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ガイドライン外来診療2009

虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)

  • 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター内科 教授 木村 一雄 
    横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター内科 准教授 海老名 俊明

診断

  • 胸痛患者をみるときにその患者が虚血性心疾患であるか否か、特に急性冠症候群であるか否かを判断することが大事である。そのために症状の開始時期、胸痛の誘因、胸痛の起こる時間帯、持続時間、頻度、胸痛の閾値の変化(より軽労作での胸痛、安静時胸痛があるか)、ニトログリセリンの効果、随伴症状(冷汗、嘔吐、失神など)を詳細に聴取する。
  • 12誘導心電図、血液検査を行う。胸痛がないときの心電図が正常であっても狭心症を否定することはできない。狭心症の発作時には心電図上ST低下や陰性T波を認めることが多い。
  • 急性心筋梗塞では心電図上ST上昇を認めることが多いが、ST低下や軽微なST偏位のみ認めることもある。
  • 心筋トロポニンT(トロップT®)や心臓型脂肪酸結合蛋白(H-FABP;ラピチェック®)は心筋壊死が生じた所見であり、不安定狭心症と診断された例ではハイリスクと考えられる。一方、急性心筋梗塞では時間経過とともにこれらは必ず陽性となる。
  • 急性冠症候群が疑われる場合には、迅速に循環器専門医療機関に依頼する。
  • 狭心症の診断方法には、運動負荷心電図、ホルター心電図、負荷心筋血流イメージング、薬物負荷心エコー図法、CT、MRIなどがある。最終的な診断方法として冠動脈造影があり、冠動脈狭窄の部位や程度、病変数などを評価する。

治療

  • 狭心症の治療目標:急性心筋梗塞やこれに起因した死亡を予防することによる予後の改善と狭心症症状の軽減もしくは消失による生活の質の向上。
  • 安定狭心症の管理のポイント:①狭心症増悪に関連する疾患の同定と治療、②冠動脈疾患危険因子の減少、③食事・運動・禁煙など生活習慣の改善、④薬物治療、⑤経皮的冠動脈形成術(PCI)または冠動脈バイパス術(CABG)による冠動脈血行再建術。
  • 急性心筋梗塞の治療目標:発症早期の心室細動を代表とする致死的不整脈による心停止からの回避および蘇生と、最も重要な予後規定因子である左室機能保持を目指した梗塞サイズ縮小。

処方例

労作狭心症

(以下を適宜併用)

  • バイアスピリン錠(100mg) 1錠 分1 朝食後
  • テノーミン錠(25mg) 1錠 分1 朝食後 または
    メインテート錠(2.5mg) 1錠 分1 朝食後
  • アイトロール錠(20mg) 2錠 分2 朝 夕 食後
  • ニトロペン舌下錠(0.3mg) 1錠 舌下投与 胸痛時

冠攣縮性狭心症

(以下を適宜併用)

  • ヘルベッサーRカプセル(100mg) 1〜2カプセル 分1〜2 朝(夕)食後 または
    アダラートCR錠(40mg) 1錠 分1 朝食後
  • アイトロール錠(20mg) 2錠 分2 朝 夕 食後
  • ニトロペン舌下錠(0.3mg) 1錠 舌下投与 胸痛時

陳旧性心筋梗塞

(以下を適宜併用)

  • バイアスピリン錠(100mg) 1錠 分1 朝食後
  • アーチスト錠(10mg) 1錠 分1 朝食後
    ・アーチスト錠は開始時は心機能に応じて少量から時間をかけて増量していく。
  • レニベース錠(5mg) 1錠 分1 朝食後 または
    ブロプレス錠(8mg) 1錠 分1 朝食後

高LDLコレステロール血症症例
(以下を上記に併用)

  • メバロチン錠(10mg) 1錠 分1 夕食後 または
    リピトール錠(10mg) 1錠 分1 夕食後

高齢者に対する投薬上の注意

高齢者では、腎機能や肝機能が低下していることが予想され、少量から開始する。特に、潜在的に腎機能低下を認めることが多いため、腎排泄の薬剤の投与量には注意を要する。また、よく使う薬剤の代謝排泄経路を把握し、腎機能や肝機能に応じて適宜減量することが望ましい。

患者・家族への説明のポイント

  • 安定狭心症では、労作時に胸痛を起こすことはあっても急性心筋梗塞は起こしにくく生命予後は良好である。生活習慣の改善、内服の遵守を徹底させる。
  • 特に、冠攣縮性狭心症におけるCa拮抗薬をはじめとした狭心症治療薬は、中止すると狭心症発作が起こるのみならず突然死に至る危険性があるため自己中断しないように説明する。
  • DES(ステントに内膜増殖抑制作用を有する薬剤を塗布した薬剤溶出ステント)留置例では、長期にわたり2種類の抗血小板薬を内服する必要があるため、抜歯や内視鏡検査の際にも安易に休薬しないように指導する。
  • 心筋梗塞既往例では、低心機能患者の場合、心不全の管理も必要になるため、上記の点に加え、塩分、水分、体重の管理や感染症予防も重要になる。
  • 胸痛出現時にはニトログリセリンを舌下するが、1錠舌下しても胸痛が続く場合はただちに救急車を要請し専門医療機関を救急受診するように勧める。

どのような場合に専門医に紹介すべきか

  • 急性冠症候群が疑われる場合
  • 新たに発症した労作狭心症、あるいは少なくとも6カ月以上発作のなかったものが再発したとき
  • 労作狭心症の発作の頻度の増加、持続時間の延長、疼痛および放散痛の増強、軽度の労作でも生じやすく、ニトログリセリン舌下錠の効果が悪くなったとき
  • 安静時に発作を生じ、15分以上持続しニトログリセリンに反応しにくい場合であり、ST上昇ないし下降、T波の陰転を認めるとき
  • 症状や心電図変化、心筋トロポニンTやH-FABP陽性などから急性心筋梗塞が疑われるとき
  • 心筋梗塞の既往のある患者で心不全症状があるとき

参考文献

  • Fuster V, et al : The pathogenesis of coronary artery disease and acute coronary syndromes(1). N Engl J Med 326 : 242, 1992.
  • Libby P : The molecular bases of the acute coronary syndromes. Circulation 91 : 2844, 1995.
  • Gibbons RJ, et al : ACC/AHA 2002 guideline update for the management of patients with chronic stable angina : a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines(Committee to Update the 1999 Guidelines for the Management of Patients with Chronic Stable Angina). 2002.
  • 日本循環器学会 他 編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004年度合同研究班報告)慢性虚血性心疾患の診断と病態把握のための検査法の選択基準に関するガイドライン(2005年改訂版).〈http://www.j-circ.or.jp/guideline/

    pdf/JCS2005_yokoyama_h.pdf〉

  • 日本循環器学会 他 編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2004-2005年度合同研究班報告)心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2006年改訂版).〈http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2006_ishikawa_h.pdf〉
  • 日本循環器学会 他 編:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006年度合同研究班報告)急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2007年改訂版).

    〈http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2007_yamaguchi_h.pdf〉

  • Anderson JL, et al : ACC/AHA 2007 guidelines for the management of patients with unstable angina/non-ST-elevation myocardial infarction : a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Revise the 2002 Guidelines for the Management of Patients with Unstable Angina/Non-ST-Elevation Myocardial Infarction). Circulation 116 : e148, 2007.
  • Antman EM, et al : ST-elevation myocardial infarction : Pathology, pathophysiology, and clinical features. Braunwald’s Heart Disease, 8th Edition(Libby P, et al, Ed.). p1207, Saunders, Philadelphia, 2008.
ガイドライン外来診療2010
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編集主幹:泉 孝英(京都大学名誉教授/京都・中央診療所)

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