2006.03.17

遺伝的に酒に弱い人はニトロ舌下錠が効かない?! 一酸化窒素放出にアセトアルデヒド脱水素酵素が関与

 日本人や中国人に多い生まれつき酒に弱い人では、狭心症の治療に用いるニトログリセリンが効きにくい可能性があることがこのほど明らかになった。アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が、アセトアルデヒドの代謝とニトログリセリンからの一酸化窒素(NO)生成の両方にかかわるためで、胎児の肝臓を用いた実験では、酒に弱い遺伝子変異を持つ人では、ニトログリセリンの代謝効率はほぼ10分の1にとどまった。こうした遺伝子を持つかどうかは、アルコールパッチテストや検査機関のテストで容易に分かるため、狭心症治療時にも応用できる可能性がある。中国復旦大学Yifeng Li氏らの研究成果で、詳細はJournal of Clinical Investigation誌2006年2月号に報告された。

 ニトログリセリンは、1世紀以上にわたって狭心症や心不全の治療に用いられてきた。ニトログリセリンは、一酸化窒素(NO)の生成を通じて平滑筋を弛緩させる。ニトログリセリンは、代謝されると、NOまたはNO供与体であるS-ニトロソチオールを放出する。NOは、cGMPの活性化を経て平滑筋を弛緩させる。先頃、ニトログリセリンからのNO放出にALDH2が重要な役割を果たすことが明らかになった。飲酒により生じたアセトアルデヒドを酢酸に変える酵素としてよく知られている。

 Li氏らは、中国人の狭心症患者80人を調べ、ALDH2にアルコール代謝の能力を大きく減じる変異がある場合、ニトログリセリンに反応しない確率が高くなることを示した。

 ALDH2のエクソン12に見出される一般的な変異(504位がグルタミンからリシンに置き換わっている*)は、アセトアルデヒドを代謝する能力を失わせる。Glu/Lysのヘテロ接合の場合、活性はGluホモ型の約6%、Lysホモ型なら活性は全くない。世界的に見ると、東洋人にはLys変異を持つ人が30〜50%と非常に多い(日本人では43%)。変異は常染色体優性遺伝する。

 著者たちは、中国人の冠疾患患者568人から、安定狭心症で、急性の発作時にニトログリセリンを自分で使用し、それ以外の治療薬は同時に用いていない患者を選び、分析に適した80人を調べて、ニトログリセリンが有効な患者59人(74%)と有効でない患者21人(26%)に分けた。ニトログリセリンに対する反応は11段階に分類(0は痛みなし、10は最大)。ニトログリセリンによって痛みが2段階以上軽減し、絞扼感の持続時間が短縮した患者を有効群、痛みの軽減はないか1段階にとどmり、絞扼感の持続時間の短縮がない患者を非有効群とした。ニトログリセリン使用から10分以上経って痛みに変化が現れた患者は除外した。

 80人のALDH2遺伝子を調べたところ、有効群では40人がGluホモ型、19人がLys(ホモまたはヘテロ)型、非有効群では7人がGluホモ型、14人がLys(ホモまたはヘテロ)型だった。Lys型遺伝子を1つ以上持つグループとGlu型遺伝子を持つグループを比べると、オッズ比4.21で、Glu型群の方が有意にニトログリセリンが有効であることが判明した。性別、年齢、病気の程度で調整しても関係は有意だった。

 次に、in vitroでGlu型とLys型の酵素活性の比較を試みた。自然流産となった胎児の肝臓から精製した酵素を用いたが、Lysホモ接合の胎児が得られなかったため、遺伝子組み換えにより、Gluホモ酵素とLysホモ酵素を作製した。

 その結果、GluホモとGlu/Lys、組み換えGluホモとLysホモのニトログリセリン代謝の触媒効率(Vmax/Km)は、それぞれ、0.627、0.055、0.369、0.042で、Lys変異が存在すると、活性はほぼ10分の1に減少した。

 得られた結果は、ALDH2の504位変異の存在がニトログリセリンに対する反応性を大きく損なうことを示した。著者たちは、Gluホモなら全員がニトログリセリンに反応、Lys変異を持つ全員がニトログリセリンに反応しない、という現象が見られなかった理由について、ニトログリセリン代謝に関わる他の遺伝子(グルタチオンS-トランスフェラーゼやチトクロームP450など)や環境要因の関与を予想している。

 この変異を持つ人が少なくない東洋人に対するニトログリセリン投与については、この変異を考慮する必要があるだろう。著者らは、遺伝子型を特定する検査が利用できない場合にも、飲酒時の反応に基づいて遺伝子型を予想することが可能ではないかと述べている。

 本論文の原題は「Mitochondrial aldehyde dehydrogenase-2 (ALDH2) Glu504Lys polymorphism contributes to the variation in efficacy of sublingual nitroglycerin」。現在、全文が、こちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


*Glu504Lysは、一般にGlu487 Lysと表記されてきた変異と同じもの。N末のリーダー・ペプチド17個を含めて数えると504位となる。


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