2006.02.02

嚢胞性線維症患者に朗報、高張食塩水の吸入が肺症状の増悪を抑制する

 嚢胞性線維症(CF)は遺伝性疾患で、慢性閉塞性肺疾患を引き起こす。豪Royal Prince Alfred病院のMark R. Elkins氏らが、CF患者を対象に、高張食塩水の吸入を48週間続けたところ、中程度だが肺機能レベルが持続的に向上し、肺症状の増悪が抑制できることがわかった。また、米North Carolina大学Chapel Hill校のScott H. Donaldson氏らは、高張食塩水の吸入を14日間続けたところ、粘液除去が促進されることを確認した。また、in vitroの実験で、この治療によって気道表面の水分量が増え、その結果、粘液除去を促すことを示した。2つの論文は、New England Journal of Medicine(NEJM)誌2006年1月19日号に報告された。

 豪州のグループは、CF患者に高張食塩水の吸入を短期的に行うと、粘膜繊毛クリアランス(気道粘膜に存在する繊毛細胞が担う繊毛輸送の効率)が急性に上昇し、肺機能の向上が見られるという報告をもとに、より長期にわたって吸入を継続した場合の安全性と有効性を評価した。

 2000年9月から2003年11月まで、豪州の16病院で二重盲検の並行群間試験を実施した。6歳以上の安定したCF患者164人を無作為に、7%高張食塩水または0.9%食塩水に割り付け、吸入前に気管支拡張薬を投与した上で、1日2回、4mLの吸入を48週間継続した。試験期間中は他の標準治療を継続した。患者には4週、12週、24週、36週、48週の時点で、QOLに関する一般的な質問(SF-36)を行い、肺活量測定と臨床評価、痰標本の採取も実施した。

 主要なアウトカム評価尺度は、両群間の0〜48週の肺機能の変化率に置かれた。肺機能は、努力肺活量(FVC、最大限に吸い込んでからはき出した時の息の最大量)と、1秒量(FEV1、最初の1秒間に吐き出せる息の量)、努力呼気流量(FEF25-75%、呼吸曲線の記録上の肺活量の25%と75%とを結ぶ直線の傾き)により評価した。主要アウトカムには有意差はなかった(p=0.79)。

 しかし、毎回の検査ごとに平均を求めると、肺機能の絶対差は有意だった。対照群に比べ高張食塩水群は、FVC(絶対差82mL、95%信頼区間12-153)とFEV1(68mL、3-132)が有意に高かった。FEF25-75は同等だった。

 肺症状の増悪は、痰の性状や初発の喀血の症状などに基づく抗生物質静注の必要性の有無と、標準治療を受けているにもかかわらずそれらの症状があるかどうかの2つを指標として判断した。高張食塩水群では、抗生物質の静注が必要だった患者は有意に少なかった。患者1人あたりの増悪の平均回数は、対照群0.89、高張食塩水群0.39で、相対減少率56%(p=0.02)。48週間再燃なしの患者の頻度も有意に高かった(76%と62%、p=0.03)。症状を指標とした場合も同様で、48週時の再燃なしの生存率は、高張食塩水群が41%、対照群は16%だった(p<0.001)。

 学校や仕事を休んだ日数は、高張食塩水群7日、対照群24日で有意差が認められた(p<0.001)。QOLも高張食塩水群で有意に高かった(p=0.02)。また、高張食塩水は、細菌感染または炎症の悪化を引きおこさなかった。

 咳、胸部圧迫感、咽頭炎などの副作用は、対照群では1人、高張食塩水群では14人と有意に多かった(p=0.01)。が、治療を中止したのは6人で、残りの8人については、平均15日でそれらの症状は改善され、治療中止にいたらなかった。

 気管支拡張薬に続く高張食塩水の吸入は、中程度ではあるが患者に利益をもたらし、安価で安全であることから、付加的治療として有用が示された。

 豪州グループの論文の原題は「A Controlled Trial of Long-Term Inhaled Hypertonic Saline in Patients with Cystic Fibrosis」。アブストラクトはこちらで閲覧できる。

 一方、米国のグループは、粘液除去率を測定し、高張食塩水の作用機序に迫る結果を得た。

 CF患者に見られる遺伝的な変異は、気道上皮細胞に存在する塩素イオン・チャンネルの機能異常を引き起こす。塩素イオンが細胞膜を通過しないと水も通過せず、ナトリウム・イオンの再吸収も起こらないため、患者の気道表面では水分の移動が滞る。粘液の濃度は高まり、細い気道を閉塞させる。

 著者たちは、気道の粘液除去には、気道表面が適切な水分を維持していることが必要、という報告を基に、高張食塩水は、その高い浸透力により気道表面の水分量を増やし、粘膜繊毛クリアランスを回復させて、肺機能を改善すると考えた。

 健康な人の上皮細胞を用いたin vivo研究では、高張食塩水の利益は一過性であることが示されていた。ナトリウム・チャンネル・ブロッカーのアミロライドを用いてナトリウム・イオンの吸収を抑制すると、気道表面の水分量が上昇している時間を延長できるという報告もあった。そこで、高張食塩水の吸入に先駆けてアミロライドを前投与した場合と、偽薬を投与した場合の効果を比較することにした。残念ながら、得られた結果は、仮定に反し、偽薬群の利益の方が大きいことを示した。

 対象は14歳以上の24人の患者。高張食塩水(7%食塩水5mL)は1日4回、14日間吸入させた。主要アウトカム評価尺度は、治療期間中のFEV1とFVCの変化率、2次アウトカムが、粘液浄化率とFEF25-75、全肺容量(TLC)に対する残気量(RV)の割合(RV:TLC)、CFを対象とする質問票を用いたQOLの評価に置かれた。

 アミロライドの前投与なしに高張食塩水吸入を行うと、前投与群に比べ、8時間以上にわたって1時間あたりの粘膜の浄化率の上昇(偽薬前投与群14.0±2.0、アミロライド前投与群7.0±1.5%、P=0.02)が維持された。ベースラインに比べ24時間あたりの粘膜浄化率も向上。さらに、偽薬前処理群では、FEV1がベースラインから治療12日目までに有意に向上(平均差6.62%、p=0.02)した。アミロライド群ではFEV1向上は非有意(p=0.23)。FVC、FEF25-75、呼吸器症状も偽薬前処理群で有意に改善された。RV:TLCについては両群間に差はなかった。

 気管支上皮を用いたin vitro実験のデータは、高張食塩水処理により、粘膜表面の水分量が急上昇し、その後徐々に減少するものの、通常より高いレベルが数時間持続することを示した。水分量が増加すれば粘液浄化は促進される。が、アミロライド処理では、水分量の増加は起こらず、臨床利益が得られなかった理由はここにあると考えられた。

 こちらの研究でも、高張食塩水の吸入は、呼吸器症状と肺機能の中程度の改善をもたらした。この治療は、粘膜の浄化能力が衰え、肺疾患リスクが高まっている患者の肺を保護できることが示された。また、気道上皮の水分量の維持が、CF治療において非常に重要であることを示した。

 米グループの論文の原題は「Mucus Clearance and Lung Function in Cystic Fibrosis with Hypertonic Saline」。アブストラクトはこちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)

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