2006.02.02

スタチンはアテローム性動脈硬化症患者の敗血症発症を抑制する−−カナダの研究

 コレステロール低下剤のスタチンには、多面的な作用が認められている。動物実験では、スタチンの敗血症予防効果が示唆されていた。カナダToronto大学のDaniel G Hackam氏らは、アテローム性動脈硬化症患者のうち、スタチンを処方されたグループと処方されなかったグループのその後の敗血症発症率を比較、スタチン投与が敗血症の発症を19%抑制することを示した。詳細は、Lancet誌電子版に2006年1月25日に報告された。

 敗血症予防の重要性は高まっている。発症率が上昇しているうえ、高度集中治療室における死亡の原因となり、ケアにかかる費用が非常に高額だからだ。

 スタチンは、糖尿病患者や冠疾患その他のアテローム性動脈硬化症患者の心血管イベント・リスクを下げる効果を持つ。それ以外に、抗炎症作用、免疫調節作用、抗酸化作用、抗血栓作用、プラーク安定化作用なども報告されている。ヒトを対象に敗血症予防効果を調べた研究もわずかながら存在するが、いずれも小規模で、質的にも十分ではなかった。

 アテローム性動脈硬化と敗血症は、病態生理学的な共通点をいくつか持っている。アテローム性動脈硬化症患者には、しばしばスタチンが投与される。しかし、スタチンが敗血症リスクに影響するかどうかは、調べられていなかった。そこで著者らは、大規模な、集団ベースの後ろ向きコホート研究を行った。

 カナダのオンタリオ州在住者の医療データを蓄積している4つのデータ・ベースから、1997年1月から2002年1月までに、スタチンの適用が推奨される、急性冠症候群または脳梗塞で入院、または血行再建術を受けるために入院した65歳以上の患者を抽出。その中から退院後3カ月以上生存していた14万1487人を選出した。退院から90日以内にスタチンが1回以上処方されていた患者は4万6662人(33%)だった。傾向スコアを利用してマッチングが良好な6万9168人(スタチン使用群が3万4584人、スタチン非使用の対照群3万4584人)を選び、分析対象にした。

 併存疾患として最も多かったのは、糖尿病、うっ血性心不全、慢性閉塞性肺疾患など。スタチンの中で多く処方されていたのは、アトルバスタチン(37%)、シンバスタチン(28%)、プラバスタチン(21%)だった。

 平均2.2年の追跡期間中に、スタチン群の551人、対照群の667人が敗血症で入院した。発症率は、スタチン投与を受けている患者で有意に低かった(1万人-年あたり71.2人と88.0人、ハザード比0.81、95%信頼区間0.72-0.91)。人口統計学的特性、敗血症の危険因子、併存疾患などで調整後も、結果は同じだった(ハザード比0.81、0.72-0.90)。

 スタチン群では、重症の敗血症(ハザード比0.83,0.70-0.97)と致死的な敗血症(ハザード比0.75,0.61-0.93)も有意に減少。また、予防的効果は、糖尿病患者、慢性腎不全患者、感染既往者といったハイリスクのサブグループでも有意だった。

 スタチンの作用は、高用量(ハザード比0.80)、低用量(ハザード比0.81)の間で同等。広く処方されている3種のスタチン系薬剤の効果もほぼ同等だった(ハザード比0.73-0.80)。また、スタチン以外のコレステロール降下剤には、敗血症予防作用は見られなかった(ハザード比0.95、0.75-1.22)。

 これまで、複数の敗血症治療薬候補が、動物実験では好結果を得ながら、臨床試験の途上で開発中止を余儀なくされてきた。今回の結果は、スタチンの敗血症予防効果を評価する無作為割付試験の実施を支持した、と著者らは述べている。

 本論文の原題は「Statins and sepsis in patients with cardiovascular disease: a population-based cohort analysis」。アブストラクトはLancet誌Webサイトのこちらで閲覧できる。 (大西淳子、医学ジャーナリスト)


■ 関連トピックス ■
◆2006.1.17 スタチン投与が心筋梗塞の2次予防に有効、特にCRP高値群で効果大
◆2005.11.25 強力なLDL-C低下療法は心血管イベントの一部を抑制する−−IDEAL試験結果がJAMA誌に掲載
◆2005.11.17 アトルバスタチンの投与で全身性強皮症患者の骨髄由来の血管内皮前駆細胞数が増加、症状も改善
◆2005.10.6 スタチンの長期投与は冠動脈死と重大な血管イベントを減らす−−メタ分析結果

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