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ガイドライン外来診療2009
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- NTT東日本関東病院 消化器内科 部長 松橋 信行
診断
- 消化性潰瘍患者の症状は無症状から激烈な症状まで多様である。
- 心窩部痛は十二指腸潰瘍では空腹時、胃潰瘍では食後にみられることが多い。
- 消化性潰瘍の既往歴、H. pylori 検査歴、アスピリン(アスピリン® など)を含めたNSAIDs使用状況などをよく問診する。
- 消化管出血や心窩部痛を起こす疾患との鑑別が必要。
- 内視鏡検査が診断に最も有用だがバリウム検査も有用。
- 胃潰瘍では癌性潰瘍を除外することが重要。
- 潰瘍が確認されたら、H. pylori 感染状態が未知の場合はH. pylori 感染の検査を行う。
治 療
- 潰瘍治療は(1)合併症コントロール、(2)潰瘍の初期治療、(3)再発防止、の3つのフェーズからなる。
- 出血、穿孔などの合併症が起きている場合はまずそれらの合併症のコントロールが最優先。
- 穿孔に対しては緊急手術が原則だが、場合により保存的治療ですむ場合もある。
- 出血の場合はまず内視鏡的止血。それでコントロール困難な場合は経動脈的塞栓術や手術。
- 合併症がないときや合併症が落ち着いた後では、潰瘍自体の治癒を目指した初期治療を行う。
- NSAIDsの関与しないH. pylori 潰瘍では除菌治療を行う。
- その場合、1.5cm以上の潰瘍ではプロトンポンプ阻害薬(PPI)またはH2 受容体拮抗薬(H2 RA)による治療を併用する。
- 除菌判定は、除菌薬服用終了後1カ月以上たってから、できれば尿素呼気試験で行う。
- 1次除菌失敗例では2次除菌が可能。1次、2次とも成功率は約8割。
- 何らかの事情で除菌治療ができない場合はPPI治療を行う。PPIも使用できない場合はH2 RAを使う。
- NSAIDs服用中に発生した潰瘍では、NSAIDs中止が最優先。
- NSAIDs中止が困難なときはプロスタグランジン(PG)製剤かPPIが有効だが、PG製剤は下痢や腹痛を起こしやすく、また妊婦には不可。
- 非H. pylori 非NSAIDs潰瘍や除菌失敗例のH. pylori 潰瘍ではPPIやH2 RAによる初期治療を行う。
- 潰瘍治癒後は維持療法が必要な場合と不要の場合がある。
- H. pylori 除菌が成功したH. pylori 潰瘍例では維持療法は不要。
- H. pylori 除菌失敗例では維持療法が必要で、おもに半量のH2 RAが使われる。
- NSAIDsを中止できない場合は、潰瘍治癒後のPPI、PG製剤、倍量のH2 RAが潰瘍予防に有効であることが示されているが、今の日本では予防投与は保険適用がない。
- NSAIDsを選択的COX-2阻害薬に変更するとNSAIDs潰瘍の再発を減らすことができるが、この薬剤は心血管イベントのリスクを増やす可能性があり、慎重を要する。
- 日常生活では喫煙やNSAIDs乱用を慎むことを指導する。
臨床検査項目/臨床検査値(正常値/基準値)
- 貧血、活動性の出血、慢性潰瘍による低栄養状態などの指標が利用される。
- 潰瘍による貧血ではHb低下、MCV低下がみられるが、急性出血ではMCVが下がらないし、出血1〜2時間以内の超急性期ではHbも下がっていないことがあるので注意が必要。
- 出血の急性期ではCrはあまり上昇しないのに対しBUNが高度に上昇する。
- 慢性潰瘍による低栄養状態ではアルブミン、総コレステロール、コリンエステラーゼなどの低下がみられる。
- Hb:男性13.5〜16.9g/dl 女性11.4〜15.0g/dl
- MCV:86.3〜102.6
- BUN:7〜20mg/dl
- Cr:0.5〜1.1mg/dl
- アルブミン:3.9〜4.9g/dl
- 総コレステロール:130〜219mg/dl
- コリンエステラーゼ:168〜469IU/l
- また、潰瘍があった場合はH. pylori 検査が必須であり、血液または尿中抗H. pylori 抗体測定法、尿素呼気試験、便中H. pylori 抗原測定法、迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法が行われる。除菌判定には偽陽性、偽陰性の少ない尿素呼気試験が望ましい。
処方例
- パリエット錠(10mg) 2錠 分2 朝 夕 食後 7日間
- サワシリンカプセル(250mg) 6カプセル 分2 朝 夕 食後 7日間
- クラリス錠(200mg) 2錠 または 4錠 分2 朝 夕 食後 7日間
- オメプラール錠(20mg) 2錠 分2 朝 夕 食後 7日間
- サワシリンカプセル(250mg) 6カプセル 分2 朝 夕 食後 7日間
- クラリス錠(200mg) 2錠 または 4錠 分2 朝 夕 食後 7日間
- ランサップ400 または ランサップ800 分2 朝 夕 食後 7日間
- タケプロンOD錠(30mg) 2錠 分2 朝 夕 食後 7日間
- サワシリンカプセル(250mg) 6カプセル 分2 朝 夕 食後 7日間
- フラジール錠(250mg) 2錠 分2 朝 夕 食後 7日間
- オメプラール錠(20mg) 2錠 分2 朝 夕 食後 7日間
- サワシリンカプセル(250mg) 6カプセル 分2 朝 夕 食後 7日間
- フラジール錠(250mg) 2錠 分2 朝 夕 食後 7日間
- パリエット錠(10mg) 2錠 分2 朝 夕 食後 7日間
- サワシリンカプセル(250mg) 6カプセル 分2 朝 夕 食後 7日間
- フラジール錠(250mg) 2錠 分2 朝 夕 食後 7日間
- オメプラール錠(20mg) 1錠 分1 朝食後
- プロマックD錠(75mg) 2錠 分2 朝 夕 食後
- タケプロンOD錠(30mg) 1錠 分1 朝食後
- ムコスタ錠(100mg) 3錠 分3 朝 夕 就寝前
- パリエット錠(10mg) 1錠 分1 朝食後
- セルベックスカプセル(50mg) 3カプセル 分3 食後
H. pylori 除菌療法
1次除菌
処方1(以下を併用)
処方2(以下を併用)
処方3
2次除菌
処方1(以下を併用)
処方2(以下を併用)
処方3(以下を併用)
除菌治療以外の胃潰瘍の治療
初期治療(以下を併用)
または(以下を併用)
または(以下を併用)
重症例の初期治療(以下を併用)
- パリエット錠(20mg) 1錠 分1 朝食後
- ムコスタ錠(100mg) 3錠 分3 朝 夕 就寝前
- アルサルミン液(10mL) 3包 分3 食間
維持療法(いずれかを選択)
- プロテカジン錠(10mg) 1錠 分1 夕食後
- アルタットカプセル(75mg) 1カプセル 分1 夕食後
除菌治療以外の十二指腸潰瘍の治療
初期治療(以下のいずれかを選択)
- オメプラール錠(20mg) 1錠 分1 朝食後
- タケプロンOD錠(30mg) 1錠 分1 朝食後
- パリエット錠(10mg) 1錠 分1 朝食後
重症例の初期治療(以下を併用)
- パリエット錠(20mg) 1錠 分1 朝食後
- アルサルミン液(10mL) 3包 分3 食間
維持療法(いずれかを選択)
- ガスターD錠(20mg) 1錠 分1 夕食後
- ザンタック錠(150mg) 1錠 分1 夕食後
- サイトテック錠(200μg)* 4錠 分4 食後 就寝前
- オメプラール錠(20mg)* 1錠 分1 朝食後
- ガスターD錠(20mg)* 4錠 分2 朝 夕 食後
NSAIDsを中止できないNSAIDs潰瘍の再発予防
(以下のいずれかを選択)
*保険適用注意
患者・家族への説明のポイント
- 出血、穿孔などの合併症さえコントロールできれば生命予後は良好。
- 診断には内視鏡検査が最適。一見しただけでは良性潰瘍にみえる癌もまれでなく、癌の除外のための生検が必要なことも多い。
- H. pylori とNSAIDsが2大原因。
- H. pylori 潰瘍では除菌が根治療法で、数%の例外を除くと除菌成功後は再発しない。
- 一度除菌に失敗しても2次除菌が可能で、除菌成功率は1次、2次とも80%程度。
- 除菌失敗例や除菌成功後の再発潰瘍例では維持療法が必要。
- 低用量アスピリンを含めたNSAIDsは潰瘍の原因となり得る。
- NSAIDs潰瘍ではNSAIDs中止が最良の治療。中止できない場合は潰瘍再発があり得る。
- NSAIDs潰瘍予防の投薬については健康保険の適用がない。
- 日常生活では喫煙やNSAIDs乱用を慎む。
どのような場合に専門医に紹介すべきか
- 急な激しい腹痛で穿孔が疑われるとき
- 難治例
- 吐血、下血があるとき
- 癌が否定できない場合
- Hb 8g/dl以下の高度な貧血があるとき
参考文献
- 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会:Helicobacter pylori 感染の診断と治療のガイドライン 改訂版.日本ヘリコバクター学会雑誌4(suppl.):2,2003.
- University of Michigan Health System : Peptic ulcer disease. 2005. 〈http://www.guideline.gov/summary/summary.aspx?doc_id=7406〉
- 胃潰瘍ガイドラインの適用と評価に関する研究班 編:EBMに基づく胃潰瘍診療ガイドライン 第2版−H. pylori 二次除菌保険適用対応−.じほう,東京,2007.