2006.02.27

吸い方でニコチン、タール増える“可変式”タバコ 意図的に設計・販売、タバコ会社の内部文書で判明

 ふだん吸っている製品より軽いタバコを手にした喫煙者は、吸い方を強くしたり吸引時間を長くして、体内のニコチンレベルを維持する補償行動を取る。研究の結果、こうした事実を知ったタバコ企業は、機械測定では低タール低ニコチンだが、人が喫煙した場合には2倍前後のニコチン、タールが体内に入るタバコを意図的に設計・製造し、真実を隠して販売していた。英British American Tobacco(BAT)社と傘下のカナダImperial Tobacco Limited (ITL)社の内部文書で明らかになったもの。カナダWaterloo大学のDavid Hammond氏らの研究で、Lancet誌電子版に2006年2月8日に掲載された。

 喫煙による健康被害が広く認識されるようになって以来、低タール低ニコチンをうたうタバコを吸う人が増えた。EUも2004年1月から、タバコの煙に含まれるニコチンを1mg、タールは10mg以下、一酸化炭素は10mg以下に制限している。

 しかし、パッケージに表示されているのは、国際標準化機構(ISO)で規定したスモーキング・マシンによる測定法(ISO方式)で測定したタール値、ニコチン値であり、喫煙者の真の暴露量ではない。

 喫煙行動とニコチン、タール吸入量に関する研究のほとんどは、タバコ会社によって行われてきた。Hammond氏らは、タバコ会社の研究内容と、研究成果がどのように活用あれたかを内部文書で調べ、新事実が明らかにした。

 Hammond氏らによると、1967年、BAT社の研究者たちは、喫煙者が満足を得るために喫煙時にとる行動について知ることが不可欠だと認識した。研究の結果、喫煙者は、ニコチンレベルを維持するため、喫煙行動を柔軟に変化させることがわかった。たとえば、通常の吸い方では、従来のタバコの30%しかニコチンが体内に入らないタバコを与えると、喫煙者は煙を吸い込む量や速度、回数などを変えて、ニコチン摂取量を増やそうとする。吸い殻も短くなったという。BAT社は1970年代から、こうした補償行動について調べていた。内部文書には「喫煙者は、利用できるあらゆる方法を駆使してニコチン摂取量を増やそうとする。ニコチンの含有量を減らしても、削減幅が小さければ補償は容易で、効果は期待できない」などと記述されていた。

 BAT社は、人の喫煙行動と、機械測定用のスモーキング・マシンの煙の吸い方を比較する研究も行っていた。1972〜1994年に行われた6件の研究から、喫煙者が煙を吸い込む量、頻度、回数、流速は、いずれもISO方式より大きかった。吸い込む量も頻度もスモーキング・マシンの2倍に達した。同じタバコで比較すると、喫煙者はスモーキング・マシンに比べ、1.05〜1.86倍のニコチン、1.17〜2.14倍のタールを摂取していた。

 こうした事実を知ったタバコ会社は “融通性の高い”タバコ(elastic cigarettes)を開発した。これは、煙を吸い込む量が増えるにつれてタールとニコチンの摂取量が増えるような製品で、喫煙者の補償行動を刺激し、機械測定による値に比べ、人体のニコチン、タール摂取量がより大きくなる。「低ニコチン、低タール(表示)なのに満足感のあるタバコ」を販売できることになる。

 同社は様々な方法を使って新型タバコの開発に取り組んだ。その結果、巻紙の多孔率を下げ、フィルター部分に穴を空ける方法が、補償行動を介したニコチン、タール摂取量を最も増やすことを明らかにした。フィルター部分に細かい穴を空けると、吸い込む煙の量が増えるだけでなく吸い込む速度も変わる。これによりフィルターの実質的な効果は下がる。穴を34%増やすと、煙を吸い込む量は16%増え、タール摂取量は22%、ニコチン摂取量は35%も増加した。

 1984年ころから、BAT社の上席研究員らが、この種の製品は倫理的に問題があると指摘している。しかし、会社はこの件を秘密にすべきだと結論し、健康被害が懸念されるelastic cigarettesがBAT社の製品戦略の重要な部分を占めるようになった。Hammond氏らによれば、この戦略は今も用いられており、健康を意識する喫煙者に適した製品であるというイメージを定着させるためのマーケティング戦略が展開されているという。

 本論文の原題は「Secret science: tobacco industry research on smoking behaviour and cigarette toxicity」。アブストラクトはLancet誌Webサイトのこちらで閲覧できる(閲覧には登録が必要)。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


■ 関連トピックス ■
◆2005.1.19 p53癌抑制遺伝子の変異に関する研究に対抗するためにタバコ業界がしたこと
◆2004.11.18 Philip Morris社、実際は内部組織だった研究所で副流煙の危険性を確認していた
◆2004.8.14 夏休み特集:コラム「医師も戸惑う健康情報」から】低タールタバコは健康への悪影響が少ないの?

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