2006.02.03

大豆たんぱく質とイソフラボンの血中脂質低下作用は期待薄 米心臓協会(AHA)が修正勧告を発表

 心血管系の健康維持に有効とされてきた大豆たんぱく質やイソフラボンの有効性に、米心臓協会(AHA)がこのほど、疑問符をつけた。最新の研究成果を分析したAHA栄養委員会は、イソフラボンを含む食品またはサプリメントについて、効果を示すエビデンスは貧弱で、安全性が確認されていないことから、摂取は推奨されないと結論した。また、大豆たんぱく質についても、大量に摂取するとLDLコレステロール(LDL-C)値は3%ほど低下するものの、HDLコレステロール、トリグリセリド、血圧などには有意な変化はないことが明らかになり、こうした危険因子の改善を通じた予防効果は期待できないと判断された。詳細はCirculation誌電子版に2006年1月17日に報告された。

 米国では1999年に、食品医薬品局(FDA)が、大豆たんぱく質を含む製品に「冠疾患リスクを低減させる」とのヘルスクレーム(食品健康強調表示)の記載を許可した。これは、1日25g以上の大豆たんぱく質を摂取すると総コレステロール値とLDL-C値が低下するという複数の報告に基づく。

 AHA栄養委員会は、2000年に大豆たんぱく質とCVDに関する見解を発表した。それ以前に発表された論文を分析し、得られた結果を基に、AHAは、慎重な姿勢を維持しつつ、米国人の健康維持に重要とされる飽和脂肪とコレステロールが少ない食事に、大豆たんぱく質を含む食品を組み込むことを推奨する、と結論した。

 それ以降、大豆たんぱく質やイソフラボンの有効性の評価を目的とする、質の高い研究が数多く行われた。そこで今回、AHAは、最新の研究結果を対象に再評価を実施した。焦点を当てたのはLDL-C値だ。CVDの危険因子の中で最も詳細に研究されていること、FDAはLDL-C低下作用に基づいてヘルスクレームを許可していたからだ。それ以外に、HDLコレステロール、トリグリセリド、血圧など複数の因子に関する評価を行った。イソフラボンについては、更年期症状、骨粗鬆症、がんなどに対する作用も調べた。

 まず、イソフラボンを含有する大豆たんぱく質のLDL-C低下作用を評価した、無作為割付研究22件を分析。それらは、カゼインまたは乳たんぱく質、小麦たんぱく質、動物性たんぱく質の混合物などと単離した大豆たんぱく質を比較していた。大豆たんぱく質の摂取量は1日あたり25〜135g、イソフラボン摂取量は40〜318mgだった。LDL-Cや非HDLコレステロール値は、多くの研究で低下していたが、統計学的に有意な低下を示したのは8件で、LDL-C低下率の加重平均は3%だった。用量に応じた効果の増強は認められなかった。HDL-Cとトリグリセリドには有意な影響は見られなかった。

 大豆たんぱく質をアルコールで処理し、イソフラボンを除去したものを用いた研究は7件あり、いずれも質の高い研究だった。LDL-Cの有意な低下を見たのは2件のみで、それぞれ50gと55gの摂取でLDL-C低下率は2%と7%だった。やはり用量と効果に関係は認められなかった。HDL-Cとトリグリセリドの変化は小さく、6件で非有意だった。

 イソフラボンの血中脂質量に対する影響を調べた研究は19件あるが、LDL-C値の有意な減少が見られたのは、そのうち3件だった。ただし、すべての研究のLDL-C低下率の加重平均は0%となった。HDL-Cとトリグリセリドの変化は非有意だった。

 LDL-C値については、大豆たんぱく質の摂取による低下を報告している研究が比較的多いが、大量(平均50g、1日のたんぱく質摂取量の約半分に相当)に摂取しても、LDL-C値が3%しか低下しないので、利益は非常に小さいといわざるを得ない。

 なお、当初のコレステロール値が高いほど、大豆たんぱく質によるLDL-C低下幅は大きいという報告があったが、上記の22件の研究では、高コレステロール血症患者の方がLDL-C低下率が大きいという結果は得られていない。逆に、コレステロール低下食をとっている人々に対する大豆たんぱく質またはイソフラボンの効果を調べた研究が11件あったが、LDL-C低下レベルの平均は2%で、一般集団の場合の3%と大差なかった。

 次に、イソフラボンを含む大豆たんぱく質の血圧への影響を調べた研究は6件あった。血圧の有意な低下を示したのは1件のみ。収縮期圧の変化の加重平均は‐1mmHg。イソフラボンの血圧に対する有意な影響を示した研究はなかった。

 イソフラボンは、弱いエストロゲン活性を持つ。そのため、更年期障害の血管運動性の症状(ほてりやのぼせ)や、閉経後の骨量低下などを軽減すると考えられてきた。

 大豆たんぱく質またはイソフラボンの血管運動性症状に対する効果を調べた研究で、7週以上摂取を継続した研究は8件あり、うち3件のみで症状の小幅な改善が見られた。が、効果は6週後にはほとんど消失した。24週間または2年という長期にわたる試験でも利益は示せていない

 骨粗鬆症への影響については、質の高い臨床試験が行われておらず、一致する結果も得られていない。イソフラボンの効果を知るためには、より大規模で長期的な研究が必要と考えられた。

 乳がんに関する疫学研究やケース・コントロール研究の結果はまちまちだ。一部で予防効果を示唆する結果も得られている。が、近年行われた専門家によるレビューは、イソフラボンの乳がん予防効果を評価するためには、それらの研究はいずれも不十分だと結論づけている。

 子宮内膜がんに関するデータは、乳がんに比べ少ない。また、一致した結果は得られていない。最近、比較的規模の大きい試験が行われ、イソフラボン・タブレットが閉経後の女性に前がん状態(子宮内膜過形成)を引きおこす(P<0.05)と報告された。が、結論を出すには、エビデンスは全体として不十分だった。

 イソフラボンには、エストロゲン様の作用のほか、抗エストロゲン作用、その他の作用もある。アジアでは前立腺がんの発症率が低いため、イソフラボンの前立腺がんへの利益が想定された。しかし、疫学研究の結果は一致せず、臨床試験でイソフラボンがPSAや血清テストステロン値を減じるという結果は得られていない。したがって、前立腺がんに対する効果も明らかではない。

 AHAはこうした分析をもとに、次のように述べている。

 大豆たんぱく質については、LDL-C値をわずかに低下させるが、HDLコレステロール、トリグリセリド、血圧などには影響せず、これらの危険因子の改善を通じたCVDに対する利益は非常に小さいと考えられた。

 また、イソフラボンについては、CVDの危険因子、更年期症状、骨粗鬆症、がんのすべてについて有意な効果は示されておらず、安全性も確認されていない。したがって、イソフラボンを含む食品またはサプリメントの摂取は推奨されないとしている。

 ただし、大豆製品は、多価不飽和脂肪、繊維、ビタミン、ミネラルを豊富に含み、飽和脂肪の含有量は少ないため、CVDその他の健康上に利益があるはずだ。この分野の研究は活発に行われており、AHAは、研究結果を継続的にモニターし、必要に応じて勧告の内容を変更する予定だ。

 本論文の原題は「Soy Protein, Isoflavones, and Cardiovascular Health. An American Heart Association Science Advisory for Professionals From the Nutrition Committee」。現在、全文がこちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


■ 関連トピックス ■
◆2005.5.20 低脂肪食に大豆、食物繊維、ニンニクなどの追加摂取でさらに効果−−米国研究
◆2001.10.26 日本高血圧学会速報】大豆たんぱく質とイソフラボンの積極的摂取、血圧やコレステロールへの改善効果がRCTで示される

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