2006.01.11

心筋梗塞後のアルギニン投与は有害か 血管の硬さや左室機能を改善せず、むしろ死亡率が上昇する

 心筋梗塞後にはアルギニン投与を避けた方がよいようだ。アルギニンは、高血圧や狭心症、心不全、性的機能不全に利益があると報告されており、サブリメントとして摂取する米国人は少なくない。しかし、米Johns Hopkins大学のSteven P. Schulman氏らが、急性のST上昇型心筋梗塞(STEMI)後の標準治療にアルギニンを加えることで、患者が利益を得られるかどうか調べる無作為割付比較対照試験を実施したところ、6カ月間の追跡で、治療群と対照群の間に血管の硬さと左室機能には有意差は見られず、逆に治療群では死亡率が有意に高くなった。研究成果は、Journal of American Medical Association(JAMA)誌2006年1月4日号に報告された。

 アミノ酸の一種であるL-アルギニンは、一酸化窒素(NO)合成酵素(NOS)の基質として重要だ。この酵素の作用を受けると、L-アルギニンはL-シトルリンになるが、その際、NO産生が起こる。NOは、血管拡張作用のほか、抗動脈硬化作用や抗炎症作用などを持つ。こうしたNOの効果を期待して、アルギニンがサプリメントとして広く用いられるようになった。

 先に行われた複数の研究で、アルギニンには血管を柔らかくする作用があることが示唆されていたため、著者たちは、STEMI後の標準治療にアルギニンを加えた場合の血管の硬さと左室機能の変化を調べる研究を行った。

 初回のSTEMIを起こした30歳以上の患者計153人(平均年齢60歳)を登録。入院から平均5.9日後に、心血液プールスキャンを実施して左室駆出分画(LVEF)、動脈コンプライアンス、脈波伝達速度、動脈エラスタンスなどを求めた。その後、78人にアルギニン3gを1日3回、75人に偽薬を6カ月間、経口投与した。

 ベースラインと6カ月後の血清アルギニン濃度を比較したところ、対照群、治療群とも有意差は認められなかった。6カ月後の動脈エラスタンス、動脈コンプライアンス、脈波伝導速度とLVEFを比較したが、治療群と対照群の間に有意差はなかった。ベースラインで血管がより硬い状態にあると見なされた、60歳以上で脈圧50mmHg以上のグループに限定しても、両群に差は認められなかった。

 一方、心筋梗塞発症、死亡、心不全による入院を合わせると、治療群は12人(16.74%)、対照群は7人(8.6%)となった。アルギニン群では6人(8.6%)(うち5人が60歳以上)が死亡したが、対照群に死者はいなかった(p=0.01)。この結果を受けて、データ監視・安全性委員会は試験中止を求めた。

 著者たちによると、これまでにも、安定冠動脈疾患患者に対する標準的な抗梗塞治療に、1日9gのアルギニンを加えても、NOレベル、血清中の接着分子、上腕動脈の血流依存性血管拡張反応に有意な効果は見られないとの報告はあった。

 今回、血清中のアルギニンが用量依存的に上昇していなかったこと、多くの患者が血管の機能を改善させる薬剤を既に使用していたことなどが、有意差を示せなかった原因ではないか、と著者たちは考察している。

 アルギニン摂取が有害になる機構は、いくつか知られている。NOSの補酵素であるテトラヒドロビオプテリンが不足すると、NOの代わりに活性酸素が生じる。アルギニン投与はこの反応を増強する可能性がある。また、アルギニン投与は、冠動脈疾患の危険因子として知られるホモシステインの産生増に結びつく可能性もある。

 今回の結果は、治療にアルギニンを加えても、血管の硬さと左室機能には利益は見られず、臨床イベントは増加することを示した。著者たちは、急性心筋梗塞後のアルギニン投与は推奨すべきではない、と述べている。

 本論文の原題は「L-Arginine Therapy in Acute Myocardial Infarction」。アブストラクトはJAMA誌Webサイトのこちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


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