2006.01.06

非ST上昇型冠症候群患者の4割がヘパリンや抗トロンビン剤の過剰投与を受けている――米国の研究

 非ST上昇型冠症候群(NSTE ACS)で入院した患者に対して、24時間以内に投与されたヘパリンと抗トロンビン剤の用量と大出血の発生頻度を調べたところ、42%もの患者に過剰投与が行われており、それらの患者で出血リスクが上昇する傾向があることがわかった。米Duke大学のKaren P. Alexander氏らの研究で、詳細は、Journal of American Medical Association(JAMA)誌2005年12月27日号に報告された。

 米国では、NSTE ACSの患者に対する治療戦略は確立されており、多様な臨床試験の結果に基づいて、体重と腎機能を指標に、治療効果を維持しながら出血リスクを最低にするよう設計されている。

 著者たちは、2004年1月1日から2004年9月30日までに、米国内387カ所の学究的および非学究的病院で登録されたNSTE ACS患者で、胸痛があり、心電図(ST変化)またはバイオマーカー(トロポニンまたはクレアチン・キナーゼMB)のいずれかが陽性の3万136人から、体重またはクレアチニン・クリアランスのデータが失われている患者、冠動脈バイパス術を受けた患者などを除き、未分画ヘパリン(UFH)、低分子量ヘパリン(LMWH)、糖蛋白質IIb/IIIa(GP IIb/IIIa)阻害剤の投与量を調べ、用量と主なアウトカム(出血、院内死亡率、入院期間など)の関係の間の関係を評価した。

 調査に参加した病院は、規模や収容能力、地域などの点では様々だったが、米国の平均に比べれば、より大規模で、カテーテル検査室を備えている頻度が高かった。

 ヘパリンは87.2%、GP IIb/IIIa阻害剤は56.1%に投与されていた。推奨外の用量が投与された薬剤が1つ以上あった患者は42%にのぼった。過剰投与は、UFHで32.8%、LMWHで13.8%、GP IIb/IIIa阻害剤では26.8%だった。7983人にはヘパリン(UFHまたはLMWH)とGP IIb/IIIa阻害剤が併用されており、いずれか一方の薬剤が過剰投与だった患者がそのうちの35%、両方が過剰だった患者が7%いた。

 過剰投与のほとんどは軽度だったが、薬剤により2〜10%が重度過剰投与を受けていた。一方、過小投与もUFHで30.3%、LMWHの30.5%を占めた。GP IIb/IIIa阻害剤では過小投与はわずかだった。

 薬剤により違いはあるが、過剰投与の頻度は、高齢者と女性で、また、腎不全、BMI低値、糖尿病、鬱血性心不全がある患者で高かった。特に、GP IIb/IIIa 阻害剤は、65歳未満に比べ75歳以上に対する過剰投与の調整済みオッズ比が14.39(95%信頼区間12.24-16.90)と高かった。

 大出血(あらゆる頭蓋内出血で、濃厚赤血球2パック以上の輸血実施、またはヘマトクリット値が12%以上低下)は、全体の11.5%の患者に発生した。UFH過剰投与群では13.9%、LMWH過剰投与群では12.5%、GP IIb/IIIa阻害剤過剰投与群では17.5%で、調整済みオッズ比はそれぞれ、1.08(0.94-1.26)、1.39(1.11-1.74)、1.36(1.10-1.68)と、上昇傾向または有意な上昇が認められた。過剰投与の程度と過剰に投与された薬剤の数に応じて出血リスクは上昇した。

 死亡率と入院期間は、過剰投与を受けたグループで高い値となった。死亡率は、推奨用量と、軽度過剰、中等度過剰、重度過剰投与群を比較すると、3剤いずれも段階的に上昇(傾向のp値<0.001)。しかし、調整後も死亡リスク上昇が有意だったのは、GP IIb/IIIa阻害剤のみだった(1.50,1.03-2.17)。

 著者たちの推算では、被験者の中で大出血を起こした人の15%は過剰投与が原因と考えられた。出血は死亡率を3倍にし、医療費の上昇ももたらす。にもかかわらず、地域社会で治療を受けるNSTE ACS患者には、しばしば、ヘパリンや抗トロンビン剤が過剰投与されていた。著者たちは、その原因が、医師たちの経験的な思いこみや、個々に用量を決定することの重要性に関する認識不足などにある可能性を指摘している。また、用量決定に必要な情報が揃っていない段階で投与が開始されることも少なくなかったため、入院時にまず投与量決定に必要なデータをそろえる努力が必要だ、と述べている。また、興味深いことに、推奨治療が実践される頻度が高い病院では、投与量の誤りは少なかった。これは、病院がEBM実施のための環境を整え、医師たちが訓練や経験を積んでいるかどうかが重要であることを示唆した。

 本論文の原題は「Excess Dosing of Antiplatelet and Antithrombin Agents in the Treatment of Non-ST-Segment Elevation Acute Coronary Syndromes」。アブストラクトはJAMA誌Webサイトのこちらで閲覧できる。(大西淳子、医学ジャーナリスト)


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