2006.02.21

タバコ煙に含まれるカドミウムに血管内皮の防御作用を強化する効果 ただし細胞損傷を引き起こす有害性もあり

 喫煙は心血管疾患の危険因子だ。が、タバコの煙に含まれる成分がアテローム性動脈硬化を引きおこす機構については、ほとんど分かっていない。オーストリアInnsbruck 医科大学のDavid Bernhard氏らは、喫煙による血清中の金属レベルの変化を調べ、上昇が明白だったカドミウム(Cd)とストロンチウム(Sr)が血管内皮細胞の遺伝子発現に与える影響を評価した。その結果、カドミウムには、金属や活性酸素に対する内皮細胞の防御作用を強化して炎症を抑制する作用と、細胞損傷を引きおこす作用を併せ持つことが示された。詳細は、Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology誌電子版に2006年1月26日に報告された。

 著者たちは、喫煙と血清中の金属濃度の関係を調べ、さらに、それらの血管内皮への作用を明らかにしようと試みた。対象となったのは、同大学の52人の男女医学生(平均年齢24歳)。喫煙率は35%だった。対象者を4群に分類。グループ1は、非喫煙者で受動喫煙は週に3.5時間以下(10人。うち受動喫煙なしは3人のみ)、グループ2は、非喫煙者で受動喫煙が週3.5時間超(24人)、グループ3は、喫煙者で量は1日3本以下(11人)、グループ4は、喫煙者で1日3本超(7人)。統計学的分析は、シガレット喫煙者に限定したため、対象者は48人となった。

 対象者から採血し、血清中のアルミニウム、カドミウム、鉛、ストロンチウムなどの濃度を質量分析により測定した。喫煙状況と血清濃度の関係が有意だったのはカドミウムとストロンチウムのみ。受動喫煙者と、1日の喫煙本数が3本未満の人でも、これらの値が上昇する傾向が見られたが、差は有意ではなかった。

 非喫煙者に比べ喫煙者で血清レベルが有意に高かったカドミウムとストロンチウムについて、in vitroで動脈内皮細胞への影響を調べた。暴露6時間後と24時間後の遺伝子発現の変化を、マイクロアレイを用いて調べたところ、ストロンチウム暴露により発現量に安定した変化が見られる遺伝子はなかった。

 一方、カドミウムの影響は顕著だった。マイクロアレイでは23遺伝子の発現量に変化が見られた。それらは、4群(メタロチオネイン(MT)遺伝子、炎症過程に関与する遺伝子、転写因子、その他)に分類できた。

 MT遺伝子の6種類のサブタイプについては、すべて発現量が増加した。MT1群の蛋白質は、有毒な金属および活性酸素に対する防御に重要であることが知られている。MTがアテローム斑において活性酸素の除去に関わる可能性も示されている。

 また、炎症誘発性の遺伝子である、Cox-2遺伝子と、ケモカインの1種であるCXCL2の遺伝子は、カドミウム暴露により発現量が減少した。これにより、炎症反応が抑制されると考えられた。

 一方、カドミウムは、転写因子であるKLF4とEGR1の発現量を減少させた。これらは細胞の増殖を抑制する作用を持つため、カドミウム暴露ががん化を引きおこす可能性が示唆された。これらの発現抑制が平滑筋細胞の増殖を誘導、アテローム性動脈硬化を引きおこす可能性もある。

 カドミウム暴露により、中間径線維を構成するビメンチン遺伝子の発現量も減少した。これは細胞の構造を弱化すると考えられる。

 これらのデータは、喫煙によるカドミウムレベルの上昇が、動脈内皮細胞のストレスを増すこと、細胞側は、MT遺伝子の活性化、炎症誘発性遺伝子の不活性化などにより抵抗を試みることを示唆した。それでも細胞自体の弱化が起こり、血管内皮の構造が損なわれると考えられている。

 本論文の原題は「Increased Serum Cadmium and Strontium Levels in Young Smokers. Effects on Arterial Endothelial Cell Gene Transcription」。アブストラクトはATVB誌Webサイトのこちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


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2005.9.22

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