2006.01.12

脳卒中リスクの低いNVAF患者に対する低用量アスピリン投与は利益なし――日本人対象の臨床試験JASTで判明

 低用量アスピリンの使用が、低リスク非弁膜症性心房細動(NVAF)の予後を改善できるかどうかを評価する日本人対象の臨床試験を実施したところ、使用を支持する結果は得られず、試験は早期に中止された。JAST(Japan Atrial Fibrillation Stroke Trial)の成果で、大阪大学医学部の佐藤洋氏らが、Stroke誌電子版に2005年12月29日に報告したもの。

 非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の脳卒中の一次予防における抗凝固治療の効果は証明されている。しかし、日本では、抗トロンビン治療はあまり行われず(8%)、主に、抗血小板薬(45%)または無治療(47%)が選択されている。にもかかわらず、抗血小板薬アスピリンの利益とリスクに関する情報は少なかった。

 脳卒中予防においては、低用量(75mg/日)でなく高用量(325mg/日)のアスピリンが有効とされているにもかかわらず、日本のNVAF患者の多くに、低用量(81mg/日)が適用されている。これは、消化管障害と用量依存的出血リスクに対する懸念に基づいている。

 そこで佐藤氏らは、前向き多施設試験「JAST」を行い、脳卒中リスクが低いNVAF患者に対する低用量アスピリンの有効性と安全性を評価した。

 907人のNVAF患者を登録、871人を150-200mg/日アスピリン群(426人)と偽薬群(445人)に無作為に割り付けた。抗血小板薬または抗凝固薬などの投与は行わなかった。主要エンドポイントは、心血管系死亡、症候性脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)。2次エンドポイントは、非心血管系死亡、頭蓋内出血、大出血、末梢塞栓に設定した。

 この試験は計画途上で中止された。アスピリン群における大出血リスクのわずかな上昇が見られたためと、アスピリン群の優越性が証明される見込みが非常に低かったためだ。中止時点で、追跡期間の平均は768日±403日だった。

 Intention-to-treat 分析で、主要エンドポイントに設定されたイベントの発生件数は、アスピリン群27件(1年あたり3.1%、95%信頼区間2.01-4.6%)、偽薬群23件(1年あたり2.4%、1.5-3.5%)。年齢、性別、発作性心房細動、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙、その他で調整後のリスク上昇は50%(p=0.175)となった。

 2次エンドポイント・イベントを経験したのは、アスピリン群14人、対照群9人。調整後のリスク上昇は42%(p=0.185)。エンドポイントごとの発生頻度に有意差はなかった。大出血はアスピリン群7人(1.6%)、対照群2人(0.4%)に発生、アスピリン投与は大出血リスクを上昇させる傾向が見られたが、p=0.101で有意ではなかった。頭蓋内出血は、アスピリン群4人(0.94%)、対照群2人(0.45%)に発生した。

 NVAF患者の脳卒中予防には、150-200mg/日のアスピリンは有効でも安全でもなかった。日本人は、西欧人に比べ頭蓋内出血を起こしやすいという報告がある。アスピリンの予防的な使用を安全に行うためには、出血リスクの高い患者を識別する方法の研究などが必要だ。著者たちは、前向きの臨床試験をさらに行って、日本人に安全な脳血管イベント予防戦略を確立しなければならない、と述べている。

 本論文の原題は「Low-Dose Aspirin for Prevention of Stroke in Low-Risk Patients With Atrial Fibrillation/ Japan Atrial Fibrillation Stroke Trial」。アブストラクトはStroke誌Webサイトのこちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


■ 関連トピックス ■
◆2005.6.7 低用量アスピリン、高齢者の心血管疾患一次予防でリスクに優る効果示せず−−豪の疫学シミュレーション研究
◆2005.4.6 症候性頭蓋内動脈狭窄にはワーファリンよりアスピリンが安全、脳卒中などの予防効果は同等
◆2005.3.11 アスピリン投与で健康な女性の脳卒中リスクが17%減少


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