2006.01.10

がんを呼気で嗅ぎ分ける“がん探知犬”、驚異的な高精度示す米研究が論文化

 犬の嗅覚は人の10万倍以上といわれる。犬の嗅覚ががんの診断に役立つ可能性が初めて報告されたのは1989年のこと。それ以降、皮膚の病変部の臭いからメラノーマ患者を、また、尿の臭いから膀胱がん患者を特定できた、という論文が発表されている。米Pine Street FoundationのMichael McCulloch氏らは、普通の飼い犬に、肺がんと乳がんの患者の呼気を健常人の呼気と区別する訓練を行い、最終的に、肺がんについては感度、特異性とも99%、乳がんは感度88%、特異性98%を達成した。詳細は、年4回発行のIntegrative Cancer Therapies誌2006年3月号に掲載される。英国BBCで、この研究を扱ったドキュメンタリーが放送され、米国でも、まもなく放映予定であることをうけて、現在、同誌電子版では全文が無料公開されている。

 McCulloch氏らは、肺がんと乳がんの患者の呼気から、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GCMS)法によって検出される揮発性有機化合物(アルカン、芳香族化合物、ベンゼン誘導体など)が、がんの診断に有用である可能性に注目した。肺がんと乳がんの患者でも、これら有機化合物の相対的な濃度は健常人と異なるとの報告がある。しかし、GCMSを用いても、すべての化合物を検出することはできず、現時点では診断マーカーとして用いられてはいない。

 著者たちは、犬を訓練すれば、健常人とがん患者に由来する呼気を区別できるようになるかどうかを調べることにした。選んだのは、普通の飼い犬5匹(生後7〜18カ月)。3匹がラブラドール、2匹がポーチュギーズ・ウォーター・ドッグだった。

 標本は、肺がん患者55人、乳がん患者31人、健常人83人から得た。患者については、生検により診断が確定したばかりの人とし、化学療法開始前に呼気標本を採取した。ポリプロピレン製の有機蒸気回収チューブに3〜5回呼気を吹き込むよう依頼し、1人あたり4〜18検体を得た。

 訓練は、5標本の中に1つだけ含まれるがん患者由来の呼気を識別し、犬がその前に座るか横たわれば、食物を与えてほめる方式で、2〜3週間実施した。

 訓練を終えた犬の識別能力は、訓練に用いられたセットとは別の患者と健常人に由来する呼気標本を対象に評価された。犬の訓練士と実験監督者の両方に、どの標本が陽性かを知らせない、2重盲検方式で検定が行われた。

 現在の喫煙で調整した肺がん検出感度は0.99(95%信頼区間0.99-1.00)、特異性は0.99(0.96-1.00)、乳がんでは、感度0.88(0.75-1.00)、特異性0.98(0.90-0.99)となった。感度と特異性は、病気のステージに関わりなく一定だった。また、5匹の犬の検出精度には有意差は認められなかった。これは、訓練法が広く有用である可能性を示唆した。

 ほんの数週間の基本的な訓練で、特に嗅覚に優れた犬でなくても、がん患者とそうでない人を区別できるようになった。ただし、犬は、がんそのものでなく、がんに関係する炎症、感染、壊死などの状態に起因するにおいに反応している可能性はある。著者たちは、がん以外の炎症性疾患などの患者に由来する標本も用いる実験を行うとともに、呼気成分の化学分析を進めれば、その答えが得られると考えている。

 今回の研究は、嗅覚という生物学的システムを用いた評価で高精度が得られる可能性を示唆した。と同時に、呼気に含まれる成分のどれが、診断において最も重要であるかを調べる研究の必要性を示したといえる。

 なお、筆者が所属する Pine Street Foundationは、がん患者による治療の選択を支援するために、患者に対する教育や情報提供、臨床試験、メタ分析などを行っている。

 本論文の原題は「Diagnostic Accuracy of Canine Scent Detection in Early- and Late-Stage Lung and Breast Cancers」。現在、Integrative Cancer Therapies誌Webサイトのこちらで全文が閲覧できる(PDFフィイル)。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


■ 関連トピックス ■
◆2004.9.27 イヌは尿の臭いで膀胱癌患者をかぎ分けられる、検証実験で示唆
◆2002.9.6 EASD学会速報】犬の7割が飼い主の低血糖に反応、汗のにおいを感知か

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