2006.02.22

血栓溶解剤治療後PCIは単独PCIよりリスク増やす、米ガイドラインに否定的な研究成果をLancet誌が掲載

 ST 上昇型急性心筋梗塞(STEMI)の治療において、血栓溶解剤を用いる薬物治療後の経皮的冠動脈インターベンション(facilitated PCI )は、最初からPCIを行うprimary PCIに比べ、リスクを増大させるとする2つの論文がLancet誌2006年2月18日号に掲載された。米ACC/AHAガイドラインでは、Facilitated PCIについてエビデンスレベルBで「ハイリスク患者に有用な可能性あり」とされているだけに、今後の再灌流戦略に与える影響は少なくなさそうだ。

 ベルギーGasthuisberg大学病院のFrans Van de Werf氏らは、血栓溶解剤のテネクテプラーゼを用いたfacilitated PCIとprimary PCIを比較する無作為割付試験「ASSENT-4PCI 」(Assessment of the Safety and Efficacy of a New Treatment Strategy with Percutaneous Coronary Intervention)について報告した。

 この臨床試験は2003年11月に開始され、4000人を登録する計画だったが、データ・安全性監視委委員会の勧告で早期中止に至った。facilitated PCI群の院内死亡率が、6%対3%と有意に高かったためだ(P=0.0105)。

 登録患者は計1667人。全員にアスピリン投与と未分画ヘパリンの静注ボーラス投与を行った。主要エンドポイントは、90日以内の死亡、鬱血性心不全、ショックの組み合わせに置かれた。24カ国(日本は含まれていない)で実施した。

 6時間以内に標準的なPCIを受けた838人と、PCIに先駆けて十分量のテネクテプラーゼ投与を受けた829人を比較。割付から初回のバルーン拡張までに要した時間の中央値は、両群間に差なし。発症からテネクテプラーゼ投与までの中央値は153分、テネクテプラーゼのボーラス投与からバルーン拡張までの時間の中央値は104分だった。両群ともに発症からPCIまでの時間は4時間を超えた。PCI前の冠動脈の血流レベル(TIMI)は、facilitated PCI群で、血流が維持されている患者が有意に多かった。完全閉塞患者(TIMIが0)の割合は24%と62%。PCI後、血流正常(TIMI3)となった患者の割合は88%と89%で同等だった。

 主要エンドポイント発生率は、facilitated PCIが19%、primary PCI群では13%で、相対リスクは前者が有意に高かった(1.39、P=0.0045)。facilitated PCI群では入院中の脳卒中が有意に多かった(1.8%対0%、P<0.0001)。脳以外の部位の出血の発生頻度に有意差はなかった(6%対4%、P=0.3118)。facilitated PCI群では、90日以内の再梗塞(6%対4%、P=0.0279)と、標的血管再開通術の適用(7%対3%、P=0.0041)も有意に多かった。

 PCIの前の冠動脈開通率はfacilitated PCI群で有意に高かったにもかかわらず、PCIの1〜3時間前に十分量のテネクテプラーゼを投与するfacilitated PCIは、PCI単独に比べ、アウトカムを悪化させた。したがって、この治療は推奨できない、と著者たちは述べている。

 この論文の原題は「Primary versus tenecteplase-facilitated percutaneous coronary intervention in patients with ST-segment elevation acute myocardial infarction (ASSENT-4 PCI): randomised trial」。アブストラクトはこちらで閲覧できる。

 2本目の論文は、米Texas大学Southwestern Medical CenterのEllen C Keeley氏らによる。同氏らは、文献データベースなどから、STEMIに対するfacilitated PCIの効果をPrimary PCIと比較した無策為割付比較対照試験を選出した。PCIから42日以内の死亡、脳卒中、非致死的再梗塞、緊急標的血管再開通術の適用、大規模出血の頻度を調べている17件(13件はオープンラベル、4件は二重盲検)の研究を分析対象とした。被験者数は、facilitated PCI群2237人、primary PCI群2267人。

 facilitated PCIに用いられていたのは、抗血小板薬である糖たんぱく質(GP)IIb/IIIa阻害剤、十分量または低用量の血栓溶解剤、GP IIb/IIIa阻害剤と低用量の血栓溶解剤の組み合わせなど。17件のうち、9件はGP IIb/IIIa阻害剤を使用(1148人)、6件は血栓溶解剤(テネクテプラーゼ、ストレプトキナーゼ、アルテプラーゼ)を使用(2957人)、2件がこれらを併用(GP IIb/IIIa阻害剤と低用量のテネクテプラーゼまたはレテプラーゼ)(399人)していた。

 当初のTIMI3達成率は、facilitated PCI群で、primary PCI群の2倍以上と有意な差がついた(37%対15%、オッズ比3.18)。が、追跡期間の終わりには、その差は有意でなくなった(89%対88%)。

 facilitated PCI群で有意に多かったのは、死亡(5%対3%)だ。血栓溶解剤を用いたfacilitated PCIとprimary PCIの死亡率には有意差があったが、GP IIb/IIIa阻害剤、または、GP IIb/IIIa阻害剤と血栓溶解剤の組み合わせによるfacilitated PCIとpraimary PCIの死亡率には、有意差は認められなかった。

 非致死的再梗塞発生率は、facilitated PCI群で有意に多く(3%対2%)、ここでも血栓溶解剤を用いたfacilitated PCI群のリスクのみ、primary PCIに比べ有意に高かった(4%対2%)。また、緊急標的血管再開通術も同様(4%対1%)で、特に血栓溶解剤によるfacitilated PCIがリスク上昇をもたらしていた(5%対1%)。

 facilitated PCIは大出血リスクも有意に高めた(7%対5%)。facilitated PCI群では、脳出血(0.7%対0.1%、P=0.0014)とすべの脳卒中(1.1%対0.3%、P=0.0008)の頻度も高かった。しかし、GP IIb/IIIa阻害剤が適用されたグループに、脳卒中リスク上昇は見られなかった。

 得られた結果は、STEMI治療において、facilitated PCIはprimary PCIに優る利益を得られないことを示した。著者たちは無作為割付試験以外ではこの治療を用いるべきでなく、特に、血栓溶解剤を用いるfacilitated PCIは行ってはならないと結論している。

 こちらの論文の原題は「Comparison of primary percutaneous coronary intervention and facilitated percutaenous coronary invention for ST elevated myocardial infarction: quantitative review of randomised trials」。アブストラクトはこちらで閲覧できる。

 現在のところ、米国のガイドライン(ACC/AHA)は「STEMI治療におけるfacilitated PCIの利益は明確に示されていないが、PCIが迅速に行えないハイリスク患者には有用である可能性がある」としている(Class IIb)。一方、欧州心臓学会のガイドラインは、血栓溶解剤を用いたfacilitated PCIを推奨するだけのエビデンスはなく、GPIIb/IIIa阻害剤を用いたfacilitated PCIがアウトカムを向上させることを示すエビデンスもない、と述べている。このように、安全性と有効性が証明されていないにもかかわらず、多くの国で、特にSTEMI患者にfacilitated PCIが適用されているのが現状だ。

 欧米のガイドラインが推奨する症状発現から90分以内のprimary PCI実施は困難で、搬送からPCI実施までに3時間を超えることも少なくない。一方、血栓溶解治療は、発症から2〜3時間以内に実施すれば、primary PCI と同等の生存率が得られると報告されている。血栓溶解治療の効果が早期適用により増大すること、また、冠動脈の血流が維持されている状態でprimary PCIが行われた患者のアウトカムは非常に良いことが、facilitated PCI実施の理論的背景となっている。

 なお、2論文の著者はいずれも、現在進行中の大規模無作為割付試験FINESSE (Facilitated Intervention with Enhanced Reperfusion Speed to Stop Events)試験の結果が待たれると述べている。これはGP IIb/IIIa阻害剤(abciximab)単独と、GP IIb/IIIa阻害剤と低用量の血栓溶解剤を用いたfacilitated PCI の有効性を評価するものだ。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


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◆2005.11.15

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