2006.03.10

【解説】うつ病女性の妊娠時には細心の注意が必要、リスク/効能評価後に治療方針を決定すべき

 JAMA誌、NEJM誌などに相次いで報告された3本の論文は、うつ病の女性が妊娠した場合には、管理に細心の注意が必要であることを示している。抗うつ剤の使用を中止した場合の再発リスクは、使用を継続していた場合の5倍と高いが、妊娠の後半に抗うつ剤、特に選択的セロトニン再吸収阻害剤(SSRI)を使用すると、産児の新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)リスクは6.1倍になる。また、SSRIの胎内暴露があった新生児では、30%が新生児禁断(離脱)症候群(NAS)を示すことも明らかになった。

 これらに加えて、2005年12月、米食品医薬品局(FDA)は、SSRIのパロキセチンを妊娠初期に使用した場合、他の抗うつ薬に比べ、先天性奇形リスクが約2倍になる可能性を公表している(関連トピックス 参照)。また、妊娠初期の催奇性について、現時点では疑いレベルではあるが、厚労省も2006年1月13日付けで添付文書改訂を指示している(http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/kaitei20060113.html)。

 まず、JAMA誌の論文は、大うつ病歴のある女性が、妊娠を機にSSRIを中心とする抗うつ剤の使用を中止すると、妊娠中の再発リスクは5倍になると報告している。この研究では、妊娠中に用量を減らした34人についても再発リスクを分析しているが、再発が12人と少なかったため、統計学的に有意な数値は得られなかった。抗うつ剤使用を中止し再発を見た女性の半数が、催奇性が懸念される妊娠初期の3カ月間に再発していた。著者たちは、残りの半数は妊娠中期以降に再発していることから、妊娠の初期には抗うつ剤投与を中止し、様子を見ることも可能ではないかと考えている。しかし、この研究の対象となった女性は、妊娠の少なくとも3カ月前からうつ病が寛解期にあった人々で、うつ病自体が深刻なケースでは、治療を中止した場合の再発率は異なる可能性がある。

 次に、NEJMの論文は、妊娠の後半に抗うつ剤、とくにSSRIを使用した母親から生まれた子供のPPHNリスク上昇を示した。この研究も対象例数が少ないため、解釈は難しいが、SSRIを妊娠後期に使用した場合のオッズ比は6.1、なんらかの抗うつ剤を妊娠後期に使用した場合にもオッズ比が3.2となり、SSRIから他剤に変更しても、PPHNリスクは残存する可能性が示されている。なお、この研究では、抗うつ剤の使用期間および用量に関する考察は行われていない。

 3番目の新生児禁断症候群(NAS)とSSRIの関係を示したArchives of Pediatrics & Adolescent Medicine誌の論文は、妊娠期間、または少なくとも出産前3カ月間にSSRIを使用していた妊婦を対象にしている。対象人数は少なかったものの、パロキセチンについては用量とNAS発症の関係も調べ、低用量(20mg未満)なら新生児に症状は見られなかったと報告している。著者らは、SSRIが必要な場合は最低限の用量を選び、産児については最低48時間監視し、呼吸窮迫などの発現に注意すべきだと述べている。

 これらの結果は、妊娠期間中の抗うつ剤の使用は胎児にリスクをもたらす可能性があり、近年最も多く使用されているSSRIには、妊娠初期、妊娠後半など幅広い時期に胎児に影響を及ぼす危険性があることを明らかにした。が、治療を中止すれば妊婦のうつ病再発リスクは上昇する。薬剤の種類や用量、使用期間および時期が、母体および胎児に及ぼす影響をすべて明らかにすることは非常に困難だ。現時点では、うつ病のある妊婦については、既存の情報を患者に提示し、本人の希望を尋ねたうえで、細やかな監視を継続しながら、柔軟な治療を行う必要がある。また、抗うつ剤使用歴のある妊婦から生まれた新生児には、生後すぐに心肺機能に異常が現れる可能性があることを認識し、出産前から準備と監視を怠らないようにすべきだろう。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


■ 関連トピックス ■
2005.10.3 パロキセチンの妊娠初期服用は、他の抗うつ薬に比べ先天性奇形リスクが約2倍に
◆2006.3.2 妊娠で抗うつ剤を中止するとうつ病再発リスクは5倍になる
◆2006.3.9 妊娠後半のSSRI使用で新生児遷延性肺高血圧症のリスクが6.1倍に
◆2006.3.10 SSRIに胎内暴露した新生児の30%が新生児禁断症候群を示す

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