2006.02.09

【英国医療事情 連載第11回】英国で医師として働くには:How To 医師登録

森 臨太郎
 昨今は米国で臨床研修を受ける日本人医師も増えていると聞く。一方で、私が診療してきたオーストラリアや英国で臨床研修をしたり、診療をしたりしている日本人医師はそれほど多くない。そこで今回は、英国で医師登録する方法を伝授する。

 英国では英国の医学校を卒業できたらそのまま医師登録できる。国家試験というものはない。実は英国の医学校だけでなく、一部のオセアニアやアジア地区の医学校の卒業でもそのまま医師登録ができる。もちろん、英国の医学教育と同等であることが確認済みの医学校に限られており、どの学校でもというわけではない。ちなみに英国の医学校は5年制である。

 外国人医師、あるいは上記以外の医学校を卒業した者が英国で医師登録し、診療行為をしたいときのオーソドックスな方法は、PLAB(Professional and Linguistic Assessment Board)という試験に合格することである。この試験はWHO認定の医学校の卒業生なら誰でも受けられる(日本の医学校卒業生は問題ない。)

 ただし、このPLAB試験を受けるためには、IELTSという英連邦で使われている英語の試験で一定の点数を確保できていなければいけない。実は日本人にとってはこれが難関である。

 PLABの試験には2段階ある。第1段階の試験は英国以外の国でも受けられる。日本から近いのはインドかオーストラリアだろうか。選択式と空欄式の問題が含まれている、基本的知識を問う試験である。

 第2段階は実技試験である。ロンドンでしか受けられない。Objective Structured Clinical Examination (OSCE)と呼ばれる、英国で診療している者なら誰でも知っている方式である。15ある小部屋それぞれに、様々な、医師が出会うであろう「状況」が用意されている。5分おきにその小部屋を順番に移動し、診察したり、手技をしたりする様子を試験されるわけである。緩和ケアの状況であったり、救急蘇生の状況であったりもする。1つだけ休憩のための小部屋があり、水分補給ができるらしい…。

 晴れて英語の試験、さらにPLABの試験に通れば、英国で医師登録ができ、SHO(Senior House Officer、研修医)として働くことが許される。もちろん、南アジアにはPLABの試験に通り、英国で働こうと考えている医師が数多くいるので、競争は激しく、医師登録ができたからといってすぐに働けるとは限らないが。

 しかし、このような正面突破型だけではなく、別の方法で医師登録をすることもできる。

 そのひとつが、英国のいくつかの学会が実施しているInternational Sponsorship Schemeと呼ばれる制度である。私の知る限りでは、内科学会と小児科学会が行っている。その他の学会でも同様の制度があるかもしれないので、気になる方は調べていただきたい。

 比較的ちゃんとした専門医制度を持つ海外(日本を含む)でその学会に見合う専門医を取得し、上記の英語の試験(ただし上記のPLABより基準が厳しい)で規定の点数を超え、さらに、本国(出身国)で身分を保証してくれる医師1人と、推薦してくれる医師2人を確保できれば、この制度に申請できる。

 ただ、この申請に通ったからといって、すぐに医師登録ができるわけではなく、その後、雇ってくれる病院が確保できて始めて、医師登録が可能となる。その後は上記のPLABと同様であるが、こちらの医師登録には条件付きとなっている。もっとも、この医師登録下で1年間以上ちゃんと働けば、制限なしの登録に進むことも可能である。

 この方法は最も簡単に思えるが、日本人にとっては案外英語の壁が厚い。ただ、一般的な日本の医師が英国でしばらく臨床研修したいときにはお勧めできる方法である。

 次の方法は、OES:Overseas Equivalence Schemeという方法である。一部の国(オーストラリアやカナダなど)では英国並みの専門医制度を持つところがあり、こういった国で専門医を取得し、その医師の専門に至るまでの研修が英国で同じ科の専門医に至るまでの研修と同等であると認定されると、英国で専門医としてそのまま登録される。もちろん厳しい英語の試験の点数を確保してという前提だが。

 この審査は個人の経歴に基づいて審査される。しかしながら、通常6年間の研修期間が必要とされるので、日本の専門医のすべてがこの方法を適応されるとは限らないが、一部の専門医は可能である。もちろん科によって基準が違うので、詳細は対応する学会に問い合わせていただきたい。

 このOESにはAcademic Routeというものもある。これは研究業績が優れたものには、多少臨床の履歴が足りなくても補完されるという考え方で認められるものである。これも審査は個人によって違うので、ここで一定の基準についてお話できないが、自信がある方は試されてもよいと思う。

 さらに別の方法で医師登録をする方法もあるが、ここでは詳細を省く。また、特殊な方法として、日本政府と英国政府の間で特別の規定があり、日本人医師9人まで英国内で日本人を対象として診療するという場合に限り、上記のような基準なしに医師登録が許される場合がある。英国内にある日系の診療所で働く医師はこのような医師登録をしていると聞く。

 筆者は日本での経験とオーストラリアでの経験を合わせて上記のOESという制度で英国の小児科専門医として医師登録が許されたが、個人の経歴によって判断されるということもあり、かなり特殊なケースである。

 結局、入口にPLABという統一試験が用意されているものの、個人個人の経歴に応じて「特殊」な方法がいろいろ用意されているのも英国の特徴である。欧州出身の医師が英国の医師登録をする場合は以上のような方法は適用されないのであしからず了承されたい。

 英国で臨床研修をすることを勧めているわけではないが、自分自身の過去を振り返って、日本で診療していた経験を基に、海外で医師として診療行為をした経験は今の自分の礎になっているし、それだけ衝撃的で、なおかつ知識、技術はもちろん、ものの見方に至るまで大きく勉強したと自信を持って言える。もちろん海外での経験をどう生かすかは人それぞれである。


■著者プロフィール
 森 臨太郎(もり りんたろう)、1970年神戸生まれ。岡山大学卒業後、同大学関連施設にて小児科研修。小児科認定医(のち専門医)、医学博士、国立福山病院勤務を経て、2000年に渡豪。アデレード母子病院にて新生児科中級専門医、キャンベラ総合病院にて新生児科上級専門医。2003年より英国在住。英国ではロンドン大学熱帯医学・公衆衛生学大学院にて疫学修士を取得し、現在、国立母子保健共同研究所にてNICE診療ガイドライン作成に携わっている。王立ロンドン病院にて新生児科医を、ロンドン大学熱帯医学・公衆衛生学大学院にて学外指導教官を兼務。周産期という分野の中で、疫学研究、政策作り、日常診療と広い視点から英国医療と現在のNHS改革を観察している。


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◆ 2005.9.9 英国医療事情 連載第2回】無料の病院
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