2006.01.27

Lancet誌で全面捏造発覚、908人分の患者データすべてを筆頭筆者が創作! 同一著者によるNEJM誌の論文でもデータ捏造が判明

 2005年10月にMedWaveで紹介したLancet誌の論文のデータは、すべて捏造されたものだった、という衝撃的な発表がLancet誌2006年1月21日号に掲載された。研究対象となった908人の患者は実在せず、すべて筆頭著者の創作だったという。まず、MedWaveの既報「ヘビースモーカーに朗報? 鎮痛薬の長期服用で口腔がんリスクが半減 ただし、心血管死リスクは倍増します――Lancet誌に報告」でご覧いただきたい。

 Lancet誌は、2006年1月13日にノルウェーRarium病院から通知を受け取った。同誌編集者のRichard Horton氏は、「Lancet誌に報告されたJon sudbo氏らの研究は、ノルウェーの国家的データベースに登録されたデータを利用して行われたのではなく、操作されたデータに基づくことを強く示唆する情報を入手した」という内容だった。翌14日には、同病院は「データ操作ではなく、完全な捏造だった」と発表した。

 同病院は、スウェーデンKarolinska研究所の疫学者Anders Ekbom氏を中心とする外部調査委員会を結成、この件のみならず、New England Journal of Medicine(NEJM)誌に掲載されたSudbo氏の2つの論文を含む、他の研究についても調査を実施すると決めた。

 Lancet誌は、Sudbo氏が口頭で捏造を認めたと聞いているが、1月17日の時点では、氏自身または調査委員会から、捏造を確認する書面を受け取っていないという。同誌は、正式な情報が得られしだい、読者に直接提示する予定だ。

 Lancet誌が掲載した上記報告の原題は、「Expression of concern: non-steroidal anti-inflammatory drugs and the risk of oral cancer」。現在、全文がこちらで閲覧できる。

 一方、当のRadium病院は、同病院に所属する研究者(=Subdo氏)が発表したデータに疑問があるとする外部の研究者からの情報を1月11日に入手していたことを明らかにした。

 Lancet誌が引用しているGuardian紙の記事によると、捏造発覚のきっかけは、ノルウェー首相の姉妹で、ノルウェー国立公衆衛生研究所疫学部門の部長を務めるCamilla Stoltenberg氏が、クリスマスに問題の論文に目を通したことだった。論文には「患者の情報は国家的なデータベースCohort of Norwayから得た」と書かれていた。しかし、このデータベースは現在に至るまで公開されておらず、Sudbo氏が利用できたとは考えられなかった。Cohort of Norwayは、国立公衆衛生研究所とノルウェーの4大学が共同で構築している。

 連絡を受けた同病院の管理者はただちに調査を開始、同時に調査委員会の結成を決めた。まもなく、すべてのデータが、誰にも気づかれることなく、Sudbo氏によって捏造されたことが明らかになった。氏は、908人の患者全員分について、氏名、診断、性別、体重、年齢、使用している薬剤にいたるまでを創作していたという。

 同病院は1月13日付けでLancet誌編集部や他の関連機関に連絡を取った。翌1月14日にはノルウェー保健局に、1月16日にはノルウェー保健大臣に報告した。ノルウェー保健省は同日のうちに、南ノルウェー地域保健局(RHA)にこの件を通告したが、この時点では、がん患者またはがん治療が、捏造論文の影響を受けたことを示す情報はなかった。

 保健大臣は、同国の病院内部で行われる医学研究の質の管理を確実にするため、5つの地域保健局に、各病院の現行の管理システムについて調査、報告するよう依頼する予定だ。目的は、今後の捏造の予防にある。これ以外にも、地域の倫理委員会を含む国家的な規制当局が、患者に関する情報を扱うすべての研究プロジェクトを評価することになった。

 ノルウェー研究会議(RCN)は1月17日、今回の捏造のすべての面を検証し、こうした不正行為を予防するための新たな方法を設ける予定だと発表した。その一環として、ノルウェー教育研究大臣とRCNが1月16日に高官会議を開催し、不正行為防止策を検討したという。RCNは、今回の捏造発覚に先駆けて不正行為予防のための勧告を行っていた。これに基づいて、今春には国家反不正行為委員会の設立が決まった。

 RCN会長のArvid Hallen氏は「非常に深刻な問題だ。この件について徹底的に調べるとともに、高い倫理基準の維持に向けて継続的に働く必要がある」と述べた。教育研究大臣のOystein Djupedal氏は「不正を防ぐ健全なシステムの構築は、研究機関自体が負っている義務だ」と語っている。

 外部調査委員会は1月18日に活動を開始した。Sudbo氏は、調査のために全データを調査委員会に提供することに同意している。委員会は、同病院が所属するOslo大学、ノルウェー国立公衆衛生研究所、ノルウェーがん登録、Rarium病院がんクリニックなどの代表者からなり、RCNにも支援も要請、さらに米国立がん研究所にも調査委員会への参加を依頼する計画だという。委員会は、問題の論文のみならず、1997年以降に発表された38論文について調査を行う予定だ。さらに、共著者が捏造に関わっていたかどうかも追求するという。

 なお、同病院によると、Sudbo氏は現在、病気を理由に休暇をとっている。

 NEJM誌は1月20日、過去に掲載したSudbo氏の論文に対する懸念を電子版に発表した。この論文の原題は「Expression of Concern: Sudbo J et al. DNA Content as a Prognostic Marker in Patients with Oral Leukoplakia. N Engl J Med 2001;344:1270-8 and Sudbo J et al. The Influence of Resection and Aneuploidy on Mortality in Oral Leukoplakia. N Engl J Med 2004;350:1405-13」。現在、全文がNEJM誌Webサイトのこちらで閲覧できる。

 これによると、同誌が2001年4月26日号に掲載したSudbo氏の論文、「DNA Content as a Prognostic Marker in Patients with Oral Leukoplakia」(現在、全文がこちらで閲覧可能)の図3Bと図3Cは、異なるステージの口腔上皮異形成の患者2人に由来する組織の顕微鏡写真、と説明されているが、実際には、同じ写真を異なる倍率で提示したものであることが判明した。

 また、Sudbo氏が2004年4月1日号に発表した論文、「The Influence of Resection and Aneuploidy on Mortality in Oral Leukoplakia」(現在、全文がこちで閲覧可能)は、先の論文と同じ患者群を対象にしたものであるため、同様に疑わしいとNEJM誌は考えている。同誌は、Rarium病院に懸念を通知し、委員会による調査結果を待っている。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


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