2005.09.27

まだ分からない部分が多いコエンザイムQ10

 加熱したコエンザイムQ10(以下CoQ10)ブームに対して、最近は批判的な記事を目にするようになった(1、2、3)。これらの記事の中で、CoQ10のアンチエイジング効果などの科学的検証が不十分であるとの私のコメントも紹介されている。もちろん効果がないと言っているわけではない。十分な科学的根拠がない現状では、経口摂取したCoQ10に効果があるともないとも、あるいは害があるともないともいえない。だから、その利用に対して慎重であるべきだといっているのである。

 CoQ10を利用する理由としてしばしば引き合いに出されるのが、細胞中のCoQ10が加齢とともに減少したという研究論文である。CoQ10は細胞内のエネルギー産生に重要な役割を果たしているので、それが減少すれば細胞内代謝に悪影響が及ぶ。加齢とともにCoQ10が減少するのであれば、それを摂取して増やすべきだ、というのが、CoQ10の宣伝文句である。

 しかし、減ったCoQ10を経口摂取してはたして老化を防ぐことができるのだろうか。CoQ10の減少が老化の主な原因であるとすればそれを補填することに意味があるかもしれない。しかし、そうでなければCoQ10の減少は老化の結果でしかない可能性もある。閉経後にホルモン補充療法を行うことで閉経に伴う諸症状を一時的に改善させることができるが、閉経そのものを変えることができないのと同じことだ。

 老化とともに活動量は低下し、その結果として細胞内の代謝も低下するかもしれない。それに応じてエネルギー産生も低下し、必要なCoQ10量も減少しているのかもしれないのである。だとすれば、CoQ10の補給がかえって逆効果となる可能性もある。

 臓器内のCoQ10含量を年齢で比較した論文をよく読むと、高齢者において心臓、肺、脾臓などでは確かにCoQ10濃度が低下しているのだが、肝臓、腎臓ではそれほど低下していないことが分かる(4)。つまり、加齢とともに全ての臓器でCoQ10が低下するわけではなさそうである。

 しかも、脳内のCoQ10を測定した別の論文では、健常人では確かに加齢とともに脳内のCoQ10が減少するのだが、アルツハイマー病患者の脳の一部ではかえって健常人よりCoQ10は増加している(5、6)。この研究結果は、高齢者の脳であっても必要とあればCoQ10を増加させることができることを示している。あるいは、この研究結果から、CoQ10を摂取することはアルツハイマー病を引き起こすという推論を引き出すこともできる(まさかそのようなことはないと思うが)。

 他のビタミンやミネラルなどの必須の栄養素は食事からしか補給できない。それに対して、CoQ10は自分の細胞内で作ることができるため、食品からとる必要はない。必須のビタミン・ミネラルの場合、経口摂取した際にそれらが効率的に吸収され、必要な臓器に必要な量だけ供給できるようなシステムが身体に備わっているはずである。

 しかし、体内で合成しているCoQ10にはそのようなシステムは必要ないだろう。私が調べたところ、人が経口摂取した際のCoQ10の代謝や分布に関するデータは見つからなかった。唯一見つけた動物実験の論文によれば、経口摂取したCoQ10は血漿中と肝臓しか分布しなかったという(7)。これでは、CoQ10が不足したからとせっせと経口摂取したところでCoQ10を必要とする臓器に運ばれる保証はない。

 CoQ10はいろいろな意味で分からない部分が多い。企業の側も一部のデータを流用し宣伝することばかりではなく、人がCoQ10を経口摂取することにどのような意義があるかについてもっと研究を進めるべきなのだ。その成果を見てからCoQ10の摂取を考慮しても遅くはない。

■ 参考文献 ■
(1)コエンザイムQ10隠れた「逆効果」、週刊朝日4月29日号、138-141、2005年
(2)人気のサプリ危ない落とし穴、アエラ7月4日号、91-93、2005
(3)あぶない人気サプリメント、週刊文春9月8日号、50-53、2005
(4)Lipids 24:579-584、1989
(5)Biochem Cell Biol 70:422-428、1992
(6)J Neurochem 59:1646-1653、1992
(7)J Nutr 126:2089-2097、1996

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