2006.03.09

妊娠後半のSSRI使用で新生児遷延性肺高血圧症のリスクが6.1倍に

 妊娠中に女性がSSRIを服用すると、生まれた子どもが新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)を発症するリスクが6.1倍と高くなることが明らかになった。PPHNは、胎児期の胎盤呼吸から肺呼吸への切り替えが正常に起こらないために、肺血管の血圧が下がらず、肺への血流が滞り、顕著な低酸素症が生じる病気だ。通例、生産児1000人に1〜2人が発症する。PPHNの危険因子に焦点を当てた研究はこれまでほとんどなかった。米California大学San Diego校のChristina D. Chambers氏らが実施したケース・コントロール研究の成果で、詳細は、New England Journal of Medicine(NEJM)誌2006年2月10日号に報告された。

 PPHNは、満期産または34週以降の出生で、先天異常はなく、出生後すぐに重症の呼吸不全を呈して、挿管と人工呼吸器装着が必要になるケースをいう。患者の10〜20%は、治療の甲斐なく死亡する。本研究は、PPHNの危険因子を探る進行中の大規模ケース・コントロール研究の一部として行われた。

 1998年から2003年に377人のPPHN患児を登録、マッチド・コントロール836人を選出した。出産から6カ月以内に看護師が面接し、妊娠2カ月前から出産までの間の薬剤の使用歴と、交絡因子候補に関する情報を得た。妊婦が使用していたSSRIは、シタロプラム、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン。非SSRIでは三環系抗うつ剤、ブプロピオン、ベンラファキシン、トラゾドンが用いられていた。

 面接調査までに死亡した乳児は、暴露群3.0%、対照群0%だった。
 PPHN患児のうち、妊娠期間中に抗うつ剤に暴露していたのは20人(5.3%)、うち16人(4.2%)がSSRI暴露だった。非PPHN群(対照群)では、妊娠期間中の抗うつ剤暴露が37人(4.4%)、SSRI暴露は24人(2.9%)。妊娠20週以降にSSRIに暴露していたのはPPHN群の14人(3.7%)、対照群では6人(0.7%)。

 PPHNと、妊婦の抗うつ剤およびSSRIの使用の関係は、妊娠期間全体では有意にならなかった。が、使用時期を妊娠20週未満と20週以降に分けると、すべての抗うつ剤の20週以降の使用は、抗うつ剤を使用しなかった場合に比べ、母親の人種と妊娠中のBMI、糖尿病)で調整済みのオッズ比は3.2(95%信頼区間1.3-7.4)となった。使用薬剤をSSRIに限定すると、20週以降の使用の調整済みオッズ比は6.1(2.2-16.8)だった。20週未満のSSRIの使用は有意なリスク上昇をもたらさなかった。さらに、喫煙、飲酒、20週以降のNSAIDの使用で調整しても、結果に変化はなかった。

 妊婦のSSRIの使用と産児のPPHN発症の関係について、著者らは以下のように考察している。SSRIは肺に蓄積されるとの報告がある。胎児の肺で、SSRIの作用によりセロトニン・レベルが上昇すると、平滑筋細胞の増殖が起こる可能性がある。平滑筋細胞の増殖はPPHNの特徴のひとつだ。また、SSRIにより、血管拡張作用を持つ一酸化窒素の合成が阻害される可能性も考えられる。これらは、PPHN以外に、軽度の呼吸窮迫、一過性の頻呼吸、チアノーゼなどを引きおこす原因になりうる。実際に、SSRI胎内暴露した新生児の20〜30%に、こうした心肺機能の異常が一過性に生じるという報告もある。

 今回得られたデータは、妊娠期間後半のSSRIの使用とPPHN発症の関係を支持した。SSRIの種類と発症の関係、妊娠後半にSSRIの使用を中止した場合の妊婦と胎児への影響、環境要因や遺伝的背景(SSRIの代謝に関係する酵素の多型やPPHN発症に関わる変異の存在)などに関する研究が今後必要だが、今回の結果は、妊婦がSSRIの使用を継続するかどうかを決定する際のリスク・効能評価に有用な情報を追加したといえる。

 本論文の原題は「Selective Serotonin-Reuptake Inhibitors and Risk of Persistent Pulmonary Hypertension of the Newborn」。アブストラクトはNEJM誌Webサイトのこちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


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