手順の設定(例:注射器準備手順を学ぶ/1回自分で打つ)、(7)実行と結果の評価。

合併症発症時

  1. 失明や末期腎不全など重症合併症が現れたときにも強い情緒的反応(悲嘆反応)が起こる。表10に示すような否認、ショックで始まり、悲しみ、怒り、憂うつなどの心理的反応が出現する。
  2. 患者のペースに合わせた支援をチーム医療で行う必要がある。

表10 悲嘆のプロセス

時期 感情 身体症状 思考 変化のサイン 援助法
ショック期 無感覚 泣く 否認   現状や事実がどう認識されているかを明らかにする。
悲嘆期 怒り,悲しみ,不安,抑うつ 食欲低下,疲労感,不眠 罪悪感,自殺念慮 小さな変化 感情が表現できる場を提供する。 自殺念慮に注意する。 失われたものの個人にとっての意味,最も重大な喪失は何かを発見する。
転回点         変化しようとする言動を発見する。 新たに必要なセルフケア技術の指導。
解消期     冷静に過去を振り返る 活動の意欲,新しい関係 利用できる社会資源を伝える。 新しい状況への適応が自信につながる。

(日本糖尿病学会編.糖尿病療養指導の手びき〈改訂第3版〉.p31.南江堂,2007より作成)


どのような場合に専門医に紹介すべきか

  • 急性合併症:糖尿病昏睡(糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧性高血糖症候群)
  • 感染症:尿路感染症、皮膚感染、足感染、口腔感染に要注意。肺結核もまれでない
  • 慢性合併症、細小血管症:網膜症悪化時、腎症悪化時(蛋白尿の出現、GFRの低下)、神経障害;多発神経障害悪化時、単神経障害(動眼神経麻痺、滑車神経麻痺、外転神経麻痺、顔面神経麻痺)出現時
  • 慢性合併症、大血管症:脳梗塞、虚血性心疾患、下肢閉塞性動脈硬化症の発症時
  • 小児糖尿病、1型糖尿病
  • 重度肝障害、腎障害のある場合
  • 外傷、中等度以上の外科手術時
  • 糖尿病合併妊娠、妊娠希望の女性
  • 静脈栄養時の血糖コントロールが必要な場合

参考文献

  • 日本糖尿病学会 編:糖尿病食事療法のための食品交換表 第6版.文光堂,東京,2002.
  • Wallace TM : The drug treatment of type 2 diabetes. Textbook of Diabetes. Third Edition, ed. by JC Pickup and G Williams. Blackwell, 2003.
  • 横山 健 他:虚血性心疾患の診断手順.糖尿病患者の大血管障害予防ガイダンス(山田信博 編).p66,メジカルビュー社,東京,2005.
  • 日本糖尿病対策推進会議(日本医師会・日本糖尿病学会・日本糖尿病協会) 編:糖尿病治療のエッセンス 2007年版.文光堂,東京,2007.
  • 日本糖尿病学会 編:糖尿病療養指導の手びき(改訂第3版).南江堂,東京,2007.
  • 日本糖尿病学会 編:科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン(改訂第2版).南江堂,東京,2007.
  • 堀田 饒 他:アンケート調査による日本人糖尿病の死因−1991〜2000年の10年間,18,385名での検討−.糖尿病,50:47,2007.
  • 日本糖尿病学会 編:糖尿病治療ガイド2008-2009.文光堂,東京,2008.
  • 日本糖尿病協会 編:糖尿病の治療 新たなる展開.別冊プラクティス.医歯薬出版,東京,2008. 
  • 鴨嶋ひかる 他:糖尿病.今日の診療のために ガイドライン外来診療2008.p155,日経メディカル開発,東京,2008.
  • American Diabetes Association : Standards of Medical Care in Diabetes―2008. Diabetes Care 31 : S12, 2008.
  • 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編:高血圧治療ガイドライン2009.日本高血圧学会,東京,2009.
ガイドライン外来診療2010
詳細はこちら

詳細は『ガイドライン外来診療2010年度版』で!

◎このコーナーでは、毎年発行されている書籍『ガイドライン外来診療』の2009年度版から、代表的な46疾患の診断、治療、処方例などを簡潔に解説した「要約」を転載しています。
◎書籍の最新版『ガイドライン外来診療2010』では、診断・治療のポイントとともに代表処方例を200以上掲載するほか、専門医の管理・治療が必要な26疾患の解説も掲載しています。また図表200点以上を収載、臨床現場で使いやすい2色刷になっています。

編集主幹:泉 孝英(京都大学名誉教授/京都・中央診療所)

Information PR

ログインしていません

Close UpコンテンツPR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. わいせつ容疑の外科医、初公判で無罪を主張 「乳腺科医のプライドにかけて無罪を主張します」 FBシェア数:594
  2. 男性医師は何歳で結婚すべきか、ゆるく考えた 独身外科医のこじらせ恋愛論 FBシェア数:66
  3. 何気ない言葉の効果 じたばたナース FBシェア数:3
  4. 梅毒の流行が止まらず、11カ月で4000人を突破 パンデミックに挑む:トピックス FBシェア数:351
  5. 開業日未定でも開業スタッフ確保の秘術 原田文子の「レッツ ENJOY ライフ」 FBシェア数:72
  6. 繰り返す乾燥肌やマラセチアの陰に保温肌着 リポート◎保温肌着の愛用者かどうかを聞き取り適切な生活指導を FBシェア数:531
  7. トイレにこそ、人間の尊厳がある Dr.西&Dr.宮森の「高齢者診療はエビデンスだけじゃいかんのです」 FBシェア数:481
  8. 見逃し注意!コニール分2の適応違い セキララ告白!個別指導 FBシェア数:36
  9. 佐久の医師たちがハッとした海外研修生の一言 色平哲郎の「医のふるさと」 FBシェア数:97
  10. 左主冠動脈狭窄ではCABGがPCIに勝る Lancet誌から FBシェア数:153