2006.02.17

エイズ拡大阻止の切り札になるか、30分前後で結果が分かる在宅用HIV検査キットが米で認可間近

 エイズウイルスに感染しているかどうかを自宅で確認できる検査キットが、米国で認可される可能性が高まっている。米食品医薬品局(FDA)は、ほぼ20年にわたって、HIV在宅自己検査キットの市販を許可するかどうか検討してきた。ここにきて、迅速HIV抗体検査の市販薬(OTC)化を支持する声が高まり、実際に認可される見込みが大きくなっている。米Brigham and Women’s HospitalのAlexi A. Wright氏らは、New England Journal of Medicine(NEJM)誌2006年2月2日号のPerspective欄でHIV在宅検査キットに関する諸問題を指摘している。

 OraSure Technologies社から、口腔液を標本とする迅速HIV抗体検査キット「OraQuick」の市販薬(OTC)としての承認申請が提出されたことを受けて、米食品医薬品局(FDA)の血液製剤諮問委員会は2005年11月、在宅自己検査キットの承認に必要な条件を決定するために専門家を収集した。医師、宗教家、ゲイ活動家、ベンチャー投資家、公衆衛生担当者などからなる参加者20人のうち、18人が、OTC化は久しく待望されていると述べた。

 HIVの在宅自己検査の市販許可の可能性について、米国の診断薬メーカーがFDAに最初に打診したのは1986年だった。FDAは2年をかけて慎重に検討し、検査は医療従事者のみが行うべきだと結論した。

 1989年になってFDAは、在宅HIV検査に関する初めての公聴会を行った。その時には、下院議員、米医師会、米疾病対策センター(CDC)、ゲイ活動家たちが、こぞって反対した。検査精度に疑問がある、陽性者の自殺を増やす危険性がある、というのが主な理由だった。

 その後数年間に利用可能な治療薬の幅が大きく広がったことで、FDAは方針の転換、1996年になって郵送方式の在宅検査キット2製品を承認した。これらは、薬局で検査キットを購入、自宅で血液を採取して検査ラボに送付し、1週間以内に結果を受け取るタイプで、利用者は無料の電話相談を受けられる。その年だけで17万5000人以上が利用した。結果として自殺率は上昇せず、HIV陽性と判明した人々は、それ以降リスクの高い行動を自粛していたという複数の報告が上がった。これをきっかけに、検査の利用拡大は、HIV感染を減らし、感染者が有効な治療を受ける機会を増やす、と考えられるようになった。

 在宅検査キットの発売にも関わらず、米国のHIVとの戦いは、1990年代の終わりに行き詰まった。エイズによる死者の数は減少せず、一部の集団で、新規感染者数が上昇した。CDCによると、2001年に各州で18〜64歳の人々を対象に調査が行われ、HIV検査を受けた経験がある人の割合が明らかになっている。11州では41%未満だったが、9州では5割を超えた。

 しかし、症状が現れるまでHIV検査を受けない人も相変わらず多い。現在でも、米国のHIV陽性者の4人に1人が感染に気づいていない。それらの人々から、年間4万人が新たに感染している。そこでCDCは、2005年7月になって、新たな勧告を行った。HIV検査を通常の医療に組み込み、また、特定の場合を除き、妊娠女性全員に検査を行うというものだ。従来は、HIVの検査と治療は他の感染症とは別に行われており、検査対象の中心はハイリスク集団だった。

 CDCの新戦略のカギを握るのが、近年登場した迅速検査だ。2000年には、検査を受けた人の30%以上が結果を聞きに来なかった。迅速検査なら待っている間に結果が出るため、陽性者をより確実に治療機関に紹介できる。現在4種類の迅速検査キットがFDAの承認を受けているが、OTC化に向けて審査が進んでいる「OraQuick」だけは、血液でなく口腔液を標本に用いる。付属のスワブで歯茎の周囲をこすり、それをバイアルにセットすると20〜40分で結果がでる。感度は99.3%、特異性は99.8%と報告されている。

 先頃「OraQuick」の精度に不安を抱かせるような報告がなされた。感染率の低い地域で擬陽性が高率に見られたという。2005年にサンフランシスコで行われた9400回の検査では、250検体が陽性となったが、そのうち49検体が擬陽性と判明した。予想を超える擬陽性率になった原因についての調査が進められているが、これらの地域の検査機関は「OraQuick」の使用を中止した。

 擬陽性がもたらす心理的な苦悩は深刻だし、ウインドウ・ピリオドに検査を受け、擬陰性の結果を得る感染者にも注意を払わなければならない。リスク行為が増える恐れがあるからだ。在宅自己検査が承認されれば、たとえ非常に詳細な情報が製品に添付されていたとしても、開業医は新たな責任を負うことになる。患者に十分な教育を施すともに、ウェスタン・ブロットなどの方法で確認検査を日常的に行う能力を持つ必要が出てくる。

 価格設定も懸案のひとつだ。現在「OraQuick」1キットの価格は12〜17ドル。同社は、市販価格をこれより高く設定しようと考えている。が、感染者に対する調査では、多くが15ドル以下でないと購入しないと答えていた。

 それでも在宅検査に対する強い支持は不変だ。専門家たちは、米国におけるHIVの感染拡大を阻止する唯一の手段は、手軽に利用できるHIV在宅自己検査キットを市販することであり、この検査は優れたスクリーニング・ツールだと主張し続けている。本論文の原題は「Home Testing for HIV」、抜粋はこちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)

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