2006.03.13

ヤコブ病のWHO診断基準に見逃しの恐れ 孤発型示す脳波で変異型、日本の症例基に見直しを提言

 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に関する世界保健機関(WHO)の診断基準を見直すべきだとする論文がLancet誌に掲載された。これまで、孤発型クロイツフェルト・ヤコブ病(sCJD)と変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の生前鑑別診断においては、脳波検査における周期性同期性放電(PSD)と、MRI検査における視床枕徴候(視床枕の高信号)の有無が重要とされてきた。が、日本のクロイツフェルト・ヤコブ病サーベイランス委員会の山田正仁氏らは、2004年12月に死亡した日本初のvCJD症例で、脳波図(EEG)はsCJDの特徴を示していたにもかかわらず、死後の病理学的検査でvCJDと確認された症例を発表、WHOの診断基準の見直しが必要であると指摘した。症例報告は、Lancet誌2006年3月11日号に発表された。

 患者は男性で、1990年代前半に英国に約24日間、フランスに3日間、vCJDの報告がない欧州の他の国にも2週間滞在していた。手術歴や輸血の経験はなく、プリオン病の家族歴もなかったが、2001年6月、48歳の時に漢字を書くことが困難になった。

 2001年10月には、精神症状が発現。興奮性が高まり、人格が変化し、記憶に障害が現れ、その後、脚に痛みを伴う異常感覚が生じた。さらに、運動失調、認知症、異常行動が見られるようになった。2002年8月に行われたMRI検査の画像では、視床部にわずかながら高信号が認められた。

 2003年1月、認知症、運動失調、過反射を示した。脳のMRI像は、視床部に相称性の高信号域を認めた。EEGは徐波化を示したが、sCJDに特徴的といわれるPSDは認められなかった。脳脊髄液の14-3-3蛋白質は陽性。14-3-3蛋白質は、神経細胞が急速に損なわれる病気で高値を示すことが知られており、sCJDおよびvCJDの生前診断において有用と見られている。プリオン蛋白質(PrP)をコードする遺伝子のコドン129と219には変異はなかった。患者の運動機能と認知機能は急速に低下した。

 2003年12月、無動性無言、ミオクローヌス、錐体路徴候を示した。MRI像は、尾状核、被殻、視床、大脳皮質に高信号を認めた。信号強度は視床より尾状核と被殻の方が高かった。さらにEEGはPSDを示して、診断は、ほぼ確実な孤発型CJD例とされるに至った。

 2004年12月、患者は肺炎で死亡した。剖検結果は、vCJDの特徴を示した。前頭葉に花弁状の空胞(florid plaque)が見られ、海綿状変化は深刻だった。プリオン蛋白質(PrP)の免疫組織化学染色により、PrP陽性プラークが数多く見つかり、細胞周囲にPrPの沈着が見られた。プロテアーゼ抵抗性PrPは、vCJDの特徴であるCollingeの4型PrPSc(すなわちParchiの2B型)だった。

 これは日本初のvCJD確実例だ。進行性の神経精神疾患はvCJDを示したが、罹病期間は通常(中央値14カ月)より長かった。症状の発現から19カ月後、視床枕徴候はありながら、PSDは認められなかった。この時点では、ほぼ確実にvCJDの診断基準を満たしていた。しかし、発症から30カ月後、MRIにおける視床枕徴候は減少、他の神経核(尾状核、被殻など)の信号強度が増し、PSDが出現して、sCJDのクライテリアを満たした。

 これまで、vCJDで視床枕徴候が陽性から陰性になった症例は複数報告があった。しかし、PSDを伴うvCJD症例は初めてだ。つまり、生前診断ではsCJDとされるが実はvCJDである症例が出てくる可能性が示されたわけで、著者らは、PSDを伴うのはsCJD、伴わないのはvCJDという定義では危険だとして、生前診断でvCJDを見逃さないため、「WHOのvCJDの定義の修正を提案する」と述べている。

 なお、今回の患者がどこで病原体に暴露したのかは明らかではない。英国に滞在していたときに暴露の可能性がある食品を食べたことは確認されている。が、著者らは、フランスその他の欧州の国、または日本で感染した可能性も否定できない、と述べた。

 本論文の原題は「The first Japanese case of variant Creutzfeldt-Jakob disease showing periodic electroencephalogram」。抜粋は、こちらで閲覧できる。

 WHOの診断基準は、こちらで閲覧できる(PDFファイル)。厚労省のクロイツフェルト・ヤコブ病診療マニュアルの36ページにも、WHOの診断基準が記載されている(PDFファイル)。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


■ 関連トピックス ■
◆2005.2.4 国内初となる新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病発症例を確認
◆2005.3.9 続報】 国内初となる新変異型クロイツフェルト・ヤコブ病、感染経路は「英国滞在時の曝露の可能性が有力」と結論

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