2006.02.16

【日本消化管学会:特別企画3】消化管疾患−新規薬剤開発をめぐって−

 「本来は日本薬理学会にあってもよいと思われる企画だが、今回は、それを日本消化管学会が先取りした形になった」。本セッションは冒頭、日本薬理学会の会員でもある司会の谷山紘太郎氏(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医学系薬理)がこう説明して幕を開けた。会場には、消化管疾患治療薬の薬理に詳しい医師や研究者ら数十人が集い、熱心なディスカッションを展開。中でも、既に臨床試験が開始されている消化管運動改善薬「Z-338」、下痢型過敏性腸症候群治療薬「ラモセトロン」、炎症性腸疾患治療薬「OPC-6535」の3剤については、特に活発な質疑が行われた。

 ゼリア新薬工業が発表した消化管運動改善薬「Z-338」は、アセチルコリン(Ach)の遊離促進と、Achの代謝酵素であるアセチルコリンエステラーゼ(AchE)阻害作用を併せ持つ薬剤。日本ではフェーズII、欧米ではフェーズIIbで開発が進んでいる。発表では、イヌを用いた試験により、既に消化管運動改善薬として使用されているドパミンD2受容体拮抗薬の塩酸イトプリドや、セロトニン5-HT4受容体刺激薬モサプリドと同等かそれ以上の消化管運動亢進効果が確認されたことを報告。臨床試験では、1日3回毎食前、1回100mgおよび300mgの反復経口投与で臨床上問題になる副作用等は認められておらず、調査した自覚症状のうち、「食後の膨満感」「早期満腹感」については、用量依存的な症状消失と、プラセボ群に対する有意な改善効果が確認されているという。

 発表後の質疑では、「消化管に対する選択性はあるのか。アセチルコリンの賦活による全身性副作用の心配はないのか」との質問に対し、発表者は「選択性は確認していないが、現在まで臨床的な用量で問題となる副作用は認められてない」と回答。さらに「例えばFD(機能性胃腸症、Functional Dyspepsia)では、アセチルコリン遊離促進による胃液分泌亢進で悪影響が起こる可能性はないか」との質問には、「動物実験では、高用量に上げても胃酸分泌を亢進させるといった結果は出ていない」と答えた。また、「膨満感や満腹感の消失も、アセチルコリンの遊離促進で説明できるのか」との質問に対し、「胃底部の弛緩に関係する迷走−迷走神経反射のどこかに関係があるのではないかと考えているが、まだ明らかになっていない」と回答。司会からは「食物の受容能改善に関する機構をぜひ解明してほしい」といったコメントもあり、この薬剤に対する期待の高さが窺われた。

 アステラス製薬からは、既に抗癌剤投与時に使用する制吐薬として販売されているラモセトロンについて、下痢型過敏性腸症候群(下痢型IBS)の治療薬として開発が進んでいる現状が報告された。同薬は、選択的なセロトニン5-HT3受容体拮抗薬。動物実験によって推測された同薬の下痢型IBSに対する作用メカニズムとして、(1)腸管神経叢の神経節に存在する5-HT3受容体を拮抗阻害し、ストレスによって分泌された内因性のセロトニンの作用を抑制することで、大腸輸送能亢進および水分輸送異常を改善する(2)求心性神経の神経節上にある5-HT3受容体に拮抗し、大腸進展刺激に伴って分泌された内因性セロトニンに起因する腹痛を抑制する、といった機序が紹介された。

 ディスカッションでは、制吐作用とIBS改善作用の相関性について質問があり、発表者は「詳細はよくわかっていないが、薬剤に組織選択性があり、制吐作用を示さない用量でIBSには改善効果が認められる可能性がある」と説明。司会の谷山氏は「5-HT3受容体には複数のサブタイプがあるので、臓器によってその局在に差がある可能性もある。感受性の差については興味深いので、ぜひ検討してほしい」とリクエストした。

 炎症性腸疾患治療薬として大塚製薬が開発中の「OPC-6535」は、現在、活動期潰瘍性大腸炎を対象としたフェーズIII試験が欧米で進行中。スーパーオキサイドの産生を抑制するほか、TNF-αやIFN-γなどの炎症性サイトカインの産生を抑制するなど、炎症に関与する白血球の各種機能を幅広く抑制することで、抗炎症作用を発揮する。発表後には、作用機序に関する質問が続いたが、発表者は「PD4のインヒビターではあるが、それ以外の機序も存在していると考えている」と回答。会場からは、「これだけ抗炎症作用が強ければ、関節リウマチなどの他の疾患にも有用なのではないか」というコメントも寄せられた。

 このほか、核内受容体の「LXR」(liver X receptor)をターゲットとした炎症性腸疾患治療薬の開発についてグラクソ・スミスクラインから、幅広い消化管疾患の治療薬につながる可能性があるG蛋白共役型受容体ファミリーの「PAR」(proteinase-activated receptor)に関する研究の現状について近畿大学薬学部から、それぞれ発表された。また、明治乳業からは特定保健用食品として既に販売されている「プロピオン酸菌による乳清発酵物」の炎症性腸疾患に対する効果について、鳥取大学農学部からはNSAIDsによる小腸潰瘍と食物繊維の関係について、発表があった。

 いずれの発表も、発表自体は規定時間内に終了したものの、質疑が白熱しため予定の3時間を15分ほど超過。「もう少しディスカッションをしたいところですが、時間がなくなりました。次回もぜひ、このような企画をぜひ実現したいと思います」と谷山氏が締めくくった。(田島健)


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