2006.03.22

胃がん 標準治療のエッセンス 検診の発達で早期発見増え、予後も良好に

診 断
 日本では、全国各地で胃がん検診が非常に盛んです。こうした、地方自治体などが無料で実施している胃がん検診は、「胃X線二重造影」という検査が主体です。この検査法では、硫酸バリウムというX線を通さない造影剤と、胃を膨らませて観察しやすくする発泡剤を飲んで、X線で撮影します。胃の微妙な表面の変化などを観察でき、患者さんの負担も比較的軽い検査です。

 また、採血して、胃で分泌されている「ペプシノゲン」という酵素の量を測る、より簡便な検査が行われることもあります。この検査で胃がんかどうかを正確に判断することはできませんが、胃の粘膜の状態を予測し、胃がんになる可能性が高いかどうかを知ることができます。

 胃がんが疑われた場合には、先端にカメラの付いた内視鏡、いわゆる「胃カメラ」による検査を行います。最近はだいぶ直径の細い内視鏡が発売されていますが、それでも、大体、小指から人さし指程度の太さの長い管を口から胃まで入れることになります。内視鏡を飲み込むときに、のどが異物を吐き出そうとする「嘔吐反射」がありますが、鎮静剤などを用いることでかなり楽に行えるようになっています。

 内視鏡検査では、病変と思われる部分を見つけたら、その部分を拡大観察したり、先端の穴から特殊な色素の溶液をかけて詳しく観察します。また、先端の穴から専用の器具を入れて、顕微鏡観察するための組織をつまみ取る場合もあります。顕微鏡でがん細胞が見つかれば、胃がんだと診断が確定します。

 胃がんと分かった後も、今後の治療方針を決めるため、がんがどの程度の広さと深さをもって広がっているかを調べる検査が必要です。直接撮影による胃X線検査、専門医による内視鏡検査のほかに、「超音波内視鏡検査」や「コンピューター断層撮影(CT)検査」などが行われます。

 超音波内視鏡検査は、先端に、超音波を発生させて胃の断面写真を撮影する小型装置が付いている内視鏡を用います。胃の壁の断面が撮影できるので、がんがどのくらいの深さまで潜っているのか分かります。ただし、診断精度は80%程度であり、経験の多い専門医の内視鏡検査と大きな差はありません。

 CT検査は、X線で身体全体の輪切り画像を撮影して、リンパ節や肝臓など胃の周りにある臓器にがんが広がっていないかどうかを調べます。この検査では通常、造影剤を使います。

 がんの進行具合によっては、大腸に異常が及んでいないかどうか調べるために、「注腸造影」という検査を行います。この検査では、肛門から造影剤と空気を入れて腸を膨らませ、X線で撮影します。

 血液検査は必ず行います。血液検査では、肝臓や腎臓など重要な臓器に障害がないかをチェックすることと、胃がん細胞が作って血液中に放出する「腫瘍マーカー」と呼ばれる物質の量を測定します。数値が高いとがんである可能性が高くなりますが、高度に進行したがんでも数値が低いこともあり、正確な診断方法ではありません。がんの進行度合いや活発に増えているかどうかを推測する手段と考えてください。

治 療

 診断後は、胃がんの深さと転移の状況を両方考慮して治療法を決定します(前ページ表1)。なお、この治療法の分類は、多くの医師が現在、通常の診療のなかで行うことが妥当だと考えている標準的な治療法となっています。患者さんの年齢や体力といった要素や病気の進行具合などを考え合わせると、ほかにも様々な治療法が考えられます。担当の医師とよく相談してください。

 一部の施設では、患者さんの負担をより少なくして、1人でも多くの患者さんが長く生きられるよう、新たな工夫をいろいろと試みています。例えば、より広範囲のがんを内視鏡的に切り取る試みや、腹腔鏡という特殊な内視鏡を用いて傷口の小さな手術を行う試み、手術の前に化学療法を行って、手術の効果を高める試み―などです。

 こうした研究的な治療法のなかには、いずれ標準的な治療法となるものもあると考えられます。図1に書かれていない治療法を勧められる場合には、必ず標準治療と対比した説明があるはずです。担当の医師から、その治療法の意義や危険性などを十分説明してもらってください。不安が残る場合には、他の専門医の意見を聞くことも参考になるでしょう。

 現在広く行われている治療法を大きく分けると、胃の一部もしくは全部を切り取る外科的手術、内視鏡を用いて胃の内側の組織のみを切り取る内視鏡的手術、抗がん剤を用いた化学療法の3つになります。また、がんの症状を和らげるために、放射線を用いた放射線療法などが行われることもあります。

 このうち、最も一般的に行われている外科的手術は、胃の切除、がんが潜んでいる可能性の高い周囲のリンパ節切除、食べ物の通り道の再建、という流れで行われます。胃がんは、血管(静脈)とリンパ管を通って他の臓器へと広がっていきます。このため、胃の近くのリンパ節にはがん細胞が潜んでいる可能性が高く、手術の際に一緒に切除されます。また、食べ物の通り道の再建には、胃と十二指腸をつなぎ合わせたり、胃と小腸をつなぎ合わせるなど、様々な方法があります。

 現在は、胃の3分の2以上と、胃に接する最も近いリンパ節と胃の周囲の血管に沿ったリンパ節を、その周囲の組織とともに一括して取り除く手術法が「定型手術」となっています。がんは、胃の出口に当たる「幽門」に近い場所にできることが多く、定型手術で幽門側を切り取る手術法を「幽門側胃切除術」と言います。逆に、食道から食べ物を受け取る入り口の役割を果たす「噴門」近くにがんがあった場合には「噴門側胃切除術」が行われます。ただしこれは早期胃がんに限って行うことが多いです。

 以前は、胃のほぼ全体と広範囲のリンパ節を切り取る手術が多く行われてきましたが、最近は、胃の機能をできるだけ温存して、患者さんにかかる負担を減らそうと、がんの範囲を事前に正確に見極めて、切り取る範囲を小さくして、入り口や出口の機能を残す方法が試みられています。定型手術に対し、胃やリンパ節の切除範囲を小さくした手術のことを「縮小手術」と呼びます。例えば、胃の真ん中辺りに早期のがんが見つかり、手術で胃の噴門も幽門も切除せずに済んだ場合には、噴門が切り取られると起こり得る食道への食べ物や胃液の逆流も、幽門がないために食べ物が一気に小腸に流れ込み不快な症状をきたすことも防げる可能性があります。

 胃がんがごく浅くしかも狭い範囲にとどまっていれば、口から内視鏡を入れて、病変部を確認した後、内視鏡の穴から専用の器具を出し、がんを切り取る内視鏡的手術が行われます。従来は「スネア」というリング状の針金を病変部に引っかけて焼き切る方法が行われてきましたが、最近、器具の開発が進み、針金より広範囲の病変も、完全にはがし取ることができるようになってきました。

 抗がん剤は、がんの範囲が広く、手術でがんを完全に取り除くことができない場合に考慮されます。薬の開発が進み、がんを小さくする効果が見られる薬は出てきましたが、薬だけで完全にがんがなくなることはほとんどありません。このため、抗がん剤による治療は、治癒より延命を主な目的としています。

予 後

 胃がんは、その進行度合いによって予後(回復の見込み)が大きく異なります。医師用の胃がん治療ガイドラインには、初めて見つかった胃がんに定型手術を行った後、患者が5年たって生きている確率(5年生存率)が記載されています(表2)。粘膜層にとどまる早期がんでは9割近い生存率ですが、他の臓器にまでがんが転移していた場合、生存率は2〜3割に低下します。このことからも、早期発見が大切であると言えます。

 消化器のがんのなかで、胃がんは比較的治りやすいがんとされています。しかし、一度完全に切除できても、がんが再発する可能性はゼロではありません。また、別の場所にがんができる場合もあります。担当の医師と相談し、1年に1度は必ず検査を受けるようにしてください。

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