2006.01.10

H5N1ウイルス、軽いヒト感染は高頻度の可能性 病気・死亡の家禽との接触者でインフルエンザ症状が7割増――ベトナムでの研究 

 ベトナムでは、H5N1型のトリインフルエンザウイルス感染が増加している。が、これまでに報告された感染者数は、主に、大都市の病院に入院した重症例を数えたもので、地域住民の感染や発症の実態を調べた研究はなかった。スウェーデン・カロリンスカ研究所のAnna Thorson氏らは、ベトナム北部の地域住民を対象に、咳と発熱を特徴とするインフルエンザ様疾患と、病気、または、死んだ家禽への暴露の関係を分析し、それらの家禽に直接接触した人々にインフルエンザ様疾患が有意に多いこと、発症者の1割弱は、家禽との接触が原因と考えられることを示した。血清学的検査は行われていないが、消去法ではインフルエンザ様疾患はH5N1型ウイルスの軽度感染による可能性が高いと考えられた。詳細は、Archives of Internal Medicine誌2006年1月9日号に報告された。

 同研究所は、ベトナム北部のFilaBavi地区(人口24万2000人)で、1999年から、地方に住むベトナム人の人口学的調査を継続してきた。ここでは、家禽のH5N1型ウイルス感染が確認されている。今回は、住民の中から無作為に選出した4万5478人を調査対象とし、まず、それらの人々が所属する1万1942世帯の代表者に、通常の年4回の定期的な調査の際、追加質問として、過去6カ月間の家禽への暴露とインフルエンザ様疾患の有無を尋ねた。いずれか、または両方がイエスという回答になった15歳以上の家族に対し、直接、面接調査を行った。

 対象者の84.4%にあたる3万8373人が、家禽を飼っている世帯に属していた。職業上での家禽との接触も多く、1万5043人(33.1%)が家禽の糞を肥料として使用しており、1万4606人(32.1%)が商業的な飼育に携わっていた。

 家で飼っていた家禽の病気または死を経験していたのは1万1755人(25.9%)。インフルエンザ様疾患を発症したと回答したのは8149人(17.9%)だった。

 多変量ロジスティック解析モデルを使って、年齢、性別、社会経済的状況で調整したところ、家禽への暴露自体はインフルエンザ様疾患の危険因子ではなかった(オッズ比1.04、95%信頼区間0.96-1.12)。しかし、家で飼っていた家禽が病気を発症または死んだ場合、それらと直接の接触はなかった対象者のオッズ比は1.14(1.06-1.23)、死んだ家禽と直接接触していた場合のオッズ比は1.73(1.58-1.89)となった。

 年齢別に見ると、7歳以上の全年齢において、病気または死んだ家禽との接触と、インフルエンザ様疾患発症の間に有意な関係が見られた。オッズ比が最も高かったのは19〜45歳で2.36(2.13-2.62)となった。得られたデータから推算すると、病気または死んだ家禽との直接の接触が原因と考えられるインフルエンザ様疾患は、650〜750例あると考えられた。

 咳と発熱に加えて、頭痛(オッズ比1.81)、嘔吐(1.65)、呼吸困難(1.54)、喉の痛み(1.16)といった症状も、病気または死んだ家禽との直接の接触と有意に関係していた。

 血清学的検査が行われていないため、インフルエンザ様疾患の原因は不明だ。しかし、家禽との接触で感染する病原体の中で最も可能性が高いのは、H5N1型ウイルスと考えられた。そうであれば、この地域の人々に見られたインフルエンザ様疾患は、軽度感染例と見なすことができる。

 今回の結果は、H5N1型ウイルスのヒトへの感染は予想より高頻度に起きている可能性を示した。これが事実なら、恐れられている新型インフルエンザの出現リスクはさらに高まることになる。ただし、今回の場合、症状は軽度であり、家禽との直接の接触がないと感染しにくいことが示された。著者たちは、今回の結果を確認するため、地域住民ベースで、急性の軽度感染が疑われる患者を対象とする血清学的および微生物学的研究を行う必要がある、と述べている。

 本論文の原題は「Is Exposure to Sick or Dead Poultry Associated With Flulike Illness?: A Population-Based Study From a Rural Area in Vietnam With Outbreaks of Highly Pathogenic Avian Influenza」、アブストラクトはArchives of Internal Medicine誌Webサイトのこちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


■ 関連トピックス ■
◆2005.11.29 トリインフルエンザ速報】ベトナムで新たに1人がH5N1感染、2004年12月以降で66例に――WHO発表
◆2005.7.1 H5N1の市中感染示唆する検査データ、WHOベトナム調査チームが把握、確証得られれば流行警戒レベル上げも

Information PR

ログインしていません

Close UpコンテンツPR

ログインしていません

もっと見る

人気記事ランキング

  1. インフルエンザ脳症で30代患者死亡、今季2例目 インフルエンザ診療Next:トピックス FBシェア数:276
  2. 「2025年」大予測! 医療改革は成功?失敗? 日経ヘルスケアon the web FBシェア数:2
  3. 2018年度ダブル改定で「看取り」の解釈が拡大 記者の眼 FBシェア数:230
  4. 他界した弟に導かれて医師の道へ 人物ルポ■奄美群島の産婦人科医療に挑む小田切幸平氏 FBシェア数:145
  5. 神になりたかった男 徳田虎雄 薬師寺泰匡の「だから救急はおもしろいんよ」 FBシェア数:237
  6. 外傷性気胸に胸腔ドレナージは要らない? Dr.倉原の呼吸器論文あれこれ FBシェア数:155
  7. 「人生の最終段階に関するGL」改訂へ 3月末までの改訂予定で、厚労省がたたき台を提示 FBシェア数:2
  8. 主訴<腰痛>での救急搬送で見逃せない疾患は? 患者到着前から始まるエマージェンシー臨床推論 FBシェア数:21
  9. 民間の医療保険? そんなの入る必要ありません Dr.Kの「医師のためのバリュー投資戦術」 FBシェア数:22
  10. サイトメガロウイルスのDNA検査薬が保険収載 新生児の尿で検査可能、既存の抗体薬に比べて高感度 FBシェア数:4
医師と医学研究者におすすめの英文校正