2006.02.16

【日本消化管学会:特別講演2】医事紛争・医療安全対策の現状と課題

 医療事故発生という緊急時には4つの対応すべき「P」があるが、その中でも一番大事なのはPatient、つまり患者への対応である−−。本講演で、弁護士で東大医療安全管理学教室で教鞭も執る児玉安司氏は、とかくマスコミへの対応や院内での保身のための対応を優先する医療機関が少なくない現状を踏まえ、こう強調した。

 4つの「P」とは、(1)PRESS(2)POLICE(3)PUBLIC(4)PATIENT。「医療事故発生時は、往々にしてマスコミに振り回されがちだが、いかに患者に事実を伝えるか、病院の誠意を表すかが重要」と児玉氏。事故が発生した場合、対応のあり方でその後を左右する。「院内で『ここだけの話ですが』と会議で話しても、翌日には院内に広まってしまう」と話し、病院組織の中で情報・命令系統を一元化し、患者や遺族に誠意を持って対応する重要性を児玉氏は強調した。

医学と法律学は双子の兄弟
 医療安全対策については、医師でもある児玉氏は医学になぞらえて例示。まず「知り合いの裁判官は『医学には正しい答えがあると思っていたが、実際に裁判を担当すると、医師は十人十色であることが分かった』と明かしていた」というエピソードを披露。逆もまた当てはまるとした。

 児玉氏は、「症例を取り扱うように判例を読むべき」とし、「この病気なら、ここでCTを取っておかなければ敗訴」などと一律に判断することの危険性を強調した。医療事故において、事実(医療であれば、患者の訴えや病状、経過など)が異なれば、結論もおのずから違う。判例は、細かな事実の積み重ねを吟味した上で導き出されるのであり、どのような事実が前提になっているのか、どこまで一般化できるのかを慎重に読み解くべきだとした。

 また具体的な安全対策を講じる際も、EBMと同様に、「エビデンスに基づくアプローチ」を行い、「正常からではなく事故から考える」ことが必要だとした。例に挙げたのが人工呼吸器。正常に作動させるためには使用前に何段階ものチェックが必要だが、救急の現場ではそんな時間的余裕はない。実際の事故は、(1)使用中停止(2)チューブトラブル(3)アラームoff、というパターンが多いという。こうしたエビデンスを踏まえ、コストも勘案して対策を講じるべきだとした。

 最後に児玉氏は、医療訴訟が年々増加している現状、医師法21条に定める異状死の届出をめぐる混乱などに言及。日本医療機能評価機構が実施している医療事故の報告制度や、昨年、厚生労働省のモデル事業として日本内科学会などの主導で始まった「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」がこうした問題の解決、ひいては医療への信頼の回復につながるとの期待を寄せた。(橋本佳子)


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