2006.03.16

胃がん手術後の生存期間はピロリ菌陽性者の方が長い、全生存期間で5年対1年半と大差

 胃がん手術を受けた患者の予後を追跡したところ、ピロリ菌陽性者の方が陰性者よりも大幅に生存期間が長い――常識的な予想を裏切るような研究成果がこのほど報告された。独Ludwig Maximilians University of MunichのGeorgios Meimarakis氏らが、治癒切除を受けた胃腺がん患者をピロリ菌陽性者と陰性者に分けて53カ月追跡したところ、無再発生存期間は、陽性者56.7カ月、陰性者19.2カ月、全生存期間は陽性者61.9カ月、陰性者19.2カ月と、大差がついた。詳細は、Lancet Oncology誌2006年3月号に報告された。

 1994年、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)が、ピロリ菌を発がん性クラスI(ヒトに対して発がん性がある)に分類した。が、ピロリ菌陰性でも胃がんになる患者は存在する。切除後の生存に対するピロリ菌の影響も明らかではなかった。

 そこで著者らは、1992年から2002年にかけて、同大学病院で胃腺がんの治癒(R0)切除を受けた166人(男性100人、女性66人、平均年齢65歳)の患者を対象に、生存期間とピロリ菌感染の関係を調べた。

 166人中127人が全摘、39人が亜全摘を受けた。補助療法が適用されたのは12人で、10人に術中放射線照射が、2人に術後の化学療法が行われた。

 手術前に患者からピロリ菌感染歴を聞き取り調査し、手術直後に生検標本を採取して、感染の有無を評価した。感染歴があると答えた患者と、検査で陽性になった患者をピロリ菌陽性と判断した。陽性者は125人、陰性者は41人だった。女性の方が陽性者の頻度は有意に高く、胃炎の活動性および重症度は、陽性者で有意に高かった。

 術後の追跡期間の中央値は53.0カ月で、その間に83人が再発した。うちピロリ菌陽性は58人(陽性者の46%)、陰性は25人(陰性者の61%)だった(p=0.0009)。無再発生存期間を比較すると、ピロリ菌陽性者は56.7カ月、陰性者では19.2カ月、全生存期間は、陽性者61.9カ月、陰性者19.2カ月で、いずれも陽性者の方が有意に長かった(それぞれp=0.0009、p=0.0017)。

多変量解析により、無再発生存の独立した予測因子を探したところ、ピロリ菌陰性(ハザード比2.16、p=0.0019)、リンパ節転移(同2.33、p=0.0015)、年齢が67.5歳以上(1.94、p=0.0043)などが該当した。

 全生存の独立した予測因子は、ピロリ菌陰性(ハザード比2.00、p=0.0057)、リンパ節転移(同2.11、p=0.0053)、患者の年齢が67.5歳以上(同1.75、p=0.0162)などだった。

 なお、全生存期間に対するピロリ菌感染の影響は、早期(T1とT2)患者では有意だったが、より進行した患者(T3とT4)では有意でなかった。同様にUICC分類でも、ステージIとIIの患者でのみ、陽性者の方が、全生存期間が有意に長かった。

 陽性者の方が予後が良い理由として、著者らは、抗腫瘍免疫の活性に差があるのではないかと考えた。注目したのは、制御性T細胞に仲介される免疫システムの抑制に役割を果たす、細胞表面抗原OX40(CD134)だ。腫瘍壊死因子受容体ファミリーのメンバーであるOX40を発現している制御性T細胞は、抗原特異的な免疫反応を抑制する。この抑制活性は、制御性T細胞表面にOX40が存在する場合に高いと報告されている。そこで著者らは、患者から切除した腫瘍組織におけるOX40発現細胞の数を比較した。すると、陰性者より陽性者で、OX40発現細胞が有意に少なかった(p=0.0273)。これは、T細胞の腫瘍特異的な免疫反応は、陽性者の方が高いことを示唆する。

 得られた結果は、ピロリ菌陰性者については、術後の追跡をより慎重に行い、必要なら積極的な治療を行うべきであることを示唆している。

 本論文の原題は「Helicobacter pylori as a prognostic indicator after curative resection of gastric carcinoma: a prospective study」。アブストラクトはLancet Oncology誌Webサイトの こちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


■ 関連トピックス ■
◆2006.3.15 日本胃癌学会速報】ピロリ菌除菌による胃癌予防、10年間の介入研究の結果が報告
◆2006.2.13 日本消化管学会速報】ピロリ除菌はEMR後の胃がん再発予防に「効果なし」
◆2004.1.15 ピロリ除菌による胃癌一次予防、初の無作為化試験結果が発表

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