2005.12.26

【MRのキモチ】その21 「30代のMRに殴られた50代のコントラクトMRの物語」

 U次郎は今日も浮かない顔で病院を訪問していた。思えばかつての栄光が胸をよぎるが、今は長年勤務した外資系製薬会社をリストラされ、CSOの会社のコントラクトMRとして働いているのである。

 U次郎は以前の会社では営業所長まで務めた男である。今は単なる一介のMRとして担当地域を訪問していたのだが、あまり実績は上がっていないのであった。

 名刺も委託元の会社の名刺を持ち、内部のデータ処理もその会社より貸与されたコンピューターを通じて処理されるので、外部の先生方から見ると、だれが正社員のMRでだれがコントラクトMRかは区別が付かないように配慮されている。

 U次郎が任された地域は以前X社のMRがまわっていたが成績が上がらない地域なので、U次郎は開拓要員として担当させられたのである。

 A社は内資系の中堅会社で、魅力的な新製品もなく、近い将来発売される見込みの新製品に期待をかけて、その市場作りを始めたところであった。

 ターゲット会議の時に、課長は本社からの割り当ての目標値を配分し、正社員の部下には達成できそうな目標値を与え、U次郎には前年実績の200%を超える目標値を与えた。

 ターゲットをもらったときから、この数字はどんなに努力しても、到底達成できる目標ではないことはだれの目にも明らかであった。

 U次郎は時折「何でこんな思いをしながらMRを続けなければならないのか」と自問していたが、女房や子供のことを考えると、「今は我慢して頑張ろう」と思わざるを得なかったのである。

 毎月月初めの会議があると、達成率の一番低いU次郎が槍玉に上がったが、じっと我慢していた。

 U次郎の直接の上司は30代の若い班長で、この班長が毎月きつい追及をしてきた。

 「ベテランなのに、何でこのくらいの数字が達成できないんだ」「ちゃんと仕事をしているのか」「仕事をしないで、遊んでいるのではないのか」。

 「なにを、遊んでいるとは何事だ」「言って良いことと悪いことがあるぞ。俺は一生懸命やっているんだ」とU次郎は精一杯の抵抗を試みた。

 すると若い班長はいきなりU次郎の胸ぐらを捕まえて、顔面を殴ったのである。

 周りのMRが間に入って両者を抱き抱えたので、それ以上の殴り合いにはならなかったが、U次郎は腹の虫が収まらなかった。

 U次郎は気が落ち着いてから、早速プロジェクトリーダーに電話して、事の顛末を話した。プロジェクトリーダーは驚いて直ぐにCSO事業本部長に話をした。事業本部長はすぐに該当支店長に電話し、翌日訪問する旨のアポイントを取り付けた。

 当日、プロジェクトリーダーと事業本部長は飛行機でやって来て、該当支店長に抗議の面談を行なった。

 事業本部長は切り出した。「当社の社員が暴力を受けるとは全く持って問題外のことでそのような扱いを受けることはまことに遺憾である」「幸い軽症で済んだが、これは暴力問題なので出るところへ出れば、警察沙汰にもなる」。

 支店長は「当社の社員が暴力を振るったことはお詫びするが、コントラクトMRに対して差別はしないが区別はする」と言い放った。

 事業本部長は「この問題は会社対会社の問題なので、御社の営業本部長に報告する」と切り出すと、支店長は急に態度を豹変し、「営業本部長には報告しないでくれ、お願いだから、ここだけの話にしてほしい」と謝ったのである。

 U次郎はCSO事業本部長に担当替えを申し出て、Aプロジェクトからは転出し、現在は別のプロジェクトで元気に働いているのである。

******************
 医薬・医療関連企業の営業業務を受託するCSO(Contract Sales Organization)は日本では1998年に始まり、既に2000名以上のコントラクトMRが各製薬会社のプロジェクトに参加して活動している。

この制度が発祥したイギリスでは全MRの40%近くがコントラクトMRとして活動しているが、日本はまだその比率が低く、将来大きく発展する新しい業種として注目を集めているところである。

 しかしながら、この種の扱いに慣れていない日本の製薬会社では、今回の事件のような問題が時には起きることがあり、同じMRとして仕事をしていながら、まだ身分的に低く扱われているコントラクトMRをかわいそうに思うことがしばしばある。

 今回の物語で支店長が語ったごとく「差別はしない」と口では言いながら、実際には正社員のMRに比べて、そこには大きな差別が存在しているのである。
 将来にわたってプロのMRが誕生するためにも「コントラクトMR協会」のようなコントラクトMRの地位保全を考える組織を考える必要があると筆者は思うのである。 

■著者紹介■
小原公一氏

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